第27話 用具委員会
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用具委員長こと俺、食満留三郎は今日も修繕作業に追われていた。
壁やら屋根やら廊下やら備品やら、破壊する奴等が多すぎる。
そもそも予算も人手も足りていないから困ったものだ。
「ん?」
用具倉庫から物音がする。
誰かいるのか?
覗いてみると、1年は組補佐のたまみさんがいた。
こんなところに珍しい。
「あの、どうかしましたか?」
「ぅわっ!」
たまみさんは俺の声にビックリしたのか変な声を出して驚き、俺を見て恥ずかしそうに笑った。
「実は、はしごを戻そうとしたら上の棚の箱をひっかけて落としちゃって…。」
見ると、確かに床には色んな道具が散乱していた。
「怪我はありませんでしたか?」
「うん、でもどれがどこに入ってたか分からなくなってしまって。」
「ああ、この辺のはこっちの箱で…」
俺は彼女と一緒に道具を片付け始めた。
「一人でどうしようかと焦ってたから…ありがとう。」
「いえ、はしごに引っかかるような所へ箱を片付けたのが悪いんですよ、気にしないでください。」
「修繕道具持って…どこか直しに行くとこだった?」
「はい、直しても直してもきりがないんですけどね。」
「大変そう…そういえば、しんべヱくんも喜三太くんも、食満先輩は優しくて大好きだって言ってたよ。」
「えっ」
「食満くんがいるから用具委員会の子達は忙しくても頑張れるんじゃない。」
「いや…そんな、大したことしてないですよ。」
あいつらそんなことを。
嬉しい気恥ずかしくなる。
「ところで、この用具倉庫の中って不思議なものがたくさんあるよね。」
「不思議なもの?」
「うん、使い方がよく分からないものが…。このアヒルとか。」
「ああ、それはボートの…」
話してみると、たまみさんは忍具だけでなく日常で使うものや農具についても知らなかった。
そういえば記憶が欠けていると聞いたのを思いだし一つ一つ説明していく。
彼女はそれを真剣に聞いていたが、俺は少し疑問に思った。
こんなに知らないことが多いなんて、まるで記憶がないというよりは元々知らないような…そんな印象を受けた。
実はどこかの貴族として育ったとか外国から来たとか。
…いや、貴族ではないな…そういう洗練された雰囲気はない。
学園長の親戚だと言っていたが本当なのだろうか。
「まだ記憶は戻らないんですか?」
「え…」
「日常使うものまで覚えていないのは大変でしょう。」
少し鎌をかけてみた。
たまみさんはゆっくり頷いて、自分の手を見つめた。
「うん…分からないことばかりで皆にも迷惑かけちゃって…。」
俯ききゅっと唇を噛む。
悲しげな自責の表情…その目に嘘はなかった。
迷惑をかけていると気にしていたのか…。
「誰も迷惑だなんて思っていませんよ。」
俺は片付ける手を止めて彼女の方を見た。
「記憶があろうとなかろうと、食堂のおばちゃんも土井先生も、あなたのおかげで随分助かっていると思いますよ。」
そう言うと、たまみさんは驚いたあと嬉しそうに微笑んだ。
「そう言ってもらえると、嬉しいな…。食満くんは優しいねぇ…後輩に慕われる理由が分かるなぁ。」
「べ、別に、優しいとかそんなんじゃなくて…!」
俺が慌てて否定すると、たまみさんは穏やかに微笑んだ。
それを見て、俺もつられて笑っていた。
…居心地がいい。
そう感じた。
この穏やかな雰囲気も、ふだん見せない弱さも、なんというか守ってあげたくなる…そんな気持ちになった。
しかし、いつぞやの伊作の言葉が思い出された。
『それが土井先生すごい殺気でさぁ。そんなにやきもちやかなくても大丈夫なのに。』
「…たまみさん。」
「ん?」
「たまみさんって、土井先生と…」
「え?」
「…いえ、なんでもありません。」
聞きかけてやめた。
日頃の様子を見る限り、二人が恋仲というわけではなさそうだ。
…相手にとって不足はない。
「!?」
不足ってなんだ。
相手って。
「……たまみさん、用具委員会に入りませんか?」
「えっ!?」
「力仕事はしなくていいので、時間があるときにこうして道具のことも知ることができますし…人手も足りないので、もしよければ。」
自分でも突然だと思ったが、少しでも接点がほしくてそう言った。
たまみさんは戸惑っていた。
確かに彼女は一年は組の補佐と食堂のお手伝いで忙しそうにしている。
委員会に入る余裕はなかったか。
「うーん…ちょっと考えさせてほしいから…また、今度改めてお返事するね。」
彼女は困ったように笑った。
「もしお時間があればでいいので。まだ慣れないこともたくさんあるでしょうし、ゆっくり考えといてください。」
気をつかわないように微笑みかけると、彼女もにっこりと笑い返してくれた。
…今は、これでいい。
そうして俺達はゆっくりと用具倉庫を出た。
壁やら屋根やら廊下やら備品やら、破壊する奴等が多すぎる。
そもそも予算も人手も足りていないから困ったものだ。
「ん?」
用具倉庫から物音がする。
誰かいるのか?
覗いてみると、1年は組補佐のたまみさんがいた。
こんなところに珍しい。
「あの、どうかしましたか?」
「ぅわっ!」
たまみさんは俺の声にビックリしたのか変な声を出して驚き、俺を見て恥ずかしそうに笑った。
「実は、はしごを戻そうとしたら上の棚の箱をひっかけて落としちゃって…。」
見ると、確かに床には色んな道具が散乱していた。
「怪我はありませんでしたか?」
「うん、でもどれがどこに入ってたか分からなくなってしまって。」
「ああ、この辺のはこっちの箱で…」
俺は彼女と一緒に道具を片付け始めた。
「一人でどうしようかと焦ってたから…ありがとう。」
「いえ、はしごに引っかかるような所へ箱を片付けたのが悪いんですよ、気にしないでください。」
「修繕道具持って…どこか直しに行くとこだった?」
「はい、直しても直してもきりがないんですけどね。」
「大変そう…そういえば、しんべヱくんも喜三太くんも、食満先輩は優しくて大好きだって言ってたよ。」
「えっ」
「食満くんがいるから用具委員会の子達は忙しくても頑張れるんじゃない。」
「いや…そんな、大したことしてないですよ。」
あいつらそんなことを。
嬉しい気恥ずかしくなる。
「ところで、この用具倉庫の中って不思議なものがたくさんあるよね。」
「不思議なもの?」
「うん、使い方がよく分からないものが…。このアヒルとか。」
「ああ、それはボートの…」
話してみると、たまみさんは忍具だけでなく日常で使うものや農具についても知らなかった。
そういえば記憶が欠けていると聞いたのを思いだし一つ一つ説明していく。
彼女はそれを真剣に聞いていたが、俺は少し疑問に思った。
こんなに知らないことが多いなんて、まるで記憶がないというよりは元々知らないような…そんな印象を受けた。
実はどこかの貴族として育ったとか外国から来たとか。
…いや、貴族ではないな…そういう洗練された雰囲気はない。
学園長の親戚だと言っていたが本当なのだろうか。
「まだ記憶は戻らないんですか?」
「え…」
「日常使うものまで覚えていないのは大変でしょう。」
少し鎌をかけてみた。
たまみさんはゆっくり頷いて、自分の手を見つめた。
「うん…分からないことばかりで皆にも迷惑かけちゃって…。」
俯ききゅっと唇を噛む。
悲しげな自責の表情…その目に嘘はなかった。
迷惑をかけていると気にしていたのか…。
「誰も迷惑だなんて思っていませんよ。」
俺は片付ける手を止めて彼女の方を見た。
「記憶があろうとなかろうと、食堂のおばちゃんも土井先生も、あなたのおかげで随分助かっていると思いますよ。」
そう言うと、たまみさんは驚いたあと嬉しそうに微笑んだ。
「そう言ってもらえると、嬉しいな…。食満くんは優しいねぇ…後輩に慕われる理由が分かるなぁ。」
「べ、別に、優しいとかそんなんじゃなくて…!」
俺が慌てて否定すると、たまみさんは穏やかに微笑んだ。
それを見て、俺もつられて笑っていた。
…居心地がいい。
そう感じた。
この穏やかな雰囲気も、ふだん見せない弱さも、なんというか守ってあげたくなる…そんな気持ちになった。
しかし、いつぞやの伊作の言葉が思い出された。
『それが土井先生すごい殺気でさぁ。そんなにやきもちやかなくても大丈夫なのに。』
「…たまみさん。」
「ん?」
「たまみさんって、土井先生と…」
「え?」
「…いえ、なんでもありません。」
聞きかけてやめた。
日頃の様子を見る限り、二人が恋仲というわけではなさそうだ。
…相手にとって不足はない。
「!?」
不足ってなんだ。
相手って。
「……たまみさん、用具委員会に入りませんか?」
「えっ!?」
「力仕事はしなくていいので、時間があるときにこうして道具のことも知ることができますし…人手も足りないので、もしよければ。」
自分でも突然だと思ったが、少しでも接点がほしくてそう言った。
たまみさんは戸惑っていた。
確かに彼女は一年は組の補佐と食堂のお手伝いで忙しそうにしている。
委員会に入る余裕はなかったか。
「うーん…ちょっと考えさせてほしいから…また、今度改めてお返事するね。」
彼女は困ったように笑った。
「もしお時間があればでいいので。まだ慣れないこともたくさんあるでしょうし、ゆっくり考えといてください。」
気をつかわないように微笑みかけると、彼女もにっこりと笑い返してくれた。
…今は、これでいい。
そうして俺達はゆっくりと用具倉庫を出た。