第19.55話 きみの笑顔
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きみの笑顔が好きだ。
楽しそうにころころと笑う笑顔。
一年は組のよい子達と一緒に遊ぶときや、あいつらが突拍子もないことをしたときに見せる可愛い笑顔。
心から笑う裏表のない無邪気な笑顔で、私まで心が和む。
自由すぎる生徒達の言動に胃が痛むことがあっても。
その笑顔ひとつで「まぁいいか」と許せてしまう。
穏やかに笑む姿。
机に向かって筆を動かしながら時折見せるその笑顔。
何を思っているのだろう…誰のことを考えているのだろう。
聞けばいいのだが、少しでもその笑顔を長く見ていたくて…聞けばそのように笑ってくれなくなる気がして…いつも気づかれないように眺めてしまう。
一年は組のよい子達に見せる優しい微笑み。
まるで母親のように温かい眼差し。
生徒達が慕う様子からも、まだ幼いあの子達の母親的な拠り所になっているのではないかと感じてしまう。
そして、自分もまた父親的な拠り所になることができているのだろうかと考えてみたり…。
いやいや、父母は言い過ぎか…私も彼女もあんなに大きな子どもがいるほどの年齢では……せめて兄姉のように、と訂正しておこう。
ごまかすときに見せる曖昧な笑顔。
うっかり屋さんのきみが、失敗したり何かあったときに笑ってごまかそうとするのが可愛らしい。
ついついごまかされて許してしまうのは私だけではないと思う。
天然、ともいえるその言動や笑顔に癒されている自分がいる。
私がこんなにもきみを見ていると知ったらどう思われるだろうか。
皆に向ける笑顔を、その愛らしい笑顔を自分だけのものにしたい…私だけの、特別なものにしてしまいたいと思っているなど、きみはきっと知りもしないだろう。
職員室で筆を手にしながら、そんなことを考える。
後ろから聞こえてくる布の音。
先程からたまみさんが繕い物をしてくれていて…たとえ仕事だとしても今このひとときは私だけが独占している気がする。
「痛っ!」
「大丈夫ですか?」
振り返ると、どうやら針で指を刺したようで血が滲んでいた。
咄嗟に手拭いで押さえて止血する。
「血が止まるまでこのまま押さえておきましょう。」
「はい、ありがとうございます…。」
本当はそこまでするほどの怪我でもないが、これを口実に触れていたいと…そんな言葉が口をついてでた。
偶然にも触れた手は、とても柔らかく小さくて…。
「たまみさんの手は小さくて柔らかくてほんとに子どもみたいですね。」
「えっ。」
思わず言葉にすると、子ども扱いされたと思ったのか少し拗ねたようだった。
「…子どもじゃないです。」
口を尖らせ抗議する顔が可愛らしくて、つい笑ってしまった。
「褒めてるんですよ。」
「ほんとですかぁ?」
「もちろん。…その、可愛いらしいなと、いう意味で…。」
日々こんなに可愛いと思っているのに、本人を目の前にするとそれが中々はっきり言えなくて…。
頬に熱が集まるのを感じながら、語尾は何となくごまかしてしまった。
ちらりと表情を伺い見ると、その視線は私の手を見ていた。
「……土井先生の手は大きいですよね。」
彼女は止血しているのと反対の手のひらを私にかざした。
誘われるようにごく自然に、手が動いた。
小さなもみじのような手に、自分の手のひらをあわせてみる。
二人の手のひらがぴたりと重なった。
「…ほんとに小さいな。」
思わず呟いて、半ば無意識にぎゅっと握りしめた。
私の手の中にすっぽりと収まる可愛い手。
「…………。」
頬を染めて恥ずかしそうに、しかし嬉しそうに微笑む彼女。
その笑顔に心満たされ…私もまた微笑んだ。
楽しそうにころころと笑う笑顔。
一年は組のよい子達と一緒に遊ぶときや、あいつらが突拍子もないことをしたときに見せる可愛い笑顔。
心から笑う裏表のない無邪気な笑顔で、私まで心が和む。
自由すぎる生徒達の言動に胃が痛むことがあっても。
その笑顔ひとつで「まぁいいか」と許せてしまう。
穏やかに笑む姿。
机に向かって筆を動かしながら時折見せるその笑顔。
何を思っているのだろう…誰のことを考えているのだろう。
聞けばいいのだが、少しでもその笑顔を長く見ていたくて…聞けばそのように笑ってくれなくなる気がして…いつも気づかれないように眺めてしまう。
一年は組のよい子達に見せる優しい微笑み。
まるで母親のように温かい眼差し。
生徒達が慕う様子からも、まだ幼いあの子達の母親的な拠り所になっているのではないかと感じてしまう。
そして、自分もまた父親的な拠り所になることができているのだろうかと考えてみたり…。
いやいや、父母は言い過ぎか…私も彼女もあんなに大きな子どもがいるほどの年齢では……せめて兄姉のように、と訂正しておこう。
ごまかすときに見せる曖昧な笑顔。
うっかり屋さんのきみが、失敗したり何かあったときに笑ってごまかそうとするのが可愛らしい。
ついついごまかされて許してしまうのは私だけではないと思う。
天然、ともいえるその言動や笑顔に癒されている自分がいる。
私がこんなにもきみを見ていると知ったらどう思われるだろうか。
皆に向ける笑顔を、その愛らしい笑顔を自分だけのものにしたい…私だけの、特別なものにしてしまいたいと思っているなど、きみはきっと知りもしないだろう。
職員室で筆を手にしながら、そんなことを考える。
後ろから聞こえてくる布の音。
先程からたまみさんが繕い物をしてくれていて…たとえ仕事だとしても今このひとときは私だけが独占している気がする。
「痛っ!」
「大丈夫ですか?」
振り返ると、どうやら針で指を刺したようで血が滲んでいた。
咄嗟に手拭いで押さえて止血する。
「血が止まるまでこのまま押さえておきましょう。」
「はい、ありがとうございます…。」
本当はそこまでするほどの怪我でもないが、これを口実に触れていたいと…そんな言葉が口をついてでた。
偶然にも触れた手は、とても柔らかく小さくて…。
「たまみさんの手は小さくて柔らかくてほんとに子どもみたいですね。」
「えっ。」
思わず言葉にすると、子ども扱いされたと思ったのか少し拗ねたようだった。
「…子どもじゃないです。」
口を尖らせ抗議する顔が可愛らしくて、つい笑ってしまった。
「褒めてるんですよ。」
「ほんとですかぁ?」
「もちろん。…その、可愛いらしいなと、いう意味で…。」
日々こんなに可愛いと思っているのに、本人を目の前にするとそれが中々はっきり言えなくて…。
頬に熱が集まるのを感じながら、語尾は何となくごまかしてしまった。
ちらりと表情を伺い見ると、その視線は私の手を見ていた。
「……土井先生の手は大きいですよね。」
彼女は止血しているのと反対の手のひらを私にかざした。
誘われるようにごく自然に、手が動いた。
小さなもみじのような手に、自分の手のひらをあわせてみる。
二人の手のひらがぴたりと重なった。
「…ほんとに小さいな。」
思わず呟いて、半ば無意識にぎゅっと握りしめた。
私の手の中にすっぽりと収まる可愛い手。
「…………。」
頬を染めて恥ずかしそうに、しかし嬉しそうに微笑む彼女。
その笑顔に心満たされ…私もまた微笑んだ。