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12月24日。
通りには、浮き立つような光が溢れていた。
街路樹に絡められたイルミネーションが白く瞬き、ショーウィンドウには赤や金の飾りが並ぶ。肩を寄せ合うカップル、子どもの手を引く家族、笑い声。寒さよりも、どこか甘ったるい空気が街全体を包んでいた。
そんな中、私は一人街並みを歩いていた。
恋人のカカシは、今日も任務。
わかっていたことだ。
それでも、家の中で一人きりでいると、余計なことばかり考えてしまいそうで、気晴らしのつもりで外に出た。
けれど――それは、どう考えても逆効果と言わざる得ない。
視界に入るのは、誰かと笑う人ばかりだ。
私はその流れから、ひとり取り残されている気がして、自然と歩く速度が早くなっていった。
(コンビニでデザートでも買って変えるか・・・)
あのケーキ屋では、結局ケーキを買えなかった。
目についた別の店に入ることもできたけれど、あそこのケーキより自分好みじゃないとわかっているものを、わざわざ選ぶ気にはなれない。
どうせ一人だ。
そう思ってしまった時点で、もう負けだったのかもしれない。
私はため息をひとつ飲み込み、手軽さに身を任せるように、コンビニの自動ドアへと足を向けた。
ウィーン。
自動ドアが無機質に開き、「らしゃいあせ」と店員の気の抜けた声がかかる。
それでもスイーツのショーケースに向かうときはワクワクした。
何を買おう。やっぱりショートケーキかな。
だけどショーケースを目に入れて、内心「え」と声が出た。
ショーケースは空っぽだった。
気持ちばかりの、ゼリーとシュークリームが数個、残っているだけ。
(嘘でしょ・・・)
つくづく、ついていない。
恋人も隣にいない、スイーツもない、ご飯はコンビニのお弁当の一人クリスマス。
あ〜あ、と思いながらため息をつくと、横から「売り切れちゃったね」と声がした。
「……え」
「売り切れちゃったね。スイーツ」
それが自分にかけられた言葉だと気づいたのは、少し経ってからだ。
いつの間にか隣に立っていたその男は、スーツにメガネ、固められた髪型のビジネスマン風だった。
だけど、そんなふうに軽率に声をかけられた時点で警戒心はマックスだった。
「一人なの?よかったらご飯でも、どう?」
目が合うとニッコリ微笑まれた。
よく見えると、イケメンだ。どこか、ほんのりカカシに似ているような気もする。
クリスマスに一人。
家もぐちゃぐちゃ、晩ご飯も、スイーツの用意もない。
(あ〜〜〜〜・・・)
いわゆるナンパだということはわかった。
でも、いっそのことついていこうかと思った。誰かと話せば、この妙な孤独感も、少しは紛れる気がしたから。
だけど、その時に脳裏によぎったのはカカシの顔だった。
私は確かに一人だ。
でも、彼だってそうだ。
クリスマスにまで体を張って、命をかけて、里の平和を守っている。今日、私がこうやって過ごせるのも、彼のような人が、当たり前のように仕事をしているからなのだ。
それなのに、私がのんびり男とご飯に行くわけにはいかない。
「ゴメンナサイ。彼氏と待ち合わせしてるので」
「あ〜、そうなんだ。残念」
そういうとあっさりその男は引いていった。
手にしていたペットボトル一本を電子マネーでさっと会計して出ていく後ろ姿を見ていると、ご飯くらいついていってもよかったか、と一抹の後悔もよぎった。
*****
手探りでスイッチを押すと、パチリ、と乾いた音がして部屋が一気に白く浮かび上がった。
掃除すらできていない室内。
脱ぎっぱなしの服、読みかけの本、コンビニ弁当の袋を提げたまま、私はその散らかりの中に足を踏み入れる。
床に置かれたままになっている、いつか片付けようと思っていたダンボールが目に入る。ため息と一緒に腰を落とし、仕方なくそれを畳んだ
(腐っていても、しょうがない。お風呂でも入るか……)
そう思って立ち上がり、一歩、部屋の奥へ進んだ――そのときだった。
ガタン。
背後で、鈍く大きな音が響いた。
反射的に振り返る。
今のは……ドアだ。誰かが、引っ張った音。
(え……)
体が強張り、指先が冷たくなる。その間に、もう一度。
ガタン。
今度ははっきりと、ドアノブが下がるのが見えた。薄いドア一枚を隔てて、確実に「誰か」がいる。
ピーンポーン。
チャイムの電子音が、異様なほど明るく鳴った。その音に、私はようやく息を吸い、恐る恐るドアスコープを覗き込む。
(……え)
思考が追いつく前に体が動いた。慌てて鍵を外し、ドアを押し開ける。
「カカシ!?」
「よっ」
そこに立っていたのは、両手に大きな紙袋をぶら下げた彼だった。まるで今日この時間に待ち合わせていたかのように、そこにのんびりと立っていた。
「えっ、なんで、なんで?! 仕事は!?」
「終わった。終わり次第行くよって言ったでしょ」
「言ったっけ……」
言ったかもしれない。でもそれは、口癖のように添えられる言葉で、私は本気にしたことがなかった。期待しなかったから、覚えていなかったのかもしれない。
「ていうか、何その荷物?!」
「あ、これ?」
カカシは片手で器用に紙袋を探り、はい、と、ひとつを私の前に差し出した。
「メリークリスマス」
紙袋の端から、見覚えのあるロゴが覗いた瞬間、胸がきゅっと締め付けられた。
開けなくても形でわかった。ケーキだ。しかも、私が予約しようと思って、できなかった、お気に入りのケーキ屋さんの。
「……え」
「まだあるよ。チョコに、チーズに、なんかフルーツっぽいやつ。クリスマスっぽいのと、ナッツのやつも買ったかな。とりあえず、置いてあるの全部。前にさ、ホールで死ぬほど食べたいって言ってたでしょ」
両手の紙袋を少し持ち上げる。その重みが、すべてケーキだと知って、私は一瞬言葉を失った。
それから、ふっと肩の力が抜けて、息と一緒に笑いがこぼれた。
目の前に立つカカシは、いつものように肩の力が抜けた立ち方で、それでも私の反応を確かめるように、片目を細めてこちらを見ている。
任務帰りのせいか、わずかに残る冷たい外気と、彼自身の体温が混ざり合って、部屋の空気がゆっくりと変わっていくのがわかった。
「ありがとう……大好き」
私ちゃんと、愛されていた。
そう思った。
「ん。そう言ってもらえるなら、買いすぎた甲斐があるね」
「大好きなのはケーキだよ」
「でも、それだけじゃないでしょ?」
軽口の裏に、確信めいた優しさが滲む。
両手が塞がって身動きの取れない彼に、私は一歩近づき、つま先立ちになった。
マスク越しに感じる彼の呼吸に、そっと唇を重ねる。
同時に、胸の奥に溜まっていた寂しさが、静かにほどけていくのがわかった。
「メリークリスマス」
今日はきっと、忘れられない一日になる。
*****
11月某日。
「はい、パティスリーコノハでございます。クリスマスケーキのご予約ですね、ありがとうございます。
……えっと、……確認いたします。ホールケーキを、すべて、ですか?……いえ、失礼しました、あまり例のないご注文でして。
はい。数量的には対応可能でございます。お名前をお伺いしてもよろしいでしょうか。……はたけカカシ様ですね。ありがとうございます。お電話番号を……はい。
……なるほど、サプライズ、ということで。承知いたしました。はい。そのお電話番号からのご予約は賜っていないですね。……はい、わかりました。その番号からお問い合わせがあった場合は、『すでにご予約でいっぱいです』とお伝えいたします。
はい、確かに承りました。当日はお気をつけてお越しくださいませ。
それでは、失礼いたします。」
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読んだよぽちり
>>SUGINA様
カカシでリクエスト、ありがとうございました!
なんとなく、いつも拝見している文体からSUGINA様を想像し、書いてみました。楽しんでいただけたら嬉しいです。
通りには、浮き立つような光が溢れていた。
街路樹に絡められたイルミネーションが白く瞬き、ショーウィンドウには赤や金の飾りが並ぶ。肩を寄せ合うカップル、子どもの手を引く家族、笑い声。寒さよりも、どこか甘ったるい空気が街全体を包んでいた。
そんな中、私は一人街並みを歩いていた。
恋人のカカシは、今日も任務。
わかっていたことだ。
それでも、家の中で一人きりでいると、余計なことばかり考えてしまいそうで、気晴らしのつもりで外に出た。
けれど――それは、どう考えても逆効果と言わざる得ない。
視界に入るのは、誰かと笑う人ばかりだ。
私はその流れから、ひとり取り残されている気がして、自然と歩く速度が早くなっていった。
(コンビニでデザートでも買って変えるか・・・)
あのケーキ屋では、結局ケーキを買えなかった。
目についた別の店に入ることもできたけれど、あそこのケーキより自分好みじゃないとわかっているものを、わざわざ選ぶ気にはなれない。
どうせ一人だ。
そう思ってしまった時点で、もう負けだったのかもしれない。
私はため息をひとつ飲み込み、手軽さに身を任せるように、コンビニの自動ドアへと足を向けた。
ウィーン。
自動ドアが無機質に開き、「らしゃいあせ」と店員の気の抜けた声がかかる。
それでもスイーツのショーケースに向かうときはワクワクした。
何を買おう。やっぱりショートケーキかな。
だけどショーケースを目に入れて、内心「え」と声が出た。
ショーケースは空っぽだった。
気持ちばかりの、ゼリーとシュークリームが数個、残っているだけ。
(嘘でしょ・・・)
つくづく、ついていない。
恋人も隣にいない、スイーツもない、ご飯はコンビニのお弁当の一人クリスマス。
あ〜あ、と思いながらため息をつくと、横から「売り切れちゃったね」と声がした。
「……え」
「売り切れちゃったね。スイーツ」
それが自分にかけられた言葉だと気づいたのは、少し経ってからだ。
いつの間にか隣に立っていたその男は、スーツにメガネ、固められた髪型のビジネスマン風だった。
だけど、そんなふうに軽率に声をかけられた時点で警戒心はマックスだった。
「一人なの?よかったらご飯でも、どう?」
目が合うとニッコリ微笑まれた。
よく見えると、イケメンだ。どこか、ほんのりカカシに似ているような気もする。
クリスマスに一人。
家もぐちゃぐちゃ、晩ご飯も、スイーツの用意もない。
(あ〜〜〜〜・・・)
いわゆるナンパだということはわかった。
でも、いっそのことついていこうかと思った。誰かと話せば、この妙な孤独感も、少しは紛れる気がしたから。
だけど、その時に脳裏によぎったのはカカシの顔だった。
私は確かに一人だ。
でも、彼だってそうだ。
クリスマスにまで体を張って、命をかけて、里の平和を守っている。今日、私がこうやって過ごせるのも、彼のような人が、当たり前のように仕事をしているからなのだ。
それなのに、私がのんびり男とご飯に行くわけにはいかない。
「ゴメンナサイ。彼氏と待ち合わせしてるので」
「あ〜、そうなんだ。残念」
そういうとあっさりその男は引いていった。
手にしていたペットボトル一本を電子マネーでさっと会計して出ていく後ろ姿を見ていると、ご飯くらいついていってもよかったか、と一抹の後悔もよぎった。
*****
手探りでスイッチを押すと、パチリ、と乾いた音がして部屋が一気に白く浮かび上がった。
掃除すらできていない室内。
脱ぎっぱなしの服、読みかけの本、コンビニ弁当の袋を提げたまま、私はその散らかりの中に足を踏み入れる。
床に置かれたままになっている、いつか片付けようと思っていたダンボールが目に入る。ため息と一緒に腰を落とし、仕方なくそれを畳んだ
(腐っていても、しょうがない。お風呂でも入るか……)
そう思って立ち上がり、一歩、部屋の奥へ進んだ――そのときだった。
ガタン。
背後で、鈍く大きな音が響いた。
反射的に振り返る。
今のは……ドアだ。誰かが、引っ張った音。
(え……)
体が強張り、指先が冷たくなる。その間に、もう一度。
ガタン。
今度ははっきりと、ドアノブが下がるのが見えた。薄いドア一枚を隔てて、確実に「誰か」がいる。
ピーンポーン。
チャイムの電子音が、異様なほど明るく鳴った。その音に、私はようやく息を吸い、恐る恐るドアスコープを覗き込む。
(……え)
思考が追いつく前に体が動いた。慌てて鍵を外し、ドアを押し開ける。
「カカシ!?」
「よっ」
そこに立っていたのは、両手に大きな紙袋をぶら下げた彼だった。まるで今日この時間に待ち合わせていたかのように、そこにのんびりと立っていた。
「えっ、なんで、なんで?! 仕事は!?」
「終わった。終わり次第行くよって言ったでしょ」
「言ったっけ……」
言ったかもしれない。でもそれは、口癖のように添えられる言葉で、私は本気にしたことがなかった。期待しなかったから、覚えていなかったのかもしれない。
「ていうか、何その荷物?!」
「あ、これ?」
カカシは片手で器用に紙袋を探り、はい、と、ひとつを私の前に差し出した。
「メリークリスマス」
紙袋の端から、見覚えのあるロゴが覗いた瞬間、胸がきゅっと締め付けられた。
開けなくても形でわかった。ケーキだ。しかも、私が予約しようと思って、できなかった、お気に入りのケーキ屋さんの。
「……え」
「まだあるよ。チョコに、チーズに、なんかフルーツっぽいやつ。クリスマスっぽいのと、ナッツのやつも買ったかな。とりあえず、置いてあるの全部。前にさ、ホールで死ぬほど食べたいって言ってたでしょ」
両手の紙袋を少し持ち上げる。その重みが、すべてケーキだと知って、私は一瞬言葉を失った。
それから、ふっと肩の力が抜けて、息と一緒に笑いがこぼれた。
目の前に立つカカシは、いつものように肩の力が抜けた立ち方で、それでも私の反応を確かめるように、片目を細めてこちらを見ている。
任務帰りのせいか、わずかに残る冷たい外気と、彼自身の体温が混ざり合って、部屋の空気がゆっくりと変わっていくのがわかった。
「ありがとう……大好き」
私ちゃんと、愛されていた。
そう思った。
「ん。そう言ってもらえるなら、買いすぎた甲斐があるね」
「大好きなのはケーキだよ」
「でも、それだけじゃないでしょ?」
軽口の裏に、確信めいた優しさが滲む。
両手が塞がって身動きの取れない彼に、私は一歩近づき、つま先立ちになった。
マスク越しに感じる彼の呼吸に、そっと唇を重ねる。
同時に、胸の奥に溜まっていた寂しさが、静かにほどけていくのがわかった。
「メリークリスマス」
今日はきっと、忘れられない一日になる。
*****
11月某日。
「はい、パティスリーコノハでございます。クリスマスケーキのご予約ですね、ありがとうございます。
……えっと、……確認いたします。ホールケーキを、すべて、ですか?……いえ、失礼しました、あまり例のないご注文でして。
はい。数量的には対応可能でございます。お名前をお伺いしてもよろしいでしょうか。……はたけカカシ様ですね。ありがとうございます。お電話番号を……はい。
……なるほど、サプライズ、ということで。承知いたしました。はい。そのお電話番号からのご予約は賜っていないですね。……はい、わかりました。その番号からお問い合わせがあった場合は、『すでにご予約でいっぱいです』とお伝えいたします。
はい、確かに承りました。当日はお気をつけてお越しくださいませ。
それでは、失礼いたします。」
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読んだよぽちり
>>SUGINA様
カカシでリクエスト、ありがとうございました!
なんとなく、いつも拝見している文体からSUGINA様を想像し、書いてみました。楽しんでいただけたら嬉しいです。
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