第3話 月
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「ここが一年は組の教室です。」
土井先生が忍術学園の中を順に案内してくれた。
学年や組、学園の規則等々についても優しく丁寧に教えてくれて、その分かりやすさにさすが先生だなぁと思った。
人に会ったらどう振る舞えばいいかと緊張したけれど、まだ新学期前らしく生徒の姿を見かけることはなかった。
「こちらが食堂で、皆ここに集まって食事を食べます。」
「そうなんですか…いいにおいがしますね。」
カウンターの奥を見ると厨房に女性が立っていた。
挨拶をすべきかと思ったとき、土井先生がスッと前に出て「食堂のおばちゃん。」と声をかけた。
すると女性がこちらを振り返り驚いた顔をする。
「あら、土井先生。…そちらの方は?」
食堂のおばちゃんと呼ばれた女性が不思議そうにこちらを見たので、私はぺこりと頭を下げた。
「えっと、たまみと申します。今日からこちらでお世話になることになりまして…よろしくお願いします!」
「たまみさんは学園長先生の親戚なんですけど、戦に巻き込まれて記憶が色々欠けてしまったみたいで。リハビリも兼ねてここで働くことになったんです。」
土井先生が横から付け加えてくれた。
何だか本当の事みたいに聞こえるからすごい。
食堂のおばちゃんは疑う素振りもなく気の毒そうな顔をして私を見た。
「あらそうなの…それは大変だったわねぇ。分からないことがあれば気軽に言ってちょうだいね。」
とても気さくな雰囲気でニッコリと微笑む姿に親切そうな女性だと感じた。
「ありがとうございます」と返しつつ、本当のことが言えない後ろめたさを感じる。
それにしても、この学校の人達は温かい人ばかりで…涙が出そうになった。
「ちょうどご飯ができたところなんだけど、食べていく?」
いまはご飯時だったのか。
聞かれて初めて、そういえばお腹がすいていることに気がついた。
こんな時でもお腹はすくんだなと驚く反面、自分がいまここに生きているのだとある意味実感した。
でも、学園の案内をしてくれている途中だしいいのかな…。
ちらりと土井先生を伺い見ると、彼はにこりと微笑み頷いた。
「じゃあ続きは食べてからにしましょう。」
「はい…!」
空腹を察してくれたのが嬉しいような恥ずかしいような複雑な気持ちになった。
すると、食堂のおばちゃんが厨房の奥に戻ったのを見計らい、土井先生が声をおとして小声で囁いた。
「たまみさん」
「はい?」
土井先生は真剣な表情で食堂のおばちゃんから視線を外さず私に話しかけていた。
なんだろう、何かしてしまったのかな…
「苦手な食べ物はありますか?」
「え?」
「食べられないものとか…」
「食べられないもの?」
「はい。食堂のおばちゃんはお残しを許さないので…。」
優しいお気遣いだなと思ったけれど、土井先生の表情はやはり真剣なものだったので、私も真剣に答えることにした。
「うーん……ん…?…あれ、何かある気がするのですが…すみません、こんなことすら思い出せないみたいで……。」
「そうですか…。もしあれば言ってください。代わりに私がこっそり食べますから。」
「ありがとうございます。…土井先生は何かお嫌いなんですか?」
「わ…私は…その、練り物がちょっと…」
眉をハの字にして苦笑しながら頭をかく土井先生。
真面目で優しい先生だと思ったけれど、練り物が苦手だとはにかむ可愛らしい一面もあるのだなとつい微笑んでしまった。
「じゃあ、もし練り物があれば私が食べて差し上げますね。」
「あはは…ありがとうございます。」
「何をこそこそ話しているの?」
お膳を手にした食堂のおばちゃんがこちらへ歩いてきた。
土井先生が慌ててぶんぶんと手のひらを振る。
「いいいいえ!何でもありません!」
「そう?はい、おまちどおさま!」
食堂のおばちゃんがにこにことお膳を出してくれた。
「ありがとうございます。美味しそう…!」
「ゆっくり食べていってね。」
ぺこりと頭を下げ、促されるまま土井先生の対面の席に座った。
「「いただきます」」
この世界で初めての食事。
ご飯と煮物とお味噌汁…薄味なのにとっても美味しくて、あっという間に食べてしまった。
ふと視線に気づいて顔をあげると、土井先生がニコニコとこちらを見ていた。
「たまみさんって、嬉しそうに食べますね。」
「えっ、そうですか?」
「いい食べっぷりで、見ていて気持ちいいですよ。」
それって、褒められているのか笑われているというか子ども扱いされているのか…。
とりあえず笑ってごまかしてみると、食堂のおばちゃんがお茶を持ってきてくれた。
「土井先生、嬉しそうね。」
「えっ!?いや、別に私は…!」
「最初たまみちゃんを見たとき、土井先生がイイ人を連れてきたのかと思ったわ。」
「そ、そんなわけないでしょうっ!」
土井先生は真っ赤になって否定した。
当たり前なんだけど、そんなに必死に否定されるとなぜか傷つく…。
「土井先生って、そんなに格好いいのに…そういう方はいないんですか?」
一瞬、土井先生の動きが止まった。
食堂のおばちゃんが腕を組んでうんうんと頷く。
「そうなのよぉ。忍者としての腕前も一流なのに奥手なんだから…!」
「そうなんですかぁ、勿体ない…」
オホン!と土井先生が咳払いをした。
しまった、うっかり思ったままを口にしてしまった。
失礼だっただろうか。
「さ、続き行きますよ!」
ガタンと立ち上がった土井先生はすぐに後ろを向いて表情が見えなかった。
気を悪くさせてしまった…?
けれど、土井先生の耳は真っ赤になっていて。
食堂のおばちゃんも笑っていた。
…もしかして、照れてる?
思わず可愛いと思ってしまったが、言葉にはせず私はおばちゃんにお辞儀をして食堂を出た。
土井先生が忍術学園の中を順に案内してくれた。
学年や組、学園の規則等々についても優しく丁寧に教えてくれて、その分かりやすさにさすが先生だなぁと思った。
人に会ったらどう振る舞えばいいかと緊張したけれど、まだ新学期前らしく生徒の姿を見かけることはなかった。
「こちらが食堂で、皆ここに集まって食事を食べます。」
「そうなんですか…いいにおいがしますね。」
カウンターの奥を見ると厨房に女性が立っていた。
挨拶をすべきかと思ったとき、土井先生がスッと前に出て「食堂のおばちゃん。」と声をかけた。
すると女性がこちらを振り返り驚いた顔をする。
「あら、土井先生。…そちらの方は?」
食堂のおばちゃんと呼ばれた女性が不思議そうにこちらを見たので、私はぺこりと頭を下げた。
「えっと、たまみと申します。今日からこちらでお世話になることになりまして…よろしくお願いします!」
「たまみさんは学園長先生の親戚なんですけど、戦に巻き込まれて記憶が色々欠けてしまったみたいで。リハビリも兼ねてここで働くことになったんです。」
土井先生が横から付け加えてくれた。
何だか本当の事みたいに聞こえるからすごい。
食堂のおばちゃんは疑う素振りもなく気の毒そうな顔をして私を見た。
「あらそうなの…それは大変だったわねぇ。分からないことがあれば気軽に言ってちょうだいね。」
とても気さくな雰囲気でニッコリと微笑む姿に親切そうな女性だと感じた。
「ありがとうございます」と返しつつ、本当のことが言えない後ろめたさを感じる。
それにしても、この学校の人達は温かい人ばかりで…涙が出そうになった。
「ちょうどご飯ができたところなんだけど、食べていく?」
いまはご飯時だったのか。
聞かれて初めて、そういえばお腹がすいていることに気がついた。
こんな時でもお腹はすくんだなと驚く反面、自分がいまここに生きているのだとある意味実感した。
でも、学園の案内をしてくれている途中だしいいのかな…。
ちらりと土井先生を伺い見ると、彼はにこりと微笑み頷いた。
「じゃあ続きは食べてからにしましょう。」
「はい…!」
空腹を察してくれたのが嬉しいような恥ずかしいような複雑な気持ちになった。
すると、食堂のおばちゃんが厨房の奥に戻ったのを見計らい、土井先生が声をおとして小声で囁いた。
「たまみさん」
「はい?」
土井先生は真剣な表情で食堂のおばちゃんから視線を外さず私に話しかけていた。
なんだろう、何かしてしまったのかな…
「苦手な食べ物はありますか?」
「え?」
「食べられないものとか…」
「食べられないもの?」
「はい。食堂のおばちゃんはお残しを許さないので…。」
優しいお気遣いだなと思ったけれど、土井先生の表情はやはり真剣なものだったので、私も真剣に答えることにした。
「うーん……ん…?…あれ、何かある気がするのですが…すみません、こんなことすら思い出せないみたいで……。」
「そうですか…。もしあれば言ってください。代わりに私がこっそり食べますから。」
「ありがとうございます。…土井先生は何かお嫌いなんですか?」
「わ…私は…その、練り物がちょっと…」
眉をハの字にして苦笑しながら頭をかく土井先生。
真面目で優しい先生だと思ったけれど、練り物が苦手だとはにかむ可愛らしい一面もあるのだなとつい微笑んでしまった。
「じゃあ、もし練り物があれば私が食べて差し上げますね。」
「あはは…ありがとうございます。」
「何をこそこそ話しているの?」
お膳を手にした食堂のおばちゃんがこちらへ歩いてきた。
土井先生が慌ててぶんぶんと手のひらを振る。
「いいいいえ!何でもありません!」
「そう?はい、おまちどおさま!」
食堂のおばちゃんがにこにことお膳を出してくれた。
「ありがとうございます。美味しそう…!」
「ゆっくり食べていってね。」
ぺこりと頭を下げ、促されるまま土井先生の対面の席に座った。
「「いただきます」」
この世界で初めての食事。
ご飯と煮物とお味噌汁…薄味なのにとっても美味しくて、あっという間に食べてしまった。
ふと視線に気づいて顔をあげると、土井先生がニコニコとこちらを見ていた。
「たまみさんって、嬉しそうに食べますね。」
「えっ、そうですか?」
「いい食べっぷりで、見ていて気持ちいいですよ。」
それって、褒められているのか笑われているというか子ども扱いされているのか…。
とりあえず笑ってごまかしてみると、食堂のおばちゃんがお茶を持ってきてくれた。
「土井先生、嬉しそうね。」
「えっ!?いや、別に私は…!」
「最初たまみちゃんを見たとき、土井先生がイイ人を連れてきたのかと思ったわ。」
「そ、そんなわけないでしょうっ!」
土井先生は真っ赤になって否定した。
当たり前なんだけど、そんなに必死に否定されるとなぜか傷つく…。
「土井先生って、そんなに格好いいのに…そういう方はいないんですか?」
一瞬、土井先生の動きが止まった。
食堂のおばちゃんが腕を組んでうんうんと頷く。
「そうなのよぉ。忍者としての腕前も一流なのに奥手なんだから…!」
「そうなんですかぁ、勿体ない…」
オホン!と土井先生が咳払いをした。
しまった、うっかり思ったままを口にしてしまった。
失礼だっただろうか。
「さ、続き行きますよ!」
ガタンと立ち上がった土井先生はすぐに後ろを向いて表情が見えなかった。
気を悪くさせてしまった…?
けれど、土井先生の耳は真っ赤になっていて。
食堂のおばちゃんも笑っていた。
…もしかして、照れてる?
思わず可愛いと思ってしまったが、言葉にはせず私はおばちゃんにお辞儀をして食堂を出た。