第18話 ため息
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午後、私は職員室で一人仕事をしていた。
土井先生が書いてくれたお手本を元に、配布用の宿題を一枚ずつ書いていく。
文字の練習にもなるし、土井先生の美しい文字を見てはウットリしていた。
黒板の文字も美しいけれど、墨で書いた文字も凛々しくて…文字まで格好いいとかほんとどれだけ……
「土井半助はどこだ?」
「ッ!??」
突然背後から声がして、驚きのあまりすずりに指がついてしまった。
振り返ると、そこには以前見かけた暗い色の忍装束を着た少年がいた。
侵入者かと身構えるとともに、土井先生を想って変な顔をしているところを見られたのではないかと冷や汗が出た。
「あ、あなたは…しょせんそんなもんさん?」
「もろいずみそんなもんだ!」
諸泉さんはよく間違えられるのか、食い気味に怒ってきた。
私は頬をかきながら笑ってごまかす。
「すみません、土井先生は席を外しています。おひきとりください。」
諸泉さんには悪いけれど、土井先生を狙う曲者を会わせるわけにはいかない。
戦う素敵な土井先生も見たいが、万が一にも怪我をするようなことがあったらいけないので、帰ってもらおうと思った。
「そうか…では、ここで待ち伏せさせてもらおう。」
「!?…だめです、土井先生につきまとわないでください。」
「つきまとっている訳ではない!あいつを倒すまで諦めないというだけだ。」
それをつきまとうと言うのですが…。
「お前は、土井の補佐をしている女だな。名前は…」
「たまみと申します。」
あ。しまった、曲者さんなのに普通に名乗ってしまった。
「たまみ、か。…その、この前は、巻き込むようなことをして悪かった。今回は気をつけるから、離れていてくれ。」
諸泉さんは、素直にぺこりと謝った。
何だか、いい人そうに見える。
「きみは、くのいちではないのか?」
「はい、私は…訳あってここにいますが忍者ではありません。」
「そうか、なら余計に恐がらせてしまったな。」
申し訳なさそうにこちらを見てくる。
この前一緒に来ていた組頭さんとは異なり、その瞳は真っ直ぐで恐くなかった。
「いいえ、大丈夫です…。」
土井先生を追いかける曲者…どういう人なのだろう。
警戒すべき人なのか観察しようとじっと見つめ返すと、諸泉さんは不思議そうな顔をした。
「なんだ?」
「いえ…優しいお言葉に驚いて…」
「べ、別に優しくなどない。ただ、本意ではないことをしたから謝っただけだ。」
照れるように腕を組むその顔は、土井先生を狙うのでなければ普通にいい人なのではないかと思わせた。
「今日はお一人で来られたんですか?」
「あぁ、有給をとってきた。」
有給。
わざわざ土井先生のために休みをとって?
何でそこまで土井先生にこだわるんだろう…。
文房具で負けたからってそこまで意地にならなくても、と思うのは私が男でも忍者でもないからなのだろうか。
「そんなに土井先生にこだわらなくても…。」
「いや、あいつのせいで周りからは『簿っちゃん』だの『チョーくん』だの呼ばれてからかわれているんだ…!何としても奴を倒さねば!」
「そ、そうなんですか…。」
何だか気の毒になってきた。
どうしたものかと思い、とりあえずお茶を勧めてみると
「いや、結構だ。ありがとう。」
「薬とかは入れないですよ。わたし持ってないですし。」
「そんなことは疑っていない。…きみはそういうことをするように見えないからな。」
初めて少し笑ったその顔は幼く見えた。
土井先生が彼につきまとわれても無下にしない理由が少しだけわかった気がした。
そこから、何となく他愛もない世間話をした。
諸泉さんはやはり土井先生が来るまで帰る気がないようで、私も諸泉さんを放って仕事をするわけにもいかず、何とはなしに会話は続いた。
諸泉さんは、私の思い描いていた曲者のイメージとはやはり随分離れた人だった。
「…ところで、さっきから気になっていたのだが、」
「何ですか?」
「頬に墨がついてるぞ。」
「えっ」
そういえば、すずりに指が触れた後、その手で顔を触ったかもしれない。
慌てて手で擦ろうとする。
「そっちじゃない、ほら…」
そう言うと、諸泉さんは私の頭巾をしゅるりとほどいて頬を擦った。
「もう固まっていてとれないな。後で顔を洗った方が…」
言いかけて、諸泉さんの動きが止まった。
私の顔をじっと見て固まっている。
丸い目が更に丸くなっていた。
「?…あの、なにか…」
「!…いやっ、何でもない!」
「?」
何だろうと思いじーっと見ていると、諸泉さんは更に赤くなっていく。
「諸泉尊奈門くん、何をしているんだい?」
「「!!」」
気配もなく障子をあけて、土井先生が冷ややかにこちらを見ていた。
「土井半助!」
「…私を、狙って来たんだろ?」
「そうだ!!いざ尋常に…!」
「いいだろう、今日はきっちり指導してやる。」
「し、指導だとっ…!?」
「たまみさん、」
「はい?」
「君も、後学のために見ておくといい。」
「えっ」
「さぁ、行くぞ。」
土井先生はサッと中庭の方へ跳び、諸泉さんも後に続いた。
私はてっきりまた危ないから部屋にいるようにと言われると思っていたのに、見学を許されてドキドキしながら立っていた。
土井先生が書いてくれたお手本を元に、配布用の宿題を一枚ずつ書いていく。
文字の練習にもなるし、土井先生の美しい文字を見てはウットリしていた。
黒板の文字も美しいけれど、墨で書いた文字も凛々しくて…文字まで格好いいとかほんとどれだけ……
「土井半助はどこだ?」
「ッ!??」
突然背後から声がして、驚きのあまりすずりに指がついてしまった。
振り返ると、そこには以前見かけた暗い色の忍装束を着た少年がいた。
侵入者かと身構えるとともに、土井先生を想って変な顔をしているところを見られたのではないかと冷や汗が出た。
「あ、あなたは…しょせんそんなもんさん?」
「もろいずみそんなもんだ!」
諸泉さんはよく間違えられるのか、食い気味に怒ってきた。
私は頬をかきながら笑ってごまかす。
「すみません、土井先生は席を外しています。おひきとりください。」
諸泉さんには悪いけれど、土井先生を狙う曲者を会わせるわけにはいかない。
戦う素敵な土井先生も見たいが、万が一にも怪我をするようなことがあったらいけないので、帰ってもらおうと思った。
「そうか…では、ここで待ち伏せさせてもらおう。」
「!?…だめです、土井先生につきまとわないでください。」
「つきまとっている訳ではない!あいつを倒すまで諦めないというだけだ。」
それをつきまとうと言うのですが…。
「お前は、土井の補佐をしている女だな。名前は…」
「たまみと申します。」
あ。しまった、曲者さんなのに普通に名乗ってしまった。
「たまみ、か。…その、この前は、巻き込むようなことをして悪かった。今回は気をつけるから、離れていてくれ。」
諸泉さんは、素直にぺこりと謝った。
何だか、いい人そうに見える。
「きみは、くのいちではないのか?」
「はい、私は…訳あってここにいますが忍者ではありません。」
「そうか、なら余計に恐がらせてしまったな。」
申し訳なさそうにこちらを見てくる。
この前一緒に来ていた組頭さんとは異なり、その瞳は真っ直ぐで恐くなかった。
「いいえ、大丈夫です…。」
土井先生を追いかける曲者…どういう人なのだろう。
警戒すべき人なのか観察しようとじっと見つめ返すと、諸泉さんは不思議そうな顔をした。
「なんだ?」
「いえ…優しいお言葉に驚いて…」
「べ、別に優しくなどない。ただ、本意ではないことをしたから謝っただけだ。」
照れるように腕を組むその顔は、土井先生を狙うのでなければ普通にいい人なのではないかと思わせた。
「今日はお一人で来られたんですか?」
「あぁ、有給をとってきた。」
有給。
わざわざ土井先生のために休みをとって?
何でそこまで土井先生にこだわるんだろう…。
文房具で負けたからってそこまで意地にならなくても、と思うのは私が男でも忍者でもないからなのだろうか。
「そんなに土井先生にこだわらなくても…。」
「いや、あいつのせいで周りからは『簿っちゃん』だの『チョーくん』だの呼ばれてからかわれているんだ…!何としても奴を倒さねば!」
「そ、そうなんですか…。」
何だか気の毒になってきた。
どうしたものかと思い、とりあえずお茶を勧めてみると
「いや、結構だ。ありがとう。」
「薬とかは入れないですよ。わたし持ってないですし。」
「そんなことは疑っていない。…きみはそういうことをするように見えないからな。」
初めて少し笑ったその顔は幼く見えた。
土井先生が彼につきまとわれても無下にしない理由が少しだけわかった気がした。
そこから、何となく他愛もない世間話をした。
諸泉さんはやはり土井先生が来るまで帰る気がないようで、私も諸泉さんを放って仕事をするわけにもいかず、何とはなしに会話は続いた。
諸泉さんは、私の思い描いていた曲者のイメージとはやはり随分離れた人だった。
「…ところで、さっきから気になっていたのだが、」
「何ですか?」
「頬に墨がついてるぞ。」
「えっ」
そういえば、すずりに指が触れた後、その手で顔を触ったかもしれない。
慌てて手で擦ろうとする。
「そっちじゃない、ほら…」
そう言うと、諸泉さんは私の頭巾をしゅるりとほどいて頬を擦った。
「もう固まっていてとれないな。後で顔を洗った方が…」
言いかけて、諸泉さんの動きが止まった。
私の顔をじっと見て固まっている。
丸い目が更に丸くなっていた。
「?…あの、なにか…」
「!…いやっ、何でもない!」
「?」
何だろうと思いじーっと見ていると、諸泉さんは更に赤くなっていく。
「諸泉尊奈門くん、何をしているんだい?」
「「!!」」
気配もなく障子をあけて、土井先生が冷ややかにこちらを見ていた。
「土井半助!」
「…私を、狙って来たんだろ?」
「そうだ!!いざ尋常に…!」
「いいだろう、今日はきっちり指導してやる。」
「し、指導だとっ…!?」
「たまみさん、」
「はい?」
「君も、後学のために見ておくといい。」
「えっ」
「さぁ、行くぞ。」
土井先生はサッと中庭の方へ跳び、諸泉さんも後に続いた。
私はてっきりまた危ないから部屋にいるようにと言われると思っていたのに、見学を許されてドキドキしながら立っていた。