第6話 花売り
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「えっ、外出?」
急にたまみさんが外出したいと言い出したので、私は驚いて理由を尋ねた。
「私、ご飯代とかまだ払えてないですし…きり丸くんにいいアルバイトがないか聞いたんです。それで、町で花を売ろうって話になって。」
「花?」
「はい、ちょうど花が咲き始める時期らしくて。」
「そうですか…いえ、というよりも、ご飯代はしばらくいらないって学園長先生も仰っていたと思いますが…。他にも何か必要なものがあるなら、とりあえず私が用立てて…」
「ありがとうございます。でも、私、もしかしたらある日突然パッとここから消えてしまうかもしれないから…」
たまみさんは寂しげに微笑んだ。
「もしお返しできなくなったら申し訳ないので。」
「…たまみさん……」
生真面目な彼女は申し訳なさそうに微笑んだ。
確かに言っていることは分かる。
突然自分の意思とは関係なく現れたのだから、また突然もとの世界に戻る可能性はなくはない。
しかし、だからといって…そんな寂しいことを……。
え、寂しい……?
いや、違う、水くさいというか、一言頼ってくれたらというか、共に仕事をするなかで色んな話をしているのにそんなことは一言も…。
瞬時にそんなことを考えて私は知らず複雑な顔をしていたようだ。
たまみさんが焦ったように付け足した。
「きり丸くんと乱太郎くんとしんべヱくんも一緒に来てくれるから大丈夫ですよ!」
「…………」
彼女は笑顔を作ってみせたが、その3人の名前に私はますます心配になってしまった。
だがなんと止めたらよいものか咄嗟に言葉が見つからず、私は「気をつけてくださいね」といって外出届を受け取った。
数刻後。
私は筆を持ったままじっと固まっていた。
…やはり、止めるべきだったか。
学園の外に出るのは初めてだし、あの3人と出かけて何も起こらないとは考えにくい。
私もついていけばよかったか……いやしかし、仕事でも朝から晩までずっと一緒にいるのだし、もしかしたらそんなところまででしゃばったら鬱陶しいと思われるかもしれない。
そもそも、私は彼女の保護者ではないのだから…いや、学園長先生にも彼女のことを頼むと言われているし、そうそう、だから私がこうして気にするのも当然な訳であって…。
それにしても、花を売るって大丈夫なのか?
もしも変な男が寄ってきたら…。
私は無意識に唇を噛み筆を握りしめた。
そして、ふと先程の彼女の言葉が脳裏に甦った。
『ある日突然パッとここから消えてしまうかもしれないから』
それは、たしかにその通りだ。
なのに、なぜ…。
その言葉に頷くことができなかった。
不思議な出会い方をしたのに、彼女がここに居ることがもう普通であることのようになりかけていた。
明日も彼女がここに居るとは限らないのに。
…元の世界に帰る方が、彼女のためだろう。
そしてもし帰る方法があるならば、一緒に探してやるべきだ。
…しかし。
なぜだろう。
どうしてこんなにも躊躇われるのか…そうしたくないと思う自分がいる。
「…………はぁ…。」
考えがまとまらず、何度目かの大きなため息をついた。
「半助、どうした?」
突如、山田先生に声をかけられ肩が跳ねた。
「や、山田先生!い、いつからここに!?」
「大分前からいるが…。何かあったのか。」
「あー、いえ、その……。」
言葉に迷っていると、山田先生の視線が私の手元に向けられていることに気づいた。
ふと目を落とすと、筆の先から墨がポタポタと落ちて水溜まりのようになっている紙があった。
「…さっき、たまみくんが焦った様子で化粧の仕方を教えてほしいと来たのだが…」
「化粧?」
「あぁ。乱太郎達と花を売りに行くと言っていた。」
「…はい、それは私も聞きました……。」
私が決まり悪く目をそらすと、山田先生は私が握りしめていた筆をスッと取りあげて硯に置いた。
「心配だな。」
「…はい、でも彼女も自由が欲しいでしょうし、ずっと私がついているのも鬱陶しいかもしれませんし…」
「ふむ……。」
山田先生は私を一瞬じろりと見据えた後、腕を組んでくるりと私に背を向けた。
「3人の担任として、心配じゃないか?」
「え?」
「記憶喪失で世間も知らない女性を連れて、自分の生徒達が無事に案内・労働・報酬を得て帰還できるのか。一年は組は実践に強いが、担任として様子が気になるだろう?…担任として。」
3人の担任、として…?
私はハッとして立ち上がった。
「そ、そうですね!山田先生、ちょっと様子を見てきます!」
「うむ、気をつけてな。」
勢いよく出ていく私の後ろで山田先生が「やれやれ…」と苦笑したことに私は気づかなかった。
急にたまみさんが外出したいと言い出したので、私は驚いて理由を尋ねた。
「私、ご飯代とかまだ払えてないですし…きり丸くんにいいアルバイトがないか聞いたんです。それで、町で花を売ろうって話になって。」
「花?」
「はい、ちょうど花が咲き始める時期らしくて。」
「そうですか…いえ、というよりも、ご飯代はしばらくいらないって学園長先生も仰っていたと思いますが…。他にも何か必要なものがあるなら、とりあえず私が用立てて…」
「ありがとうございます。でも、私、もしかしたらある日突然パッとここから消えてしまうかもしれないから…」
たまみさんは寂しげに微笑んだ。
「もしお返しできなくなったら申し訳ないので。」
「…たまみさん……」
生真面目な彼女は申し訳なさそうに微笑んだ。
確かに言っていることは分かる。
突然自分の意思とは関係なく現れたのだから、また突然もとの世界に戻る可能性はなくはない。
しかし、だからといって…そんな寂しいことを……。
え、寂しい……?
いや、違う、水くさいというか、一言頼ってくれたらというか、共に仕事をするなかで色んな話をしているのにそんなことは一言も…。
瞬時にそんなことを考えて私は知らず複雑な顔をしていたようだ。
たまみさんが焦ったように付け足した。
「きり丸くんと乱太郎くんとしんべヱくんも一緒に来てくれるから大丈夫ですよ!」
「…………」
彼女は笑顔を作ってみせたが、その3人の名前に私はますます心配になってしまった。
だがなんと止めたらよいものか咄嗟に言葉が見つからず、私は「気をつけてくださいね」といって外出届を受け取った。
数刻後。
私は筆を持ったままじっと固まっていた。
…やはり、止めるべきだったか。
学園の外に出るのは初めてだし、あの3人と出かけて何も起こらないとは考えにくい。
私もついていけばよかったか……いやしかし、仕事でも朝から晩までずっと一緒にいるのだし、もしかしたらそんなところまででしゃばったら鬱陶しいと思われるかもしれない。
そもそも、私は彼女の保護者ではないのだから…いや、学園長先生にも彼女のことを頼むと言われているし、そうそう、だから私がこうして気にするのも当然な訳であって…。
それにしても、花を売るって大丈夫なのか?
もしも変な男が寄ってきたら…。
私は無意識に唇を噛み筆を握りしめた。
そして、ふと先程の彼女の言葉が脳裏に甦った。
『ある日突然パッとここから消えてしまうかもしれないから』
それは、たしかにその通りだ。
なのに、なぜ…。
その言葉に頷くことができなかった。
不思議な出会い方をしたのに、彼女がここに居ることがもう普通であることのようになりかけていた。
明日も彼女がここに居るとは限らないのに。
…元の世界に帰る方が、彼女のためだろう。
そしてもし帰る方法があるならば、一緒に探してやるべきだ。
…しかし。
なぜだろう。
どうしてこんなにも躊躇われるのか…そうしたくないと思う自分がいる。
「…………はぁ…。」
考えがまとまらず、何度目かの大きなため息をついた。
「半助、どうした?」
突如、山田先生に声をかけられ肩が跳ねた。
「や、山田先生!い、いつからここに!?」
「大分前からいるが…。何かあったのか。」
「あー、いえ、その……。」
言葉に迷っていると、山田先生の視線が私の手元に向けられていることに気づいた。
ふと目を落とすと、筆の先から墨がポタポタと落ちて水溜まりのようになっている紙があった。
「…さっき、たまみくんが焦った様子で化粧の仕方を教えてほしいと来たのだが…」
「化粧?」
「あぁ。乱太郎達と花を売りに行くと言っていた。」
「…はい、それは私も聞きました……。」
私が決まり悪く目をそらすと、山田先生は私が握りしめていた筆をスッと取りあげて硯に置いた。
「心配だな。」
「…はい、でも彼女も自由が欲しいでしょうし、ずっと私がついているのも鬱陶しいかもしれませんし…」
「ふむ……。」
山田先生は私を一瞬じろりと見据えた後、腕を組んでくるりと私に背を向けた。
「3人の担任として、心配じゃないか?」
「え?」
「記憶喪失で世間も知らない女性を連れて、自分の生徒達が無事に案内・労働・報酬を得て帰還できるのか。一年は組は実践に強いが、担任として様子が気になるだろう?…担任として。」
3人の担任、として…?
私はハッとして立ち上がった。
「そ、そうですね!山田先生、ちょっと様子を見てきます!」
「うむ、気をつけてな。」
勢いよく出ていく私の後ろで山田先生が「やれやれ…」と苦笑したことに私は気づかなかった。