硝子の誓い
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火影執務室の窓から、午前特有の明るい光が斜めに差し込んでいた。
古びた木の机に手をつきながら、三代目火影・猿飛ヒルゼンはゆっくりと口を開いた。
「明日から、ナマエをお主の班員として所属させることとした」
それを聞いたはたけカカシは、目を細めた。
「……苗字ナマエを、ですか?」
ただの確認ではなかった。一瞬聞き間違いかと思ったのだ。
下忍の班に入れる人材じゃない。カカシがまず思ったのがそれだった。
三代目は頷き、煙管をくゆらせる。
「そうじゃ。第七班には、ナルトがいる。……お前の手に負えぬ時も、あるやもしれん」
「それは――私の補佐として入る、と?」
カカシは淡々と尋ねたが、その声には明確な否定が混じっていた。
「半分そうで、――半分違う。
実際、あの子には別に任務を与えてある。九尾の暴走時の抑止よ」
カカシは答えなかった。
ヒルゼンは一度言葉を切り、煙管の煙を細く吐き出す。
「……じゃが、それは建前じゃ」
静かに続ける。
「わしはあの子に、ただ同じ年代の者と過ごしてほしい。
“子どもとしての時間”が、あの子には必要じゃろうて」
その言葉は、カカシの予想とは少し違っていた。
任務でも、役割でもない。
それは火影としてではなく、老いたひとりの忍としての、願いでもあることが伝わり、カカシは何も言わなかった。
「……了解です、先生」
カカシの言葉をまるで理解していないのに、いわゆる"正確な答え"を返したナマエの顔を思い出す。
カカシは、しばらく黙っていた。やがて静かにうなずき、片目を閉じた。
「……承知しました。任されましょう」
三代目の目が細められる。慈しみと、ほんのわずかな安堵が滲んでいた。
「世話をかける」
「そういうのは……慣れていますので」
カカシのその返答に、ヒルゼンは「すまんのう」と言いつつ柔らかく笑った。
しばらく、カカシとヒルゼンの詳しい任務の打ち合わせが続く。
風が木の葉を揺らしている音が、静かに室内を満たしていた。
*****
赤く染まりはじめた夕暮れの木ノ葉の通り。
沈みかけた陽が建物の影を長く伸ばし、風が少し冷たくなっていたころ。サスケはいつもの帰り道を歩いていた。
今日も変わらない、はずだった――あの人影を見つけるまでは。
道の端。立ち止まる気配。
普通の通行人なら、こんな場所で立ち止まったりしない。
「……お前……!」
掠れるような低い声。それでも、驚きと怒りがにじむ。その人影が、ゆっくりとサスケを見た。
目が合った。
少女は一瞬だけ言葉を探すようにしてから、一言だけ告げた。
「……サスケ」
「お前……」
名前を確認するように呼ぶ声が、あまりにも淡々としていた。それがサスケの胸の奥に火を灯す。
「お前……今までどこにいたんだよ! なんで――なんで一度も、顔を見せなかった?!」
彼らは実に五年ぶりの再会だった。
サスケの怒気に満ちた叫びが、夕暮れの路地に響く。
ナマエは一瞬だけ目を伏せた。そして何かを飲み込むようにして――
「……ごめん」
それだけだった。言い訳も、説明もない。
そのあまりにも小さな一言に、サスケは逆に苛立った。
「ごめんじゃねぇよ……!」
声が震えた。怒りとも、悲しみともつかない感情が、少年の表情を歪める。
「……俺はすべて無くして、お前も……!俺は……!」
一瞬、声がかすれた。
あの夜。血に染まった屋敷。焼けた匂い。
全てがなくなった屋敷の中で、彼女の姿を探していた。心のどこかで、いつも。
でも――会えなかった。
「それは……」
ナマエは何かを言おうとして、そのさきの言葉を飲み込んだ。
本当は会いたかった、でも、会えなかった、とはあまりにも身勝手な言い訳で、とてもじゃないが言えなかった。
瞳が少しだけ傷ついたかのように揺らいだあと、決心したかのように、サスケを見つめる。
「……うまく言えないけど、ごめん」
視線を合わせると、彼女の瞳は深い井戸のように静かで、底が見えなかった。
サスケは、息をのんだ。怒っているはずなのに、動けなかった。
心が、何かに囚われたようだった。
――会いたかった。
たったそれだけのことを、今ようやく実感している。
――けど、それでも。
「何年も……何年も黙ってて。のこのこ現れて……!」
何年間も抱えた怒りはすぐに治らなかった。
「今さら、何の用だよ…!」
冷たく吐き捨てたサスケに対し、ナマエは、ほんの少しだけ微笑んだ。けれどその笑顔はどこか泣きそうで、震えていた。
「……みんなの前で会うより、先にサスケに言っておきたかったの」
「言うって、何を」
「……明日から、第七班に入ることになった」
「……は?」
予想だにしなかった言葉に、サスケの思考が止まった。
数秒遅れて理解が追いつき、思わず間の抜けた声がこぼれる。
「お前が……? 俺たちの班に?」
ナマエは小さくうなずいた。
言いたいことはたくさんあった。彼女は暗部に所属していたのではなかったか、明日からってどういうことだ、でもそれはいずれも言葉にならなかった。
「サスケと……このままじゃ、だめだと思った」
その言葉が口からこぼれた瞬間、自分でも、少しだけ驚いていた。
――どうして、そんなことを言ったんだろう。
第七班への所属が決まったあの日。
三代目の前で言われた言葉が、ふいに蘇る。
『……第七班の者たちと、できるだけ良い関係を築いてくれ』
(……良い関係)
サスケの顔が浮かぶ。
自分には関係のない言葉だと思っていた。
ずっと任務だけをしてきた。
関わらないようにしてきた。
サスケにも、うちはにも、あの夜にも。
けれど――それが、任務の支障になるならば。
そう言い訳して、今、サスケの前にたった。
「前みたいに、戻りたい」
その言葉は、用意されていたようにも、思わずこぼれたようにも聞こえた。
だがその声音に、かつての懐かしさがあることにサスケは気づく。だが今のサスケでは、簡単にはそれを受け入れられるはずがなかった。
それでも、視線をそらせなかった。
まるで、何かが再び動き出すように。
それが、再会の痛みだった。
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20260413 加筆修正
古びた木の机に手をつきながら、三代目火影・猿飛ヒルゼンはゆっくりと口を開いた。
「明日から、ナマエをお主の班員として所属させることとした」
それを聞いたはたけカカシは、目を細めた。
「……苗字ナマエを、ですか?」
ただの確認ではなかった。一瞬聞き間違いかと思ったのだ。
下忍の班に入れる人材じゃない。カカシがまず思ったのがそれだった。
三代目は頷き、煙管をくゆらせる。
「そうじゃ。第七班には、ナルトがいる。……お前の手に負えぬ時も、あるやもしれん」
「それは――私の補佐として入る、と?」
カカシは淡々と尋ねたが、その声には明確な否定が混じっていた。
「半分そうで、――半分違う。
実際、あの子には別に任務を与えてある。九尾の暴走時の抑止よ」
カカシは答えなかった。
ヒルゼンは一度言葉を切り、煙管の煙を細く吐き出す。
「……じゃが、それは建前じゃ」
静かに続ける。
「わしはあの子に、ただ同じ年代の者と過ごしてほしい。
“子どもとしての時間”が、あの子には必要じゃろうて」
その言葉は、カカシの予想とは少し違っていた。
任務でも、役割でもない。
それは火影としてではなく、老いたひとりの忍としての、願いでもあることが伝わり、カカシは何も言わなかった。
「……了解です、先生」
カカシの言葉をまるで理解していないのに、いわゆる"正確な答え"を返したナマエの顔を思い出す。
カカシは、しばらく黙っていた。やがて静かにうなずき、片目を閉じた。
「……承知しました。任されましょう」
三代目の目が細められる。慈しみと、ほんのわずかな安堵が滲んでいた。
「世話をかける」
「そういうのは……慣れていますので」
カカシのその返答に、ヒルゼンは「すまんのう」と言いつつ柔らかく笑った。
しばらく、カカシとヒルゼンの詳しい任務の打ち合わせが続く。
風が木の葉を揺らしている音が、静かに室内を満たしていた。
*****
赤く染まりはじめた夕暮れの木ノ葉の通り。
沈みかけた陽が建物の影を長く伸ばし、風が少し冷たくなっていたころ。サスケはいつもの帰り道を歩いていた。
今日も変わらない、はずだった――あの人影を見つけるまでは。
道の端。立ち止まる気配。
普通の通行人なら、こんな場所で立ち止まったりしない。
「……お前……!」
掠れるような低い声。それでも、驚きと怒りがにじむ。その人影が、ゆっくりとサスケを見た。
目が合った。
少女は一瞬だけ言葉を探すようにしてから、一言だけ告げた。
「……サスケ」
「お前……」
名前を確認するように呼ぶ声が、あまりにも淡々としていた。それがサスケの胸の奥に火を灯す。
「お前……今までどこにいたんだよ! なんで――なんで一度も、顔を見せなかった?!」
彼らは実に五年ぶりの再会だった。
サスケの怒気に満ちた叫びが、夕暮れの路地に響く。
ナマエは一瞬だけ目を伏せた。そして何かを飲み込むようにして――
「……ごめん」
それだけだった。言い訳も、説明もない。
そのあまりにも小さな一言に、サスケは逆に苛立った。
「ごめんじゃねぇよ……!」
声が震えた。怒りとも、悲しみともつかない感情が、少年の表情を歪める。
「……俺はすべて無くして、お前も……!俺は……!」
一瞬、声がかすれた。
あの夜。血に染まった屋敷。焼けた匂い。
全てがなくなった屋敷の中で、彼女の姿を探していた。心のどこかで、いつも。
でも――会えなかった。
「それは……」
ナマエは何かを言おうとして、そのさきの言葉を飲み込んだ。
本当は会いたかった、でも、会えなかった、とはあまりにも身勝手な言い訳で、とてもじゃないが言えなかった。
瞳が少しだけ傷ついたかのように揺らいだあと、決心したかのように、サスケを見つめる。
「……うまく言えないけど、ごめん」
視線を合わせると、彼女の瞳は深い井戸のように静かで、底が見えなかった。
サスケは、息をのんだ。怒っているはずなのに、動けなかった。
心が、何かに囚われたようだった。
――会いたかった。
たったそれだけのことを、今ようやく実感している。
――けど、それでも。
「何年も……何年も黙ってて。のこのこ現れて……!」
何年間も抱えた怒りはすぐに治らなかった。
「今さら、何の用だよ…!」
冷たく吐き捨てたサスケに対し、ナマエは、ほんの少しだけ微笑んだ。けれどその笑顔はどこか泣きそうで、震えていた。
「……みんなの前で会うより、先にサスケに言っておきたかったの」
「言うって、何を」
「……明日から、第七班に入ることになった」
「……は?」
予想だにしなかった言葉に、サスケの思考が止まった。
数秒遅れて理解が追いつき、思わず間の抜けた声がこぼれる。
「お前が……? 俺たちの班に?」
ナマエは小さくうなずいた。
言いたいことはたくさんあった。彼女は暗部に所属していたのではなかったか、明日からってどういうことだ、でもそれはいずれも言葉にならなかった。
「サスケと……このままじゃ、だめだと思った」
その言葉が口からこぼれた瞬間、自分でも、少しだけ驚いていた。
――どうして、そんなことを言ったんだろう。
第七班への所属が決まったあの日。
三代目の前で言われた言葉が、ふいに蘇る。
『……第七班の者たちと、できるだけ良い関係を築いてくれ』
(……良い関係)
サスケの顔が浮かぶ。
自分には関係のない言葉だと思っていた。
ずっと任務だけをしてきた。
関わらないようにしてきた。
サスケにも、うちはにも、あの夜にも。
けれど――それが、任務の支障になるならば。
そう言い訳して、今、サスケの前にたった。
「前みたいに、戻りたい」
その言葉は、用意されていたようにも、思わずこぼれたようにも聞こえた。
だがその声音に、かつての懐かしさがあることにサスケは気づく。だが今のサスケでは、簡単にはそれを受け入れられるはずがなかった。
それでも、視線をそらせなかった。
まるで、何かが再び動き出すように。
それが、再会の痛みだった。
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20260413 加筆修正