第34話 あい言葉
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「合言葉かぁ…。」
私はお風呂上がりに廊下を歩きながら、さっきのことを考えていた。
本人かどうかなんて考えたこともなかったけれど、ここは忍者の学校なんだから誰かが誰かに変装していてもおかしくないんだなぁ。
改めてそんなことを実感した。
私は自分の部屋の前まで来てふと足を止めた。
今日は風がとても気持ちよくて涼しいから、少し廊下に座って涼んでみようかな…。
私は道を塞がないよう廊下の端に座ってみた。
「たまみさん、どうかしましたか。」
「土井先生!」
振り返ると、湯上がりらしき姿の土井先生が歩いてきた。
長い髪をおろして普段と違う印象で…さっきのこともあいまってドキドキしてしまう。
「ちょっと涼んでいただけです。…土井先生もお風呂出たとこですか?」
「はい。…確かに今日は涼しくていい気持ちですね。」
土井先生が私の横に腰かけた。
長い髪から滴が落ちそうになっている。
「ちゃんと拭かないと風邪ひきますよ。」
私はいつぞやのように部屋から手拭いと櫛を持ってきて土井先生の髪をゆっくりとかした。
土井先生はそのまま受け入れてくれて、「ありがとう」と小さく言った。
「この髪は本物の土井先生ですね…。」
「本物?」
「さっき合言葉を求められて気づいたんですけど、誰かが土井先生に変装することだってあるかもしれないんだなと…。」
「んー、まぁ、そうですねぇ。」
「…合言葉、決めてみますか?」
私が半分冗談でそう言うと、土井先生は意外と真面目な顔で「それもいいかもしれませんね。」と同意した。
「じゃあ、『練り物』と言ったら『好き』と答えるってどうですか?」
「なんで練り物なんだっ!?」
「言葉にしているうちに、本当に好きになるかもですよ。」
「ならなくて結構です!」
練り物のことになると子どもみたいにむきになる土井先生が可愛くて笑ってしまった。
「じゃあ、どんなのがいいですか?」
「…『虫』と言ったら『好き』とか?」
「い・や・で・す!」
「ははっ、そんなに嫌そうな顔しなくても。」
今度は土井先生が楽しげに笑った。
その無邪気な笑顔が、髪をおろしていることもあって何だかとても可愛らしくみえた。
「じゃあ…『雑炊』と言ったら『山菜』とか。…たまみさんに作ってもらった雑炊、美味しかったです。」
初めて土井先生のお家に行ったとき一緒に食べた雑炊のことを、そんなに覚えていてくれたのかと思うと気恥ずかしいような嬉しい気持ちになった。
土井先生もどこか照れたように微笑んでいる。
「雑炊と言ったら山菜……いいですね。」
2人だけの思い出を2人の合言葉に。
私にとって大切な思い出を、土井先生も大切に覚えてくれていることが嬉しかった。
「…また、いつでもお作りしますよ。」
土井先生は嬉しそうに微笑んだ。
「ありがとう…。…うん、じゃあ何かのときにはこれが合言葉で。」
「はい!」
なんだか2人だけの特別な秘密ができたようで嬉しかった。
「…まぁ、私は誰がたまみさんに変装してても分かりますけどね。」
「やっぱり忍者の先生は変装とか簡単に見破れるんですか?」
「それもあるけど…」
土井先生はスッと目を細めて私を見た。
静かな…真っ直ぐな眼差しに射ぬかれる。
「…きみを」
土井先生の手が私の頬に触れる。
「きみを間違えるわけがない…。」
その手の親指が私の頬を撫でた。
「こんなにも見ているのに…。」
「土井…先生……」
揺れる彼の瞳。
私は彼の手に自分の手を重ねた。
「…たまみさん…」
土井先生に真剣な目で見つめられ、瞬きすらできず見つめ返した。
ほんの数秒がとても長く…まるで時が止まったかのように感じて…。
やがて土井先生がゆっくり口を開いた。
「……たまみさん、私と…」
「土井先生~!しんべヱが仕掛け罠に挟まって出られなくなりましたー!」
遠くから大声で土井先生を呼ぶ乱太郎くんの声が響いた。
「…っ!」
土井先生は目に手を当てて大きなため息をついた。
「…すみません、ちょっと行ってきます。」
私は苦笑いして頷き、乱太郎くんの方へ歩いていく土井先生の背中をずっと眺めていた。
私はお風呂上がりに廊下を歩きながら、さっきのことを考えていた。
本人かどうかなんて考えたこともなかったけれど、ここは忍者の学校なんだから誰かが誰かに変装していてもおかしくないんだなぁ。
改めてそんなことを実感した。
私は自分の部屋の前まで来てふと足を止めた。
今日は風がとても気持ちよくて涼しいから、少し廊下に座って涼んでみようかな…。
私は道を塞がないよう廊下の端に座ってみた。
「たまみさん、どうかしましたか。」
「土井先生!」
振り返ると、湯上がりらしき姿の土井先生が歩いてきた。
長い髪をおろして普段と違う印象で…さっきのこともあいまってドキドキしてしまう。
「ちょっと涼んでいただけです。…土井先生もお風呂出たとこですか?」
「はい。…確かに今日は涼しくていい気持ちですね。」
土井先生が私の横に腰かけた。
長い髪から滴が落ちそうになっている。
「ちゃんと拭かないと風邪ひきますよ。」
私はいつぞやのように部屋から手拭いと櫛を持ってきて土井先生の髪をゆっくりとかした。
土井先生はそのまま受け入れてくれて、「ありがとう」と小さく言った。
「この髪は本物の土井先生ですね…。」
「本物?」
「さっき合言葉を求められて気づいたんですけど、誰かが土井先生に変装することだってあるかもしれないんだなと…。」
「んー、まぁ、そうですねぇ。」
「…合言葉、決めてみますか?」
私が半分冗談でそう言うと、土井先生は意外と真面目な顔で「それもいいかもしれませんね。」と同意した。
「じゃあ、『練り物』と言ったら『好き』と答えるってどうですか?」
「なんで練り物なんだっ!?」
「言葉にしているうちに、本当に好きになるかもですよ。」
「ならなくて結構です!」
練り物のことになると子どもみたいにむきになる土井先生が可愛くて笑ってしまった。
「じゃあ、どんなのがいいですか?」
「…『虫』と言ったら『好き』とか?」
「い・や・で・す!」
「ははっ、そんなに嫌そうな顔しなくても。」
今度は土井先生が楽しげに笑った。
その無邪気な笑顔が、髪をおろしていることもあって何だかとても可愛らしくみえた。
「じゃあ…『雑炊』と言ったら『山菜』とか。…たまみさんに作ってもらった雑炊、美味しかったです。」
初めて土井先生のお家に行ったとき一緒に食べた雑炊のことを、そんなに覚えていてくれたのかと思うと気恥ずかしいような嬉しい気持ちになった。
土井先生もどこか照れたように微笑んでいる。
「雑炊と言ったら山菜……いいですね。」
2人だけの思い出を2人の合言葉に。
私にとって大切な思い出を、土井先生も大切に覚えてくれていることが嬉しかった。
「…また、いつでもお作りしますよ。」
土井先生は嬉しそうに微笑んだ。
「ありがとう…。…うん、じゃあ何かのときにはこれが合言葉で。」
「はい!」
なんだか2人だけの特別な秘密ができたようで嬉しかった。
「…まぁ、私は誰がたまみさんに変装してても分かりますけどね。」
「やっぱり忍者の先生は変装とか簡単に見破れるんですか?」
「それもあるけど…」
土井先生はスッと目を細めて私を見た。
静かな…真っ直ぐな眼差しに射ぬかれる。
「…きみを」
土井先生の手が私の頬に触れる。
「きみを間違えるわけがない…。」
その手の親指が私の頬を撫でた。
「こんなにも見ているのに…。」
「土井…先生……」
揺れる彼の瞳。
私は彼の手に自分の手を重ねた。
「…たまみさん…」
土井先生に真剣な目で見つめられ、瞬きすらできず見つめ返した。
ほんの数秒がとても長く…まるで時が止まったかのように感じて…。
やがて土井先生がゆっくり口を開いた。
「……たまみさん、私と…」
「土井先生~!しんべヱが仕掛け罠に挟まって出られなくなりましたー!」
遠くから大声で土井先生を呼ぶ乱太郎くんの声が響いた。
「…っ!」
土井先生は目に手を当てて大きなため息をついた。
「…すみません、ちょっと行ってきます。」
私は苦笑いして頷き、乱太郎くんの方へ歩いていく土井先生の背中をずっと眺めていた。