第13話 独り占め
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ある日の午後、突然激しく雨音が響いた。
私は夕食作りのお手伝いをするため食堂に向かっていた。
「…すごい雨。」
通り雨にしては長い。
屋根を打つ雫の音で周りの物音が聞こえなかった。
ふと、門の方を見ると、一年は組の子達が次々とびしょ濡れで入ってくる。
「みんな!大丈夫!?」
何人かがこちらに気づき、走ってきた。
「たまみさん!すごい雨ですね。僕達裏山で遊んでたんですけど、びっくりしました。」
「びしょ濡れ…というか泥だらけね。早くお風呂に入っておいで。」
すると、喜三太くんが私の衣をつかんだ。
「たまみさんも一緒に入ろう?」
「えぇっ!?」
「…イヤ?」
なんて可愛い声!
そんな目で見つめられたら…天性の甘え上手すぎる!
「い、嫌じゃないけど、ほら、他の人が入ってきたら困るでしょ?」
「お風呂の名前札のところに、貸切りって書いとけば大丈夫ですよ!」
「え、そうなの!?…で、でも…」
「………。」
喜三太くんはとても寂しそうな顔をした。
見れば、他の子達もそうだった。
あれ。
…胸がしめつけられた。
なんで、そんな目で。
私は、もしかして、自分の多忙さにかまけて、彼等の気持ちに気づいてやれていなかったのではないか。
確かに最近、一緒に遊んだりお話したりする時間がほとんどない。
いつから、そんな目で私をみるようになっていたのだろう。
…そう思うと、もう断れなかった。
「…じゃあ、食堂のおばちゃんに今日はお手伝い行けないって言ってくるね。」
「「「やったぁっ!!」」」
まだ10歳。まだまだ甘えたいお年頃のはず。
みんなが望んでくれるなら、いくらでも甘やかしてあげようと思った。
「ねぇ、でもホントに誰も来ない?」
「大丈夫ですよ!一年は組貸切りって書いてますから!」
「そう…。いい?他の子には内緒だからね!一年は組のみんなは私にとって特別だからこうして入るんだよ!」
「「「「「はーい!」」」」」」
いつもの素直ないいお返事。
私は大きめの手ぬぐいで体を覆いながら、みんなの頭を順に洗ってあげた。
最後に庄左ヱ門くんの髪を洗う。
「はい終わり!みんな冷えないようにちゃんと肩までつかってるね?」
「あれ、たまみさんこそ肩が冷たいですよぉ。お湯かけてあげますね。」
「あ、じゃあぼく背中洗ってあげるー!」
「「「僕も僕もー!」」」
「ちょっ、私はいいから、みんな早く入って…!!」
ガラッ
「こらお前達!いつまで入って…」
「「「「「「あ」」」」」」
時間が止まった。
びしょ濡れで泥だらけの土井先生が、腰に手ぬぐいだけの姿で戸をあけ立っていた。
「………」
「……………」
「…ッ!!?す、すみませんっ!!」
土井先生が慌てて背中を向けて、戸を閉めようとした。
「あ、土井先生!」
私は思わず呼び止めた。
「そんなびしょ濡れだと風邪ひきます。私、もう出るので入ってください!」
「ええ~、たまみさんも背中冷たくなってるし風邪ひいちゃいますよぉ!」
いまそんな気遣いはいらないからー!
と、心のなかで焦ったけれど、本気で心配そうな目を向けてくれている子ども達の気持ちを無下にすることはてきなかった。
「…じゃあ、私はお湯に入って背中向けとくので、土井先生も早く洗っちゃってください。」
「えっ、いや、それは…」
「「「土井先生、早く戸を閉めてくれないと寒いです!」」」
「おいっ、ちょっと待てお前達…!!」
土井先生は半ば強引に引き入れられ、一年は組の子達に座らされた。
「よーし、じゃあ僕達が土井先生も洗ってあげますよ!」
「いらん!お前たち何を考えて…!」
私は湯舟で壁の方を向きながら会話を聞いていた。
「土井先生、髪ちゃんと手入れしないとまたタカ丸先輩に怒られますよ!」「ほらじっとしないと目に入りますよ!」「うるさいっ!お前達、自分でやるからっ…!」
後ろできゃっきゃ言いながら子ども達が騒いでいる。
なんだろうこの状況は。
いや、自分で言ったことなんだけど…でもあんな泥だらけで濡れた土井先生を放っておくこともできないし…。
土井先生が洗い終わったら目を閉じて貰って、その間に自分も出よう。
…それにしても。
私はさっき見てしまった土井先生の逞しい体が頭に浮かんで、顎までお湯に沈めた。
顔まで熱く火照るのは、お湯が熱いからか別の理由か。
熱いお湯は苦手なのに、じっと動かずに壁を見つめていた。
私は夕食作りのお手伝いをするため食堂に向かっていた。
「…すごい雨。」
通り雨にしては長い。
屋根を打つ雫の音で周りの物音が聞こえなかった。
ふと、門の方を見ると、一年は組の子達が次々とびしょ濡れで入ってくる。
「みんな!大丈夫!?」
何人かがこちらに気づき、走ってきた。
「たまみさん!すごい雨ですね。僕達裏山で遊んでたんですけど、びっくりしました。」
「びしょ濡れ…というか泥だらけね。早くお風呂に入っておいで。」
すると、喜三太くんが私の衣をつかんだ。
「たまみさんも一緒に入ろう?」
「えぇっ!?」
「…イヤ?」
なんて可愛い声!
そんな目で見つめられたら…天性の甘え上手すぎる!
「い、嫌じゃないけど、ほら、他の人が入ってきたら困るでしょ?」
「お風呂の名前札のところに、貸切りって書いとけば大丈夫ですよ!」
「え、そうなの!?…で、でも…」
「………。」
喜三太くんはとても寂しそうな顔をした。
見れば、他の子達もそうだった。
あれ。
…胸がしめつけられた。
なんで、そんな目で。
私は、もしかして、自分の多忙さにかまけて、彼等の気持ちに気づいてやれていなかったのではないか。
確かに最近、一緒に遊んだりお話したりする時間がほとんどない。
いつから、そんな目で私をみるようになっていたのだろう。
…そう思うと、もう断れなかった。
「…じゃあ、食堂のおばちゃんに今日はお手伝い行けないって言ってくるね。」
「「「やったぁっ!!」」」
まだ10歳。まだまだ甘えたいお年頃のはず。
みんなが望んでくれるなら、いくらでも甘やかしてあげようと思った。
「ねぇ、でもホントに誰も来ない?」
「大丈夫ですよ!一年は組貸切りって書いてますから!」
「そう…。いい?他の子には内緒だからね!一年は組のみんなは私にとって特別だからこうして入るんだよ!」
「「「「「はーい!」」」」」」
いつもの素直ないいお返事。
私は大きめの手ぬぐいで体を覆いながら、みんなの頭を順に洗ってあげた。
最後に庄左ヱ門くんの髪を洗う。
「はい終わり!みんな冷えないようにちゃんと肩までつかってるね?」
「あれ、たまみさんこそ肩が冷たいですよぉ。お湯かけてあげますね。」
「あ、じゃあぼく背中洗ってあげるー!」
「「「僕も僕もー!」」」
「ちょっ、私はいいから、みんな早く入って…!!」
ガラッ
「こらお前達!いつまで入って…」
「「「「「「あ」」」」」」
時間が止まった。
びしょ濡れで泥だらけの土井先生が、腰に手ぬぐいだけの姿で戸をあけ立っていた。
「………」
「……………」
「…ッ!!?す、すみませんっ!!」
土井先生が慌てて背中を向けて、戸を閉めようとした。
「あ、土井先生!」
私は思わず呼び止めた。
「そんなびしょ濡れだと風邪ひきます。私、もう出るので入ってください!」
「ええ~、たまみさんも背中冷たくなってるし風邪ひいちゃいますよぉ!」
いまそんな気遣いはいらないからー!
と、心のなかで焦ったけれど、本気で心配そうな目を向けてくれている子ども達の気持ちを無下にすることはてきなかった。
「…じゃあ、私はお湯に入って背中向けとくので、土井先生も早く洗っちゃってください。」
「えっ、いや、それは…」
「「「土井先生、早く戸を閉めてくれないと寒いです!」」」
「おいっ、ちょっと待てお前達…!!」
土井先生は半ば強引に引き入れられ、一年は組の子達に座らされた。
「よーし、じゃあ僕達が土井先生も洗ってあげますよ!」
「いらん!お前たち何を考えて…!」
私は湯舟で壁の方を向きながら会話を聞いていた。
「土井先生、髪ちゃんと手入れしないとまたタカ丸先輩に怒られますよ!」「ほらじっとしないと目に入りますよ!」「うるさいっ!お前達、自分でやるからっ…!」
後ろできゃっきゃ言いながら子ども達が騒いでいる。
なんだろうこの状況は。
いや、自分で言ったことなんだけど…でもあんな泥だらけで濡れた土井先生を放っておくこともできないし…。
土井先生が洗い終わったら目を閉じて貰って、その間に自分も出よう。
…それにしても。
私はさっき見てしまった土井先生の逞しい体が頭に浮かんで、顎までお湯に沈めた。
顔まで熱く火照るのは、お湯が熱いからか別の理由か。
熱いお湯は苦手なのに、じっと動かずに壁を見つめていた。