第22話 初めての雑炊
お名前設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「いらっしゃい!今日は菜の花が安いよ!」
隣で野菜を選んでいるたまみさんを見ていると、何だか嬉しいようなこそばゆいような気持ちになった。
一緒にご飯の材料を買いに来た、たったそれだけのことなのに、心が弾んでいる自分がいた。
「春の山菜の雑炊にしましょうか?」
たまみさんがのんびりと聞いてくる。
「いいですね」と返す自分の声も至極穏やかなものだった。
野菜とお米を片手に持ち、彼女の隣を歩く。
そんなことが、なぜかとても嬉しかった。
家に戻って水をくむと、たまみさんがきょろきょろと何かを探していた。
「ああ、包丁ならここにありますよ。」
「あ、ありがとうございます。」
たまみさんが野菜を切っていく。
私は横に並んでお米をとぐことにした。
「………」
忍術学園の食堂ではなく、私の家でたまみさんが料理をしている…しかも2人きりで一緒に並んで……。
彼女はどう思っているのかなと横目に観察してみる。
真剣な彼女の表情が可愛らしいと思った。
不馴れな調理場に戸惑いつつも野菜を扱う手つきは自然で、日々忍術学園の食堂のお手伝いを頑張っている様子が伺えた。
「…食堂の仕事には慣れましたか?」
「まだまだですけど、食堂のおばちゃんが色々教えてくれるので勉強になります。」
「食堂のおばちゃんもたまみさんはメモもとったり真面目で覚えが早いと褒めてましたよ。」
そう言うとたまみさんは照れながら嬉しそうに笑った。
それから火をおこし鍋を火にかけて、出来上がるまで他愛もない話をした。
ただ雑談をしている、それだけなのにとても楽しく感じた。
滅多に女性など入らないこの家に、たまみさんとこうして座っていることが信じられなくて…彼女がいるだけで家のなかの空気が違う気がした。
「そろそろできたかなぁ」
たまみさんが鍋の蓋をあけると、くつくつと雑炊の煮立つ音がして湯気があがった。
美味しそうな香りが広がる。
たまみさんはおたまで中身をかき混ぜると、にっこりと頷いて「いけそうです」と言いながらお椀によそってくれた。
「はい、どうぞ。お口にあえばいいのですが…熱いので気をつけてください。」
「ありがとうございます。…いただきます。」
さましながらゆっくりと口に入れた雑炊は、優しい味付けでとても美味しかった。
「うん、美味しい。」
「ほんとですか!?よかったぁ…!」
たまみさんは自分も雑炊に口をつけると、うんうんと頷いた。
「実は、食堂でお手伝いしてますが一から全部調理したことはまだなくて…。これが、初めてなんです。」
彼女はそう言って恥ずかしそうに笑った。
私の家で
私の為だけに
初めての手料理を…。
「……ありがとう。」
その一言に色んな気持ちを込めた。
伝わったのかは分からないが、たまみさんはとても嬉しそうにはにかんで笑った。
2人で温かい雑炊を食べながら、私は気持ちまで温かくなって、幸せをかみしめていた。
「そろそろ学園に戻らないと日が暮れてしまいそうですね。」
名残惜しい気持ちで片付けをする。
そのとき、窓から一匹の小さな蛾が入ってきた。
たまみさんは虫が苦手だったな…。
手で外へ追い払おうとしたら逆に彼女の方へ飛んでいってしまった。
「あ、蛾が…」
「えっ!?」
彼女はびっくりして勢いよく振り返った。
長い髪がその勢いでびゅんっと空をきる。
「!?」
すると、蛾の姿が見えなくなった。
「…ひっ、やぁぁぁっ!!」
「!??」
「せっ、背中に、虫がっっ…!!!」
「えぇっ!?」
蛾が髪に当たったのか着物の後ろ襟から背中に入ってしまったらしい。
泣きそうな顔で助けを求められるが、どうしたらよいのかと迷っていると
「いやぁぁっ!」
たまみさんがおもむろに帯をほどいた。
「えっ!ちょっ…!」
「取って…!取ってくださいっ!!」
「!!」
たまみさんはこちらに背中を向け、するりと着物を腰まで下げた。
白く滑らかな背中があらわになり、思わず息をのむ。
すると、脱いだ着物から蛾が自ら飛んで窓の外へ出ていくのが見えた。
「……と、とんでいきましたよ。」
「…も、もう、いないですか?」
泣きそうなか細い声
荒い息に震える華奢な腕
白く艶かしい背中…
「…どい、せんせ?」
たまみさんが涙に濡れた瞳でこちらを振り返った。
落ち着け。
…他意はない。
そう、他意はないはずだ。
もう大丈夫だと声をかけて、着物を着せてやるんだ…!
頭ではそう思っていても、言葉が出なかった。
ごくりと唾を飲み込んで、私は彼女の着物に手をかけた。
「…せんせ?」
震えながらはだけた白い胸元を手で隠し、涙目でこちらを振り返る。
途中まで脱いだ着物が、柔らかそうな白い肌が、劣情を煽った。
これは、もう…
わざとなのか!?
着物を着せてやろうと触れたはずなのに。
私の手が逆の動きを…更に布を降ろそうとした。
そのとき。
「半助!叫び声がしたけど大丈夫かい!?」
「ッ!?」
隣のおばちゃんが戸を叩いた。
私はビックリして勢いよくたまみさんの着物を肩まで上げた。
「だ、大丈夫ですっ!ちょっと虫がいただけで…!」
「そうかい、また長屋が爆発するような物騒なことはやめとくれよ。」
「大丈夫です、はは…」
おばちゃんは納得して帰ってくれたようだ。
…気まずい。
ゆっくりたまみさんを顧みれば、彼女はもう身なりをきちんと整えて「お騒がせしてすみませんでした」と恥ずかしそうに笑っていた。
「いえ、とんだ悪い虫でしたね…」
むしろそれは自分のことではないかとため息をつきながら…名残惜しくも私達は学園に戻る準備をした。
隣で野菜を選んでいるたまみさんを見ていると、何だか嬉しいようなこそばゆいような気持ちになった。
一緒にご飯の材料を買いに来た、たったそれだけのことなのに、心が弾んでいる自分がいた。
「春の山菜の雑炊にしましょうか?」
たまみさんがのんびりと聞いてくる。
「いいですね」と返す自分の声も至極穏やかなものだった。
野菜とお米を片手に持ち、彼女の隣を歩く。
そんなことが、なぜかとても嬉しかった。
家に戻って水をくむと、たまみさんがきょろきょろと何かを探していた。
「ああ、包丁ならここにありますよ。」
「あ、ありがとうございます。」
たまみさんが野菜を切っていく。
私は横に並んでお米をとぐことにした。
「………」
忍術学園の食堂ではなく、私の家でたまみさんが料理をしている…しかも2人きりで一緒に並んで……。
彼女はどう思っているのかなと横目に観察してみる。
真剣な彼女の表情が可愛らしいと思った。
不馴れな調理場に戸惑いつつも野菜を扱う手つきは自然で、日々忍術学園の食堂のお手伝いを頑張っている様子が伺えた。
「…食堂の仕事には慣れましたか?」
「まだまだですけど、食堂のおばちゃんが色々教えてくれるので勉強になります。」
「食堂のおばちゃんもたまみさんはメモもとったり真面目で覚えが早いと褒めてましたよ。」
そう言うとたまみさんは照れながら嬉しそうに笑った。
それから火をおこし鍋を火にかけて、出来上がるまで他愛もない話をした。
ただ雑談をしている、それだけなのにとても楽しく感じた。
滅多に女性など入らないこの家に、たまみさんとこうして座っていることが信じられなくて…彼女がいるだけで家のなかの空気が違う気がした。
「そろそろできたかなぁ」
たまみさんが鍋の蓋をあけると、くつくつと雑炊の煮立つ音がして湯気があがった。
美味しそうな香りが広がる。
たまみさんはおたまで中身をかき混ぜると、にっこりと頷いて「いけそうです」と言いながらお椀によそってくれた。
「はい、どうぞ。お口にあえばいいのですが…熱いので気をつけてください。」
「ありがとうございます。…いただきます。」
さましながらゆっくりと口に入れた雑炊は、優しい味付けでとても美味しかった。
「うん、美味しい。」
「ほんとですか!?よかったぁ…!」
たまみさんは自分も雑炊に口をつけると、うんうんと頷いた。
「実は、食堂でお手伝いしてますが一から全部調理したことはまだなくて…。これが、初めてなんです。」
彼女はそう言って恥ずかしそうに笑った。
私の家で
私の為だけに
初めての手料理を…。
「……ありがとう。」
その一言に色んな気持ちを込めた。
伝わったのかは分からないが、たまみさんはとても嬉しそうにはにかんで笑った。
2人で温かい雑炊を食べながら、私は気持ちまで温かくなって、幸せをかみしめていた。
「そろそろ学園に戻らないと日が暮れてしまいそうですね。」
名残惜しい気持ちで片付けをする。
そのとき、窓から一匹の小さな蛾が入ってきた。
たまみさんは虫が苦手だったな…。
手で外へ追い払おうとしたら逆に彼女の方へ飛んでいってしまった。
「あ、蛾が…」
「えっ!?」
彼女はびっくりして勢いよく振り返った。
長い髪がその勢いでびゅんっと空をきる。
「!?」
すると、蛾の姿が見えなくなった。
「…ひっ、やぁぁぁっ!!」
「!??」
「せっ、背中に、虫がっっ…!!!」
「えぇっ!?」
蛾が髪に当たったのか着物の後ろ襟から背中に入ってしまったらしい。
泣きそうな顔で助けを求められるが、どうしたらよいのかと迷っていると
「いやぁぁっ!」
たまみさんがおもむろに帯をほどいた。
「えっ!ちょっ…!」
「取って…!取ってくださいっ!!」
「!!」
たまみさんはこちらに背中を向け、するりと着物を腰まで下げた。
白く滑らかな背中があらわになり、思わず息をのむ。
すると、脱いだ着物から蛾が自ら飛んで窓の外へ出ていくのが見えた。
「……と、とんでいきましたよ。」
「…も、もう、いないですか?」
泣きそうなか細い声
荒い息に震える華奢な腕
白く艶かしい背中…
「…どい、せんせ?」
たまみさんが涙に濡れた瞳でこちらを振り返った。
落ち着け。
…他意はない。
そう、他意はないはずだ。
もう大丈夫だと声をかけて、着物を着せてやるんだ…!
頭ではそう思っていても、言葉が出なかった。
ごくりと唾を飲み込んで、私は彼女の着物に手をかけた。
「…せんせ?」
震えながらはだけた白い胸元を手で隠し、涙目でこちらを振り返る。
途中まで脱いだ着物が、柔らかそうな白い肌が、劣情を煽った。
これは、もう…
わざとなのか!?
着物を着せてやろうと触れたはずなのに。
私の手が逆の動きを…更に布を降ろそうとした。
そのとき。
「半助!叫び声がしたけど大丈夫かい!?」
「ッ!?」
隣のおばちゃんが戸を叩いた。
私はビックリして勢いよくたまみさんの着物を肩まで上げた。
「だ、大丈夫ですっ!ちょっと虫がいただけで…!」
「そうかい、また長屋が爆発するような物騒なことはやめとくれよ。」
「大丈夫です、はは…」
おばちゃんは納得して帰ってくれたようだ。
…気まずい。
ゆっくりたまみさんを顧みれば、彼女はもう身なりをきちんと整えて「お騒がせしてすみませんでした」と恥ずかしそうに笑っていた。
「いえ、とんだ悪い虫でしたね…」
むしろそれは自分のことではないかとため息をつきながら…名残惜しくも私達は学園に戻る準備をした。