第28話 星
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遅い入浴から戻ると、たまみさんが廊下に座って夜空を見ていた。
あの、彼女が不安に泣いていた夜を思い出した。
しかし、彼女の瞳は真っ直ぐに星を見ていて不安に揺れている様子はなかった。
声をかけてみると、彼女は微笑んでおもむろに私の髪を拭いて櫛を通してくれた。
彼女の柔らかい指が首に当たる度、もどかしい気持ちになってくる。
「私はこの髪も大好きなんですけどね…」
突然そんなことを口にするから、私は顔に熱が集まっていくのを感じた。
当のたまみさんは気づいているのかいないのか、ゆっくりと櫛を動かしていた。
「…星を見て、何を思っていたのですか?」
「…あの星。毎晩、同じくらいの場所に見えるあの星を…私の元の世界の誰かも見ているのかなとか考えてました。」
やはり、元の世界のことを想っていたのか。
彼女にも、彼女を大切に想う家族や仲間が…彼女が大切に想う人達がいるはずだ。
記憶にないとはいえ、そのような人達と離れて一人でいることに、やはり寂しさを感じるのだろうか。
…やはり私では、それは埋められないのだろうか。
「…寂しい?」
彼女はゆっくりと首をふった。
「いえ、毎日色んなことがありすぎて…寂しいと思う暇もありません。」
「はは、それは確かにそうかもな。」
確かに、一年は組の担当をしていると日々色んなトラブルが起こり、よくも悪くも余計なことは考えなくていいようになってくる。
しかし、私にはもうひとつ気になっていることがあった。
「もし」
「?」
「もし帰れるなら…帰りたい?」
これから先、元の世界に帰る方法が見つからないとも限らない。
もし、帰るという選択肢ができたら、彼女はここを去ってしまうのだろうか。
もし、彼女が自分の家族のもとへ帰りたいのだとしたら…私は、これ以上彼女の心の中に踏み込むべきではないのかもしれないと思っていた。
私自身は…もう既に引き返せないところまできているとは思っていたが、今以上に前に進むことはしない方がいい…するべきではないと思っていた。
彼女が帰るそのときに、心の重りになるべきではないと思っていたから。
…しかし逆に、もっと彼女の心に踏み入って、もう帰りたくないと言わしめるほどに離さないようにしてしまえばいいという思いもあった。
いつもそのせめぎ合いで心は揺れている。
進むことも戻ることもできず、ただ毎日を彼女と過ごすこの日常に甘んじて流されている自分がいた。
そしてふと、彼女が先日歌っていた子守唄を思い出す。
その慣れた抱き方、あの唄に、もしかしたら彼女には子どもがいたのかもしれないとさえ思った。
そうではなくても、もしかすると彼女にはすでに愛する人がいたのかもしれない。
もし記憶が戻ったとき、私がいては彼女が苦しい思いをすることがあるのではないだろうか。
…そんな答えの出ない色んな思いが、いつも私の心を締めつけていた。
「いいえ…。ここはとても居心地がよくて。今はみんなと…土井先生とここに居たいと思います。」
今は。
…そう、先のことは誰にも分からない。
……ならばいっそ、彼女のように、今の自分の気持ちに正直に率直になってもいいのかもしれない。
「たまみさん…」
私は手を伸ばして彼女の右手の上に重ねた。
柔らかくて小さな手。
すると、彼女は私の腕にそっともたれかかってきた。
…彼女を離したくない。
私は握りしめた手に力を入れた。
「…あの大きな星が土井先生としたら、その周りのあの小さな星が一年は組のみんなですね。同じくらいの時間に同じ場所に現れる…みんないつも一緒にいてる星。」
たまみさんが穏やかに言う。
その声に日々どれだけ癒されてきただろう。
「じゃあたまみさんはあの星かな。…きみもいつも一緒だ。」
いつも一緒。
そうであってほしいという願いを込めて言った。
「星には天からのメッセージが込められているって考えがあってね。星を見て先の運命を占ったり政治的判断を委ねたりするところもあるらしい。私は星を読みとくことはできないけど、我々もあの星達のようにこうやって…共に輝けたらいいなと思う…。」
そうだ。
今このときを共に過ごせることを大切にしよう。
過去に彼女に何があったか、誰とどのようにして生きてきたのか、そんなことは関係ない。
ここに彼女がいる限り…この世界で彼女を守るのは私で在りたい。
「好きだなぁ…」
!!
驚いてたまみさんを見やると、彼女は慌てて「あ、星がですよ!?」と付け足した。
…その素直さに、真っ直ぐで迷わない想いに、私の自制心はそのうちきかなくなってしまうかもしれない…。
「それは残念。」
つい口をついて出た私の言葉に、たまみさんは赤くなって黙りこんだ。
そんな彼女が可愛くて、私は星も見ずずっと彼女を眺めていた。
あの、彼女が不安に泣いていた夜を思い出した。
しかし、彼女の瞳は真っ直ぐに星を見ていて不安に揺れている様子はなかった。
声をかけてみると、彼女は微笑んでおもむろに私の髪を拭いて櫛を通してくれた。
彼女の柔らかい指が首に当たる度、もどかしい気持ちになってくる。
「私はこの髪も大好きなんですけどね…」
突然そんなことを口にするから、私は顔に熱が集まっていくのを感じた。
当のたまみさんは気づいているのかいないのか、ゆっくりと櫛を動かしていた。
「…星を見て、何を思っていたのですか?」
「…あの星。毎晩、同じくらいの場所に見えるあの星を…私の元の世界の誰かも見ているのかなとか考えてました。」
やはり、元の世界のことを想っていたのか。
彼女にも、彼女を大切に想う家族や仲間が…彼女が大切に想う人達がいるはずだ。
記憶にないとはいえ、そのような人達と離れて一人でいることに、やはり寂しさを感じるのだろうか。
…やはり私では、それは埋められないのだろうか。
「…寂しい?」
彼女はゆっくりと首をふった。
「いえ、毎日色んなことがありすぎて…寂しいと思う暇もありません。」
「はは、それは確かにそうかもな。」
確かに、一年は組の担当をしていると日々色んなトラブルが起こり、よくも悪くも余計なことは考えなくていいようになってくる。
しかし、私にはもうひとつ気になっていることがあった。
「もし」
「?」
「もし帰れるなら…帰りたい?」
これから先、元の世界に帰る方法が見つからないとも限らない。
もし、帰るという選択肢ができたら、彼女はここを去ってしまうのだろうか。
もし、彼女が自分の家族のもとへ帰りたいのだとしたら…私は、これ以上彼女の心の中に踏み込むべきではないのかもしれないと思っていた。
私自身は…もう既に引き返せないところまできているとは思っていたが、今以上に前に進むことはしない方がいい…するべきではないと思っていた。
彼女が帰るそのときに、心の重りになるべきではないと思っていたから。
…しかし逆に、もっと彼女の心に踏み入って、もう帰りたくないと言わしめるほどに離さないようにしてしまえばいいという思いもあった。
いつもそのせめぎ合いで心は揺れている。
進むことも戻ることもできず、ただ毎日を彼女と過ごすこの日常に甘んじて流されている自分がいた。
そしてふと、彼女が先日歌っていた子守唄を思い出す。
その慣れた抱き方、あの唄に、もしかしたら彼女には子どもがいたのかもしれないとさえ思った。
そうではなくても、もしかすると彼女にはすでに愛する人がいたのかもしれない。
もし記憶が戻ったとき、私がいては彼女が苦しい思いをすることがあるのではないだろうか。
…そんな答えの出ない色んな思いが、いつも私の心を締めつけていた。
「いいえ…。ここはとても居心地がよくて。今はみんなと…土井先生とここに居たいと思います。」
今は。
…そう、先のことは誰にも分からない。
……ならばいっそ、彼女のように、今の自分の気持ちに正直に率直になってもいいのかもしれない。
「たまみさん…」
私は手を伸ばして彼女の右手の上に重ねた。
柔らかくて小さな手。
すると、彼女は私の腕にそっともたれかかってきた。
…彼女を離したくない。
私は握りしめた手に力を入れた。
「…あの大きな星が土井先生としたら、その周りのあの小さな星が一年は組のみんなですね。同じくらいの時間に同じ場所に現れる…みんないつも一緒にいてる星。」
たまみさんが穏やかに言う。
その声に日々どれだけ癒されてきただろう。
「じゃあたまみさんはあの星かな。…きみもいつも一緒だ。」
いつも一緒。
そうであってほしいという願いを込めて言った。
「星には天からのメッセージが込められているって考えがあってね。星を見て先の運命を占ったり政治的判断を委ねたりするところもあるらしい。私は星を読みとくことはできないけど、我々もあの星達のようにこうやって…共に輝けたらいいなと思う…。」
そうだ。
今このときを共に過ごせることを大切にしよう。
過去に彼女に何があったか、誰とどのようにして生きてきたのか、そんなことは関係ない。
ここに彼女がいる限り…この世界で彼女を守るのは私で在りたい。
「好きだなぁ…」
!!
驚いてたまみさんを見やると、彼女は慌てて「あ、星がですよ!?」と付け足した。
…その素直さに、真っ直ぐで迷わない想いに、私の自制心はそのうちきかなくなってしまうかもしれない…。
「それは残念。」
つい口をついて出た私の言葉に、たまみさんは赤くなって黙りこんだ。
そんな彼女が可愛くて、私は星も見ずずっと彼女を眺めていた。