忍術学園への帰り道。

夕日が傾きかけた林道で、私は土井先生の横を名残惜しい気持ちで歩いていた。
さっきは虫のせいで騒いで迷惑をかけてしまったけれど、二人でご飯を一緒に作って食べたのがとても嬉しかった。
初めて土井先生のお家に行くことができたのも嬉しかったし、終始優しい笑顔の土井先生と穏やかな時間を過ごすことができて満ち足りた気持ちになった。

ふいに、土井先生が立ち止まり地面に落ちている石をいくつか拾った。

「どうしたんですか？」

「…念のためです。」

土井先生は前方を見据えて、私の少し前を歩くようにして進みだした。
少しすると前から３人の男性が歩いてきた。
柄の悪そうなその男性達は、こちらを見ると何やら話して下卑た笑いを浮かべた。

「よぉ兄ちゃん、可愛い子連れてるじゃねぇか。俺達にもちょっと貸してくれよ。」

「命が惜しかったら、その娘を置いてとっとと消えな。」

土井先生が私を庇うように前に立った。

「断る。そっちこそ怪我をしたくなかったら大人しく道をあけろ。」

「なにぃ？３人相手に勝てると思うのか。」

男の一人が土井先生に殴りかかった。
土井先生は軽々とそれをかわし、男の首に手刀をきめた。
男は言葉もなく地に伏した。

「あと２人だな。」

低く冷たいその声に男達は怯んだように見えたが、引くに引けずまとめて襲いかかってきた。
土井先生は先程拾った石を男達の額に投げ、その足がとまった隙に残りの二人にも手刀をきめた。
男達は意識を失って地面に倒れた。

圧倒的な強さだった。

「大丈夫？」

驚いて見ていると、土井先生がいつものように優しく尋ねてくれた。
私は咄嗟に言葉が出ず、こくこくと頷いた。

「すまない、怖かったかな。」

土井先生が心配そうに顔を覗きこんできた。

「いえっ、その…土井先生が強くてびっくりして…や、お強いのは知ってたんですけど…！」

土井先生の勇姿に見とれていましたとは言えず、しどろもどろに曖昧な返事をした。
土井先生は少し何かを考えたあと、

「しばらく起きないと思うけど、もし後を追われたら面倒だから…」

そう言うと、突然私を横抱きに抱えた。

「えっ！？」

「ちょっと走りますよ。」

土井先生は私を抱いたまま勢いよく走り出した。

「ど、土井先生！わたし重たいですから…！」

「これくらい何てことないですよ。」

結局、土井先生は息ひとつ乱さずに学園の前まで私を抱いて走り続けた。
私は揺れる土井先生の腕のなかで、昼間の優しい先生も今の強くて頼もしい先生もどっちも素敵だなと…むしろそのギャップが…などと一人ドキドキしていたのだった。