第12話 山の幸
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「……………遅くない?」
いくら待っても誰も来ないことに不安になった。
いや、そんなはずはない、きっとすぐに来るはずだと思いながらも、さっき降りた土手を上がってみる。
…誰もいない!
ええっ、ちょっとちょっと!
これは…まさか、はぐれた!?
いちおう私、補佐なのに、まさか迷子!?
周りをぐるりと見渡すも、どちらから来たのかさえよく分からなかった。
…落ち着いて。
大きな声を出したら気づいてくれるだろう。
そう思って息を大きく吸い込んだとき、近くでガサリと音がした。
あぁ、誰か居たんだよかった。と思って振り返ると
のそりのそり…
……熊!!?
私はその場に固まった。
たしか、目をそらしてはいけないとか背中を向けて走ってはいけないとか熊は足も速いし木も登れるから追いかけられたらもうほぼ逃げられないとか死んだふりは実はあまり効果がないとか、
一瞬にして色んな考えが頭をよぎった。
熊はこちらを見てじっと様子を伺っているようだった。
声が、出ない。
背中を汗が伝う。
熊がこちらに動き出した。
逃げなければ!と後ろに足を踏み出した瞬間、枝を踏んでパキッと音がした。
それと同時に、熊がこちらに走ってきた。
私は咄嗟に後ずさった。
ガクッ
足が空をきる。
体が、下に落ちた。
崖……っ!!?
全てがスローモーションに感じられた。
その瞬間。
「たまみっ!」
ガッと体に鈍い衝撃が響き、ガリガリガリッという音と振動のあと落下が止まった。
「危なかった…!大丈夫か!?」
土井先生が、右手に苦無を持って崖に突き刺し、左手に私を抱き抱えていた。
「…!!!」
「怪我は?!」
声が出なくて首を振ると、土井先生は「よかった」と言って周りを見た。
「少し手を放すから、私の首に捕まってて。」
言われるがままに首に両手を回してぎゅっとしがみつくと、土井先生は左手で鉤縄を振り回して投げた。
それは近くの大きな木の枝に巻き付き、土井先生はグイッと縄を引っ張り確かめた。
「しっかり捕まって!」
そう言うと、崖を蹴って右手の苦無を引き抜いた。
体が風をきって大きく弧を描き、滑るように地面に着地した。
「大丈夫?」
「…どい、せんせっ…!!」
私は安堵からぽろぽろと涙が零れた。
「すまない、必ず守ると言ったのに君をこんな目に…」
私が首を横に振ると、土井先生は背中を優しく撫でてくれた。
「……落ち着いた?」
どれくらいそうしていたのか、私は土井先生の首にしがみついたままだった。
「あ、すみませんっ…!」
「いや、いいんだけどよくないというか…はは、あんまりくっつかれると…その」
私がぱっと離れると、土井先生はごにょごにょと口を濁した。
「探しに来てくれたんですか?」
「あぁ、しんべヱがたまみさんを小川に案内したけどそれがどこか分からなくなったと言ってたから川に沿って探してて…しかしまさか熊がいるとは。崖から落ちたとき、私も心臓がとまるかと思いましたよ。」
「こ…こわかったです……」
「遅くなってすみません…」
土井先生が申し訳なさそうな顔をするから、私はそっとその手を握った。
「いいえ、土井先生のおかげで命拾いしました、ありがとうございます。」
「たまみさん…」
土井先生がそっと抱きしめてくれた。
「…無事でよかった……。」
温かい。
土井先生の鼓動が聞こえる。
そっと彼を見上げると、互いの視線が絡み合った。
土井先生に見つめられ、時が止まったように感じられて…。
どちらからともなく目を閉じかけた、そのとき…。
「たまみさぁーん!!」
「「!!」」
崖の上の方から呼ぶ声がした。
「…みんな心配しています。戻りましょうか。」
そうしてそれから苦労して崖を登り、なんとか皆の待つ集合場所に戻った。
「わ~ん、たまみさんごめんなさい~っ!」
「大丈夫、ちゃんと戻れたし気にしないで!」
「まさかこの辺りに熊が出るとは。近くに崖があるのも注意しておくべきだった…たまみくんすまなかったな。」
「いえ、土井先生が助けてくれたので大丈夫です!ほら、食堂のおばちゃんも待ってるでしょうし、帰りましょう!」
帰り道もみんなに助けてもらいながら山道を歩いた。
アクシデントはあったものの、この日は皆で山菜を収穫できてとても楽しい思い出となった。
いくら待っても誰も来ないことに不安になった。
いや、そんなはずはない、きっとすぐに来るはずだと思いながらも、さっき降りた土手を上がってみる。
…誰もいない!
ええっ、ちょっとちょっと!
これは…まさか、はぐれた!?
いちおう私、補佐なのに、まさか迷子!?
周りをぐるりと見渡すも、どちらから来たのかさえよく分からなかった。
…落ち着いて。
大きな声を出したら気づいてくれるだろう。
そう思って息を大きく吸い込んだとき、近くでガサリと音がした。
あぁ、誰か居たんだよかった。と思って振り返ると
のそりのそり…
……熊!!?
私はその場に固まった。
たしか、目をそらしてはいけないとか背中を向けて走ってはいけないとか熊は足も速いし木も登れるから追いかけられたらもうほぼ逃げられないとか死んだふりは実はあまり効果がないとか、
一瞬にして色んな考えが頭をよぎった。
熊はこちらを見てじっと様子を伺っているようだった。
声が、出ない。
背中を汗が伝う。
熊がこちらに動き出した。
逃げなければ!と後ろに足を踏み出した瞬間、枝を踏んでパキッと音がした。
それと同時に、熊がこちらに走ってきた。
私は咄嗟に後ずさった。
ガクッ
足が空をきる。
体が、下に落ちた。
崖……っ!!?
全てがスローモーションに感じられた。
その瞬間。
「たまみっ!」
ガッと体に鈍い衝撃が響き、ガリガリガリッという音と振動のあと落下が止まった。
「危なかった…!大丈夫か!?」
土井先生が、右手に苦無を持って崖に突き刺し、左手に私を抱き抱えていた。
「…!!!」
「怪我は?!」
声が出なくて首を振ると、土井先生は「よかった」と言って周りを見た。
「少し手を放すから、私の首に捕まってて。」
言われるがままに首に両手を回してぎゅっとしがみつくと、土井先生は左手で鉤縄を振り回して投げた。
それは近くの大きな木の枝に巻き付き、土井先生はグイッと縄を引っ張り確かめた。
「しっかり捕まって!」
そう言うと、崖を蹴って右手の苦無を引き抜いた。
体が風をきって大きく弧を描き、滑るように地面に着地した。
「大丈夫?」
「…どい、せんせっ…!!」
私は安堵からぽろぽろと涙が零れた。
「すまない、必ず守ると言ったのに君をこんな目に…」
私が首を横に振ると、土井先生は背中を優しく撫でてくれた。
「……落ち着いた?」
どれくらいそうしていたのか、私は土井先生の首にしがみついたままだった。
「あ、すみませんっ…!」
「いや、いいんだけどよくないというか…はは、あんまりくっつかれると…その」
私がぱっと離れると、土井先生はごにょごにょと口を濁した。
「探しに来てくれたんですか?」
「あぁ、しんべヱがたまみさんを小川に案内したけどそれがどこか分からなくなったと言ってたから川に沿って探してて…しかしまさか熊がいるとは。崖から落ちたとき、私も心臓がとまるかと思いましたよ。」
「こ…こわかったです……」
「遅くなってすみません…」
土井先生が申し訳なさそうな顔をするから、私はそっとその手を握った。
「いいえ、土井先生のおかげで命拾いしました、ありがとうございます。」
「たまみさん…」
土井先生がそっと抱きしめてくれた。
「…無事でよかった……。」
温かい。
土井先生の鼓動が聞こえる。
そっと彼を見上げると、互いの視線が絡み合った。
土井先生に見つめられ、時が止まったように感じられて…。
どちらからともなく目を閉じかけた、そのとき…。
「たまみさぁーん!!」
「「!!」」
崖の上の方から呼ぶ声がした。
「…みんな心配しています。戻りましょうか。」
そうしてそれから苦労して崖を登り、なんとか皆の待つ集合場所に戻った。
「わ~ん、たまみさんごめんなさい~っ!」
「大丈夫、ちゃんと戻れたし気にしないで!」
「まさかこの辺りに熊が出るとは。近くに崖があるのも注意しておくべきだった…たまみくんすまなかったな。」
「いえ、土井先生が助けてくれたので大丈夫です!ほら、食堂のおばちゃんも待ってるでしょうし、帰りましょう!」
帰り道もみんなに助けてもらいながら山道を歩いた。
アクシデントはあったものの、この日は皆で山菜を収穫できてとても楽しい思い出となった。