第5話 白布
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一通り洗濯の仕方を教わると、私は半ば無理矢理に土井先生の残りの洗濯物も受け取って一人で洗い始めた。
けっこう力がいるなぁ。
とくに絞るのが大変すぎる…。
濡れて重い忍装束をザバッと上に持ち上げてみる。
黒い布が太陽の光にキラキラ眩しく光り、ポタポタと雫が落ちていった。
…大きい。
土井先生、背が高いもんなぁ…。
そんなことを考えていると、後ろから声をかけられた。
「お疲れ様です、いい洗濯日和ですね。」
深緑色の制服を着た薄い茶髪の男の子が笑顔で話しかけてきた。
「6年は組の善法寺伊作といいます。今日はいい天気なので保険室の包帯とか布団を洗濯しようと思いまして。お隣いいですか?」
「あ、どうぞどうぞ。私は1年は組補佐の…」
「たまみさん、ですよね?保健委員会の乱太郎からも話は聞いてますよ。」
善法寺くんはにこりと笑い、かごにいっぱいの洗濯物を下に降ろした。
「え、一人でそんなにたくさん洗うんですか?ちょっと手伝いますよ?」
「ありがとうございます。いつもは後輩も手伝ってくれるんですが、今日は薬草を取りに行って貰ってまして…。」
善法寺くんは私と並んで洗濯し始めた。
彼は保険委員会の委員長とのことで、その肩書き通り穏やかで優しい印象をうけた。
洗濯しながら、他の6年生の話や委員会のことなどを教えてくれる。
「…たまみさんは記憶の欠けたところがあるって聞きましたけど、まだ思い出せないんですか?」
「はい…日常的なことも分からなくて…」
「それは大変ですね。記憶がなくなったときに…どこか怪我はしてませんか?もし痛むとか気になることがあれば、いつでも保健室にきてくださいね。」
善法寺くんは心配そうな顔で気遣いながらそう言ってくれた。
本当は怪我のせいではないので、嘘をついていることに胸が痛んだ。
「ありがとうございます。」
思わず目をそらして苦笑いになってしまったのを遠慮と捉えられたようで、善法寺くんは少し困ったように微笑んだ。
「本当に遠慮はしないでくださいね。保健室はそのためにあるんですから。…あと、敬語は使わなくていいですよ。たまみさんは教員補佐なのですから、どうか気軽に話してください。」
さすが保健委員会の委員長というだけあって、何だかお医者さんかなと思うくらいにしっかりして優しくて驚いた。
みんなとどの程度の距離感で接すればいいのか迷っていた私は、そう言われればそういうものかなと納得して頷いた。
「わかりました…ありがとう。あ、私の洗濯物は終わったからそっちのも手伝うよ?」
私は手元の洗濯物を全て干し終わったので、まだ手つかずの包帯を洗い出した。
「すみません、ありがとうございます。」
善法寺くんは申し訳なさそうに言ったが、ふと笑ってこちらを見た。
「土井先生はいいですね、こんな可愛い女性に補佐してもらって洗濯までしてもらえるなんて。」
「あ、これは…先生が洗ってほしいと言ったんじゃなくて私がさせてくださいってお願いしただけで…」
「1年は組はよく補習で休みがなくなるみたいですし、土井先生も助かると思いますよ。」
「少しはお役にたててたらいいんだけど…」
そんな話をしながら、最後に二人で大きな白い布を干した。
「結局たくさん手伝ってもらってすみません。」
善法寺くんがそう言って片付けようとしたとき。
彼の足が洗濯物を干している棒の台にひっかかって、台ごと全部こちらに倒れてきた。
「わっ?!」
「危ないっ!」
私は避けようとして足元の石に躓き、後ろに倒れてお尻を地面に打ち付けた。
木材が倒れる音がして、視界が遮られた。
「大丈夫ですか!?」
目の前に深緑色。
何が起きたか一瞬分からなかったが、善法寺くんが私の上に覆い被さって私の頭を抱えていた。
「!?」
私が頭を地面にぶつけないよう、片手で守ってくれたようだ。
もう片方の手は地面についていて、彼の上には先程干したばかりの大きな白布が被さっていた。
「おーい、大丈ぶ、か…!?」
「「!」」
遠くから土井先生の声が聞こえて、すぐに視界が明るくなった。
土井先生が白布を勢いよくはがし、こちらを見て固まっている。
「ど、土井先生!違うんです、これはっ…!」
善法寺くんが慌てて説明しようとすると
「離れなさい」
聞いたことのない低い声で、土井先生が短く言い放った。
善法寺くんがすぐに立ち上がり私を起こそうとすると、その前に土井先生が私の腕を引いて力強く立ち上がらせた。
お、怒ってる…!?
土井先生は落ちている洗濯物と台を見てため息をついた。
「伊作」
「ッはい!」
「あとは、一人で片付けられるな?」
「…はい。」
土井先生は私の腕を引いて無言で歩きだした。
…もしかして何か怒らせてしまったのだろうか。
おしゃべりして遅かったとか、洗濯もひっくり返してちゃんとできないとか…
「あ、の、土井先生…。すみません、私…」
「大丈夫ですか?」
「え?」
土井先生は立ち止まって、私の背中についた砂をパッパッとはらってくれた。
「怪我とか痛むところはありませんか?」
「はい、善法寺くんがかばってくれたので大丈夫でした。」
「……そうですか。」
土井先生は難しい顔をして言葉をそこで止めた。
あ…!
もしかして私が転んだせいで大事な生徒が巻き込まれて怪我をするところだったから怒っている?!
忍者の学校にいるには私やっぱりどんくさいというかご迷惑を…!?
謝りかけたとき、土井先生が何かを考えている様子で小さく言った。
「……戻ってこないから何かあったかと心配しましたよ。」
私は予想外の言葉に固まってきょとんとした。
心配?
心配したって……私を?
土井先生は優しいから、私が困ったことになってないか心配してくれたということ…?
あ、それより学園長先生から私のことを頼まれているから何かしでかしちゃってないかなって感じで?
じゃあ、不機嫌な感じだったのは心配させてしまったから…?
「あ、すみません!保健委員会の洗濯のお手伝いをしてて…!」
慌てて説明しようとすると、土井先生は驚くでもなく頷いた。
さっきの様子を見ただけでもう分かっているということみたい…さすが忍者の先生、洞察力がすごい。
「たくさん洗うのは疲れたでしょう、ありがとうございます。」
そう労ってくれる土井先生の目は優しかった。
もう怒ってないみたい…?
私はちょっと安心して、ぶんぶんと両手を振った。
「いえ、お役にたてたのなら嬉しいです。絞る力が足りなくて乾くのに時間かかっちゃうかもしれませんが…。」
「今日はいい天気で風もあるし大丈夫でしょう。」
そのときちょうどヒュッと大きく風がふき、私は顔にまとわりつく髪を手ではらいのけた。
たしかに風があるなと思いながら「そうですね」と返すと、パチリと土井先生と目があった。
こちらを真っ直ぐに見つめる目。
…視線が、はずせない。
私はじっと土井先生を見つめてしまった。
それは一瞬のことなのに、何故か長く感じられて…。
刹那、ふいにゆっくりと彼の手が伸びてきて、そっと私の頬に触れた。
ドキリとして体が固まった。
どうしてよいかわからず硬直する。
その指が私の頬を少しこすり…汚れを拭ってくれたのか、しかしその手はそのまま頬に触れたままで、土井先生はじっと真っ直ぐに私を見つめた。
「……たまみさん」
「はい?」
土井先生は一瞬だけ青空を仰ぎ見たあと、私ににこりと微笑みかけた。
「…洗濯、次からは私と一緒にやりましょう。」
!!
それは、青空のようにとても爽やかな笑顔。
改めて格好いいなぁと見惚れてしまい…。
本当は、忙しい土井先生のお役に立ちたいから私一人で…と心のなかで言いかけたにも関わらず、気づけば「はい!」と返事をしてしまった。
けっこう力がいるなぁ。
とくに絞るのが大変すぎる…。
濡れて重い忍装束をザバッと上に持ち上げてみる。
黒い布が太陽の光にキラキラ眩しく光り、ポタポタと雫が落ちていった。
…大きい。
土井先生、背が高いもんなぁ…。
そんなことを考えていると、後ろから声をかけられた。
「お疲れ様です、いい洗濯日和ですね。」
深緑色の制服を着た薄い茶髪の男の子が笑顔で話しかけてきた。
「6年は組の善法寺伊作といいます。今日はいい天気なので保険室の包帯とか布団を洗濯しようと思いまして。お隣いいですか?」
「あ、どうぞどうぞ。私は1年は組補佐の…」
「たまみさん、ですよね?保健委員会の乱太郎からも話は聞いてますよ。」
善法寺くんはにこりと笑い、かごにいっぱいの洗濯物を下に降ろした。
「え、一人でそんなにたくさん洗うんですか?ちょっと手伝いますよ?」
「ありがとうございます。いつもは後輩も手伝ってくれるんですが、今日は薬草を取りに行って貰ってまして…。」
善法寺くんは私と並んで洗濯し始めた。
彼は保険委員会の委員長とのことで、その肩書き通り穏やかで優しい印象をうけた。
洗濯しながら、他の6年生の話や委員会のことなどを教えてくれる。
「…たまみさんは記憶の欠けたところがあるって聞きましたけど、まだ思い出せないんですか?」
「はい…日常的なことも分からなくて…」
「それは大変ですね。記憶がなくなったときに…どこか怪我はしてませんか?もし痛むとか気になることがあれば、いつでも保健室にきてくださいね。」
善法寺くんは心配そうな顔で気遣いながらそう言ってくれた。
本当は怪我のせいではないので、嘘をついていることに胸が痛んだ。
「ありがとうございます。」
思わず目をそらして苦笑いになってしまったのを遠慮と捉えられたようで、善法寺くんは少し困ったように微笑んだ。
「本当に遠慮はしないでくださいね。保健室はそのためにあるんですから。…あと、敬語は使わなくていいですよ。たまみさんは教員補佐なのですから、どうか気軽に話してください。」
さすが保健委員会の委員長というだけあって、何だかお医者さんかなと思うくらいにしっかりして優しくて驚いた。
みんなとどの程度の距離感で接すればいいのか迷っていた私は、そう言われればそういうものかなと納得して頷いた。
「わかりました…ありがとう。あ、私の洗濯物は終わったからそっちのも手伝うよ?」
私は手元の洗濯物を全て干し終わったので、まだ手つかずの包帯を洗い出した。
「すみません、ありがとうございます。」
善法寺くんは申し訳なさそうに言ったが、ふと笑ってこちらを見た。
「土井先生はいいですね、こんな可愛い女性に補佐してもらって洗濯までしてもらえるなんて。」
「あ、これは…先生が洗ってほしいと言ったんじゃなくて私がさせてくださいってお願いしただけで…」
「1年は組はよく補習で休みがなくなるみたいですし、土井先生も助かると思いますよ。」
「少しはお役にたててたらいいんだけど…」
そんな話をしながら、最後に二人で大きな白い布を干した。
「結局たくさん手伝ってもらってすみません。」
善法寺くんがそう言って片付けようとしたとき。
彼の足が洗濯物を干している棒の台にひっかかって、台ごと全部こちらに倒れてきた。
「わっ?!」
「危ないっ!」
私は避けようとして足元の石に躓き、後ろに倒れてお尻を地面に打ち付けた。
木材が倒れる音がして、視界が遮られた。
「大丈夫ですか!?」
目の前に深緑色。
何が起きたか一瞬分からなかったが、善法寺くんが私の上に覆い被さって私の頭を抱えていた。
「!?」
私が頭を地面にぶつけないよう、片手で守ってくれたようだ。
もう片方の手は地面についていて、彼の上には先程干したばかりの大きな白布が被さっていた。
「おーい、大丈ぶ、か…!?」
「「!」」
遠くから土井先生の声が聞こえて、すぐに視界が明るくなった。
土井先生が白布を勢いよくはがし、こちらを見て固まっている。
「ど、土井先生!違うんです、これはっ…!」
善法寺くんが慌てて説明しようとすると
「離れなさい」
聞いたことのない低い声で、土井先生が短く言い放った。
善法寺くんがすぐに立ち上がり私を起こそうとすると、その前に土井先生が私の腕を引いて力強く立ち上がらせた。
お、怒ってる…!?
土井先生は落ちている洗濯物と台を見てため息をついた。
「伊作」
「ッはい!」
「あとは、一人で片付けられるな?」
「…はい。」
土井先生は私の腕を引いて無言で歩きだした。
…もしかして何か怒らせてしまったのだろうか。
おしゃべりして遅かったとか、洗濯もひっくり返してちゃんとできないとか…
「あ、の、土井先生…。すみません、私…」
「大丈夫ですか?」
「え?」
土井先生は立ち止まって、私の背中についた砂をパッパッとはらってくれた。
「怪我とか痛むところはありませんか?」
「はい、善法寺くんがかばってくれたので大丈夫でした。」
「……そうですか。」
土井先生は難しい顔をして言葉をそこで止めた。
あ…!
もしかして私が転んだせいで大事な生徒が巻き込まれて怪我をするところだったから怒っている?!
忍者の学校にいるには私やっぱりどんくさいというかご迷惑を…!?
謝りかけたとき、土井先生が何かを考えている様子で小さく言った。
「……戻ってこないから何かあったかと心配しましたよ。」
私は予想外の言葉に固まってきょとんとした。
心配?
心配したって……私を?
土井先生は優しいから、私が困ったことになってないか心配してくれたということ…?
あ、それより学園長先生から私のことを頼まれているから何かしでかしちゃってないかなって感じで?
じゃあ、不機嫌な感じだったのは心配させてしまったから…?
「あ、すみません!保健委員会の洗濯のお手伝いをしてて…!」
慌てて説明しようとすると、土井先生は驚くでもなく頷いた。
さっきの様子を見ただけでもう分かっているということみたい…さすが忍者の先生、洞察力がすごい。
「たくさん洗うのは疲れたでしょう、ありがとうございます。」
そう労ってくれる土井先生の目は優しかった。
もう怒ってないみたい…?
私はちょっと安心して、ぶんぶんと両手を振った。
「いえ、お役にたてたのなら嬉しいです。絞る力が足りなくて乾くのに時間かかっちゃうかもしれませんが…。」
「今日はいい天気で風もあるし大丈夫でしょう。」
そのときちょうどヒュッと大きく風がふき、私は顔にまとわりつく髪を手ではらいのけた。
たしかに風があるなと思いながら「そうですね」と返すと、パチリと土井先生と目があった。
こちらを真っ直ぐに見つめる目。
…視線が、はずせない。
私はじっと土井先生を見つめてしまった。
それは一瞬のことなのに、何故か長く感じられて…。
刹那、ふいにゆっくりと彼の手が伸びてきて、そっと私の頬に触れた。
ドキリとして体が固まった。
どうしてよいかわからず硬直する。
その指が私の頬を少しこすり…汚れを拭ってくれたのか、しかしその手はそのまま頬に触れたままで、土井先生はじっと真っ直ぐに私を見つめた。
「……たまみさん」
「はい?」
土井先生は一瞬だけ青空を仰ぎ見たあと、私ににこりと微笑みかけた。
「…洗濯、次からは私と一緒にやりましょう。」
!!
それは、青空のようにとても爽やかな笑顔。
改めて格好いいなぁと見惚れてしまい…。
本当は、忙しい土井先生のお役に立ちたいから私一人で…と心のなかで言いかけたにも関わらず、気づけば「はい!」と返事をしてしまった。