第72話 夜の遠足
お名前設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「やーみがーせまーればーおいらのせかいー」
静かな闇夜に生徒の歌声が響く。
私は山田先生とともに、迷子や怪我人が出ないよう注意して引率していた。
夜道はまだまだ慣れない一年生。
しかし夜の遠足という響きからか、良い子達は遠足気分で歌いながら歩いていた。
「こらこら、遠足とはいえ夜間の訓練でもあるんだ。歌っていないで周りの気配をよく感じて歩きなさい。」
以前杭瀬村に行ったときのように、私は最後尾を歩き皆に見えないようにたまみの手をひいていた。
足場がよくないところは避けて歩き、躓きかける彼女の手を引っ張って支える。
柔らかい風がふき、ふと夜空を見上げてみた。
…今夜は月が明るいな…。
月明かりは忍務の邪魔になることも多いが、夜目のきかない生徒達やたまみにとってはありがたいものだった。
月…十五夜…ウサギ………
…それにしても、さっきのウサギの耳は可愛いかったな…。
学園長はなんとくだらないことを思いつくのだと呆れたが、ウサ耳をつけたたまみは正直…悪くなかった。
あんな愛らしい姿、学園の中で他の連中に見せるわけにはいかない…悪い狼が寄ってくるかもしれん。
…しかし学園長、なんであんなものを大量に持っているんだ…。
そんなことを考えながら歩いていると、山田先生がくるりとこちらを振り返った。
「土井先生、そろそろ私は先に行って下準備をしてくる。引率を頼みましたよ。」
「分かりました。ではまたあとで。」
山田先生が先頭を離れ、私が代わりに先頭にたつ。
「たまみさん、私達と手を繋ぎましょー。」
乱太郎としんべヱがたまみを気遣って手を繋いでくれた。
ちょっと心配で見ていると、きり丸もたまみの前を歩き足場の悪いところを事前に教えてくれていて…そのうち、生徒達全員が互いを助けるように躓きそうなところを教えあったり一丸となって夜道の歩行を頑張り始めた。
心優しい生徒をもったと嬉しく思いながら、私は全員の動きに気を配りながら夜道を引率していった。
暫く行くと道が開け、一面のススキが広がっていた。
「さあ着いたぞ。ここが今日の遠足の目的地だ。」
「ここでお弁当ですかぁ~?」
「弁当ではない!今からみんなで宝探しをしてもらう。」
「お宝ーっ!?」
「宝といっても金品ではないぞ。」
「え~」
「いいか、このススキ野原に四つのつづらが隠されている。お前達は四班に別れて、其々に渡された暗号を解読しながらそのつづらをここに持ってくるんだ。全部そろえばお宝…まぁご褒美だな…がもらえるぞ。」
「ご褒美って何だろう~。」
「暗号、とけるかなぁ。」
「真面目に授業を聞いていれば分かるはずだ。たまみさん、暗号を渡してやってください。」
「はい。あ、それからこれも…。」
たまみが先程のウサギの耳を風呂敷から出した。
「これ何ですかー?」
「お前たちがススキのなかで迷子にならないようにと学園長先生が用意されたものだ。皆、これをつけて行きなさい…。」
素直な良い子達は嫌がることもなく頭にウサギの耳をつけた。
確かにススキは生徒の背丈以上に高いものもあるので、長い耳がついていると一目で探しやすそうではあった。
「つづらを見つけたらここに戻るんだぞ。灯りに火を使うのはだめだ。ススキに燃え広がるといけないからな。私と山田先生が近くにいるから、何か問題があればすぐに大声をだしなさい。」
「「「「「はーい」」」」」
いつもながらいい返事。
ほんと返事だけはいいんだよなぁ…。
「では、始め!」
パンと手を叩くと、暗号を片手にそれぞれ場所を移動していった。
隣を見ると、たまみがにこにこして立っている。
「はい、土井先生もどうぞ。」
嬉しそうにウサギの耳を渡してくるが、私はそれを彼女の頭につけた。
「私はかぶらないよ。迷子にもならないし必要ない。」
「えーっ!少しだけつけてみませんか?!ちょっとだけ!」
「いやです。」
「楽しみにしてたのに~…」
「……そんな顔してもダメです。」
きゅるんと可愛い顔しておねだりするウサギな彼女に一瞬ほだされそうになったが、生徒の前であんなものをつけるわけにはいかない。
私は彼女を抱き抱えて近くの大きな木に登った。
「ほら、ここからなら皆の動きがよく見える。」
ススキ野原のなかを右往左往する生徒達。
暗号はまだちゃんと解けていないようだな…。
「みんなちゃんと見つけてくれるかなぁ。」
「実戦にはめっぽう強い方だし何とかなるでしょう。」
「今日は月が明るくてよかったですね。」
たまみが月を見上げた。
涼しい風が吹き抜けて、ススキの穂を揺らす音と共に彼女の長い髪が揺れる。
微かに笑うその横顔に、私は彼女の頭からそっと耳を外した。
不思議そうに見上げてくるたまみ。
「……何だか、ウサギの姿だと月に行ってしまいそうな気がして。」
我ながら子ども染みた発想だと思い目をそらした。
しかし、そんなことが思い浮かぶくらい、私の心の中では彼女がいつか元の世界に戻ってしまうかもしれないという危惧がくすぶっていたのかもしれない。
半分冗談、半分本気でそう言うと、たまみはキョトンとしたあと面白そうに笑った。
「じゃあそのときは土井先生も一緒にウサギになって月に行きましょう?」
またしても私の頭にかぶせようとしてくるたまみ。
「だから私はつけないと…こら、こんなところで暴れたら…!」
「わっ!」
案の定たまみがバランスを崩して木から落ちそうになり、慌てて抱き寄せる。
「まったく…困ったウサギだな。」
「えへへ、すみません…。」
たまみが笑ってごまかそうとしたとき、上から咳払いする音がした。
「オホン!!…土井先生、いまは夜間の訓練中だぞ?」
「山田先生!あはは、すみません……あ、つづらの下準備ありがとうございました。」
山田先生が苦い顔でこちらを見ていたので、私は慌てて彼女から離れて頭をかいた。
「まだ地面がぬかるんでいる箇所があったから、滑って転んだりしなければいいのだが…」
山田先生がそういいかけたとき、ススキのなかから「わぁっ!」という声がした。
「早速転んだな…。」
「そうみたいですね…。」
その後も蛇が出ただの暗号文が風に飛ばされて失くしただの生徒達から色んな声があがり、私と山田先生は対応に追われた。
そして時間はかかったものの、何とか全員がつづらを持ち帰ってきた。
「よし、皆よく見つけたな。つづらの中身を開けていいぞ。」
四班がつづらを開けて中から紙を取り出した。
「見」
「子」
「月」
「団」
「そうだ、並べ変えるとどんな言葉ができる?」
生徒達がうーんと考えるなか、しんべヱが勢いよく手をあげた。
「はーい、分かった!月見団子!!」
「正解!よく分かったなしんべヱ!」
嬉しそうに照れるしんべヱ。
そしてこれまた嬉しそうなたまみが大きな包みを出した。
「みんなよく頑張りました!今夜は十五夜だから、みんなでお月見団子をたべましょう!!」
良い子達の目が輝き、一斉に歓声があがった。
山田先生と私も目をあわせてにんまりとする。
「たくさん作ってくれたから好きなだけ食べていいぞ。」
「「「「「いっただっきまーす!!」」」」」」
11匹の子兎が仲良く並んで団子を頬張る。
その横にたまみが座り、皆を眺めながら嬉しそうに団子を食べていた。
しかしすぐに、泥だらけになった乱太郎の泥をはたいたり団子を喉につまらせそうになったしんべヱの背中をさすったり、甲斐甲斐しく皆の世話をし始めるたまみ。
山田先生がそんな彼女の姿を見て苦笑した。
「やれやれ、母さんウサギは大変そうだな。」
「はは、そうですね。」
「父さんウサギは手伝わなくていいのか。」
「だ、誰が父さんウサギですか…!」
「お前しかいないだろう。」
山田先生が面白がるように腕を組んで笑った。
私は「からかわないでください…!」と言いながら、目の前の母子ウサギが月を見ながらお団子を食べる風景を穏やかな顔で眺めていた…。
静かな闇夜に生徒の歌声が響く。
私は山田先生とともに、迷子や怪我人が出ないよう注意して引率していた。
夜道はまだまだ慣れない一年生。
しかし夜の遠足という響きからか、良い子達は遠足気分で歌いながら歩いていた。
「こらこら、遠足とはいえ夜間の訓練でもあるんだ。歌っていないで周りの気配をよく感じて歩きなさい。」
以前杭瀬村に行ったときのように、私は最後尾を歩き皆に見えないようにたまみの手をひいていた。
足場がよくないところは避けて歩き、躓きかける彼女の手を引っ張って支える。
柔らかい風がふき、ふと夜空を見上げてみた。
…今夜は月が明るいな…。
月明かりは忍務の邪魔になることも多いが、夜目のきかない生徒達やたまみにとってはありがたいものだった。
月…十五夜…ウサギ………
…それにしても、さっきのウサギの耳は可愛いかったな…。
学園長はなんとくだらないことを思いつくのだと呆れたが、ウサ耳をつけたたまみは正直…悪くなかった。
あんな愛らしい姿、学園の中で他の連中に見せるわけにはいかない…悪い狼が寄ってくるかもしれん。
…しかし学園長、なんであんなものを大量に持っているんだ…。
そんなことを考えながら歩いていると、山田先生がくるりとこちらを振り返った。
「土井先生、そろそろ私は先に行って下準備をしてくる。引率を頼みましたよ。」
「分かりました。ではまたあとで。」
山田先生が先頭を離れ、私が代わりに先頭にたつ。
「たまみさん、私達と手を繋ぎましょー。」
乱太郎としんべヱがたまみを気遣って手を繋いでくれた。
ちょっと心配で見ていると、きり丸もたまみの前を歩き足場の悪いところを事前に教えてくれていて…そのうち、生徒達全員が互いを助けるように躓きそうなところを教えあったり一丸となって夜道の歩行を頑張り始めた。
心優しい生徒をもったと嬉しく思いながら、私は全員の動きに気を配りながら夜道を引率していった。
暫く行くと道が開け、一面のススキが広がっていた。
「さあ着いたぞ。ここが今日の遠足の目的地だ。」
「ここでお弁当ですかぁ~?」
「弁当ではない!今からみんなで宝探しをしてもらう。」
「お宝ーっ!?」
「宝といっても金品ではないぞ。」
「え~」
「いいか、このススキ野原に四つのつづらが隠されている。お前達は四班に別れて、其々に渡された暗号を解読しながらそのつづらをここに持ってくるんだ。全部そろえばお宝…まぁご褒美だな…がもらえるぞ。」
「ご褒美って何だろう~。」
「暗号、とけるかなぁ。」
「真面目に授業を聞いていれば分かるはずだ。たまみさん、暗号を渡してやってください。」
「はい。あ、それからこれも…。」
たまみが先程のウサギの耳を風呂敷から出した。
「これ何ですかー?」
「お前たちがススキのなかで迷子にならないようにと学園長先生が用意されたものだ。皆、これをつけて行きなさい…。」
素直な良い子達は嫌がることもなく頭にウサギの耳をつけた。
確かにススキは生徒の背丈以上に高いものもあるので、長い耳がついていると一目で探しやすそうではあった。
「つづらを見つけたらここに戻るんだぞ。灯りに火を使うのはだめだ。ススキに燃え広がるといけないからな。私と山田先生が近くにいるから、何か問題があればすぐに大声をだしなさい。」
「「「「「はーい」」」」」
いつもながらいい返事。
ほんと返事だけはいいんだよなぁ…。
「では、始め!」
パンと手を叩くと、暗号を片手にそれぞれ場所を移動していった。
隣を見ると、たまみがにこにこして立っている。
「はい、土井先生もどうぞ。」
嬉しそうにウサギの耳を渡してくるが、私はそれを彼女の頭につけた。
「私はかぶらないよ。迷子にもならないし必要ない。」
「えーっ!少しだけつけてみませんか?!ちょっとだけ!」
「いやです。」
「楽しみにしてたのに~…」
「……そんな顔してもダメです。」
きゅるんと可愛い顔しておねだりするウサギな彼女に一瞬ほだされそうになったが、生徒の前であんなものをつけるわけにはいかない。
私は彼女を抱き抱えて近くの大きな木に登った。
「ほら、ここからなら皆の動きがよく見える。」
ススキ野原のなかを右往左往する生徒達。
暗号はまだちゃんと解けていないようだな…。
「みんなちゃんと見つけてくれるかなぁ。」
「実戦にはめっぽう強い方だし何とかなるでしょう。」
「今日は月が明るくてよかったですね。」
たまみが月を見上げた。
涼しい風が吹き抜けて、ススキの穂を揺らす音と共に彼女の長い髪が揺れる。
微かに笑うその横顔に、私は彼女の頭からそっと耳を外した。
不思議そうに見上げてくるたまみ。
「……何だか、ウサギの姿だと月に行ってしまいそうな気がして。」
我ながら子ども染みた発想だと思い目をそらした。
しかし、そんなことが思い浮かぶくらい、私の心の中では彼女がいつか元の世界に戻ってしまうかもしれないという危惧がくすぶっていたのかもしれない。
半分冗談、半分本気でそう言うと、たまみはキョトンとしたあと面白そうに笑った。
「じゃあそのときは土井先生も一緒にウサギになって月に行きましょう?」
またしても私の頭にかぶせようとしてくるたまみ。
「だから私はつけないと…こら、こんなところで暴れたら…!」
「わっ!」
案の定たまみがバランスを崩して木から落ちそうになり、慌てて抱き寄せる。
「まったく…困ったウサギだな。」
「えへへ、すみません…。」
たまみが笑ってごまかそうとしたとき、上から咳払いする音がした。
「オホン!!…土井先生、いまは夜間の訓練中だぞ?」
「山田先生!あはは、すみません……あ、つづらの下準備ありがとうございました。」
山田先生が苦い顔でこちらを見ていたので、私は慌てて彼女から離れて頭をかいた。
「まだ地面がぬかるんでいる箇所があったから、滑って転んだりしなければいいのだが…」
山田先生がそういいかけたとき、ススキのなかから「わぁっ!」という声がした。
「早速転んだな…。」
「そうみたいですね…。」
その後も蛇が出ただの暗号文が風に飛ばされて失くしただの生徒達から色んな声があがり、私と山田先生は対応に追われた。
そして時間はかかったものの、何とか全員がつづらを持ち帰ってきた。
「よし、皆よく見つけたな。つづらの中身を開けていいぞ。」
四班がつづらを開けて中から紙を取り出した。
「見」
「子」
「月」
「団」
「そうだ、並べ変えるとどんな言葉ができる?」
生徒達がうーんと考えるなか、しんべヱが勢いよく手をあげた。
「はーい、分かった!月見団子!!」
「正解!よく分かったなしんべヱ!」
嬉しそうに照れるしんべヱ。
そしてこれまた嬉しそうなたまみが大きな包みを出した。
「みんなよく頑張りました!今夜は十五夜だから、みんなでお月見団子をたべましょう!!」
良い子達の目が輝き、一斉に歓声があがった。
山田先生と私も目をあわせてにんまりとする。
「たくさん作ってくれたから好きなだけ食べていいぞ。」
「「「「「いっただっきまーす!!」」」」」」
11匹の子兎が仲良く並んで団子を頬張る。
その横にたまみが座り、皆を眺めながら嬉しそうに団子を食べていた。
しかしすぐに、泥だらけになった乱太郎の泥をはたいたり団子を喉につまらせそうになったしんべヱの背中をさすったり、甲斐甲斐しく皆の世話をし始めるたまみ。
山田先生がそんな彼女の姿を見て苦笑した。
「やれやれ、母さんウサギは大変そうだな。」
「はは、そうですね。」
「父さんウサギは手伝わなくていいのか。」
「だ、誰が父さんウサギですか…!」
「お前しかいないだろう。」
山田先生が面白がるように腕を組んで笑った。
私は「からかわないでください…!」と言いながら、目の前の母子ウサギが月を見ながらお団子を食べる風景を穏やかな顔で眺めていた…。