第28話 星
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眠る前、私はときどき星を見ていた。
今日もいつもと同じ星が同じ方角に見える。
私が元居た世界でも、同じ星を見ているのだろうか。
それとも、星すらも全く異なるところから来たのだろうか。
手をかざしてみる。
星はいつも同じように見えるけれど、ここからどれくらいの距離があるのだろう。
私の居た世界は、ここからどれくらいの距離があるのだろう。
ぼんやりとそんなことを考えながら廊下に座って夜空を見上げていると、大好きな優しい声がした。
「眠れないのですか?」
「土井先生…。」
土井先生は忙しいのかこんな夜更けにお風呂に入っていたようで、髪がまだ濡れていた。
夜着をきて長い髪をおろし、少し上気した頬が艶っぽいなと思う。
「こんな時間にお風呂ですか?」
「色々あって遅くなってしまいました。隣、いいですか。」
土井先生が隣に座った。
石鹸の香りがする。
「ちゃんと拭かないと風邪ひきますよ。」
私はすぐ後ろの自室から手拭いをとってきて土井先生の濡れた髪をそっと拭いた。
長くてぼさぼさな、私の大好きな髪。
とかそうとしてそのまま櫛を通してみたが、少しずつしか櫛が通らない。
「斉藤くんじゃないですけど、もう少し髪を大事にしてもいいかもですね。」
「あはは、いつも言われるよ。」
「私はこの髪も大好きなんですけどね…」
独り言のように半ば無意識に呟いたその言葉に、土井先生が赤くなっていたことに私は気づかなかった。
土井先生は私にされるがままじっと夜空を見ていた。
「…星を見て、何を思っていたのですか?」
土井先生が静かに聞いた。
私は櫛を置いて土井先生の隣に座った。
「…あの星。」
私は一際明るく輝く星を指差した。
「毎晩、同じくらいの場所に見えるあの星を…私の元の世界の誰かも見ているのかなとか考えてました。」
「…寂しい?」
土井先生こそが寂しそうな顔で私を見た。
なぜ土井先生がそんな顔をするのだろう。
私はゆっくりと首をふった。
「いえ、毎日色んなことがありすぎて…寂しいと思う暇もありません。」
「はは、それは確かにそうかもなぁ。」
土井先生は少し笑って、でもすぐに固い表情で星を見上げた。
「もし」
「?」
「もし帰れるなら…帰りたい?」
土井先生の目が真っ直ぐに私をとらえた。
私は何度となく思いを馳せた記憶にない故郷のことを考えた。
そこにはおそらく、私が大事に想う家族や友人達がいるのだろう。
…………けれど……。
私は目を伏せた。
「いいえ…。ここはとても居心地がよくて。今はみんなと…土井先生とここに居たいと思います。」
「たまみさん…」
そう言うと、膝の上に置いていた私の右手が土井先生の左手に包まれた。
あたたかくて大きな手。
土井先生は何も言わなかった。
私は重ねられた手を見つめた。
土井先生のあたたかさが、優しさが伝わってくる気がした。
私は少し体を土井先生に寄せて、その腕にそっと体をもたれた。
土井先生はやはり何も言わなかったけれど、重ねられた手に少し力が入った気がした。
「…あの大きな星が土井先生としたら、その周りのあの小さな星が一年は組のみんなですね。」
私は星空を指差した。
「同じくらいの時間に同じ場所に現れる…みんないつも一緒にいてる星。」
「じゃあたまみさんはあの星かな。…きみもいつも一緒だ。」
その言葉に何だか頬が赤くなった。
土井先生の口からいつも一緒だなんて言われたら、期待から勘違いしてしまいそうになる…。
「星には天からのメッセージが込められているって考えがあってね。星を見て先の運命を占ったり政治的判断を委ねたりするところもあるらしい。」
土井先生が穏やかに微笑んだ。
「私は星を読みとくことはできないけど、我々もあの星達のようにこうやって…共に輝けたらいいなと思う…。」
「……そうですね…。」
私はそう言って目を閉じた。
ずっと一緒に居たい…でも自分がこの先どうなるのか見当もつかなくて…今はただ、土井先生が隣にいてくれる…それだけで嬉しかった。
私の心の夜空に道標のように輝く彼という星が、私をここまで歩かせてくれたと思う。
「好きだなぁ…」
自然と口からこぼれてしまった。
私は自分の声にハッとして慌てて「あ、星がですよ!?」と付け足した。
土井先生は驚いた顔をしていたけれど、小さな声で「それは残念」と言った。
私はそこからどう言葉を紡いでよいか分からず、星を見ることもできず俯いて、重ねられたままの温かい手をじっと見ていた。
今日もいつもと同じ星が同じ方角に見える。
私が元居た世界でも、同じ星を見ているのだろうか。
それとも、星すらも全く異なるところから来たのだろうか。
手をかざしてみる。
星はいつも同じように見えるけれど、ここからどれくらいの距離があるのだろう。
私の居た世界は、ここからどれくらいの距離があるのだろう。
ぼんやりとそんなことを考えながら廊下に座って夜空を見上げていると、大好きな優しい声がした。
「眠れないのですか?」
「土井先生…。」
土井先生は忙しいのかこんな夜更けにお風呂に入っていたようで、髪がまだ濡れていた。
夜着をきて長い髪をおろし、少し上気した頬が艶っぽいなと思う。
「こんな時間にお風呂ですか?」
「色々あって遅くなってしまいました。隣、いいですか。」
土井先生が隣に座った。
石鹸の香りがする。
「ちゃんと拭かないと風邪ひきますよ。」
私はすぐ後ろの自室から手拭いをとってきて土井先生の濡れた髪をそっと拭いた。
長くてぼさぼさな、私の大好きな髪。
とかそうとしてそのまま櫛を通してみたが、少しずつしか櫛が通らない。
「斉藤くんじゃないですけど、もう少し髪を大事にしてもいいかもですね。」
「あはは、いつも言われるよ。」
「私はこの髪も大好きなんですけどね…」
独り言のように半ば無意識に呟いたその言葉に、土井先生が赤くなっていたことに私は気づかなかった。
土井先生は私にされるがままじっと夜空を見ていた。
「…星を見て、何を思っていたのですか?」
土井先生が静かに聞いた。
私は櫛を置いて土井先生の隣に座った。
「…あの星。」
私は一際明るく輝く星を指差した。
「毎晩、同じくらいの場所に見えるあの星を…私の元の世界の誰かも見ているのかなとか考えてました。」
「…寂しい?」
土井先生こそが寂しそうな顔で私を見た。
なぜ土井先生がそんな顔をするのだろう。
私はゆっくりと首をふった。
「いえ、毎日色んなことがありすぎて…寂しいと思う暇もありません。」
「はは、それは確かにそうかもなぁ。」
土井先生は少し笑って、でもすぐに固い表情で星を見上げた。
「もし」
「?」
「もし帰れるなら…帰りたい?」
土井先生の目が真っ直ぐに私をとらえた。
私は何度となく思いを馳せた記憶にない故郷のことを考えた。
そこにはおそらく、私が大事に想う家族や友人達がいるのだろう。
…………けれど……。
私は目を伏せた。
「いいえ…。ここはとても居心地がよくて。今はみんなと…土井先生とここに居たいと思います。」
「たまみさん…」
そう言うと、膝の上に置いていた私の右手が土井先生の左手に包まれた。
あたたかくて大きな手。
土井先生は何も言わなかった。
私は重ねられた手を見つめた。
土井先生のあたたかさが、優しさが伝わってくる気がした。
私は少し体を土井先生に寄せて、その腕にそっと体をもたれた。
土井先生はやはり何も言わなかったけれど、重ねられた手に少し力が入った気がした。
「…あの大きな星が土井先生としたら、その周りのあの小さな星が一年は組のみんなですね。」
私は星空を指差した。
「同じくらいの時間に同じ場所に現れる…みんないつも一緒にいてる星。」
「じゃあたまみさんはあの星かな。…きみもいつも一緒だ。」
その言葉に何だか頬が赤くなった。
土井先生の口からいつも一緒だなんて言われたら、期待から勘違いしてしまいそうになる…。
「星には天からのメッセージが込められているって考えがあってね。星を見て先の運命を占ったり政治的判断を委ねたりするところもあるらしい。」
土井先生が穏やかに微笑んだ。
「私は星を読みとくことはできないけど、我々もあの星達のようにこうやって…共に輝けたらいいなと思う…。」
「……そうですね…。」
私はそう言って目を閉じた。
ずっと一緒に居たい…でも自分がこの先どうなるのか見当もつかなくて…今はただ、土井先生が隣にいてくれる…それだけで嬉しかった。
私の心の夜空に道標のように輝く彼という星が、私をここまで歩かせてくれたと思う。
「好きだなぁ…」
自然と口からこぼれてしまった。
私は自分の声にハッとして慌てて「あ、星がですよ!?」と付け足した。
土井先生は驚いた顔をしていたけれど、小さな声で「それは残念」と言った。
私はそこからどう言葉を紡いでよいか分からず、星を見ることもできず俯いて、重ねられたままの温かい手をじっと見ていた。