傘を忘れた日
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かろうじて瞼が空いていただけの授業―二限―が終わり、休憩時間になった。
休憩時間は10分、わらわらとみんなが立ち上がり、三限の校舎へと移動を始める。
私はトイレに行くから先に行ってて、と友人に声を掛けた。
階段を降りて、突き当たりの奥。いつもより少し混んでいて、数分ほどかかった。
トイレを出てそのまま次の校舎に向かおうとしたとき、外の空気が変わっていたことに、気づいた。
「……あっ」
空は重く沈んでいて、しとしとと、雨が降っていた。
傘は、ない。天気予報は晴れだった。
大学の構造上、三限の校舎に行くには少しだけ外を通らなきゃいけない。
(どうしようかな……)
小走りで行けなくもないけど、今日は白シャツを着ていた。肌着は確か…透けないように薄ピンクだったはずだけど。雨に濡れたら、ちょっと恥ずかしい感じになるかもしれない。
校舎の出口で少しだけ逡巡した。
でも、次の授業まで5分もない。迷ってる時間もない。
行くしかないか。バッグからハンドタオルを取り出し、覚悟を決めた時。
後ろからふわりと紺の傘が目の前に現れた。
「入るか?」
驚いて振り返ると、クラスメイトのイタチがいた。
同じ学部のクラスメイト。真面目そうで、無口というほどじゃないけど、ガヤガヤしてるタイプでもない。気がつけば、いつも周囲と少しだけ距離を置いてるような人だった。
私は彼に話しかけるのが好きだった。
オリエンテーションの組み合わせで一緒の班になって以来、同じ年頃には珍しい落ち着きと、彼の物腰の柔らかさをなんとなく、いいな、と思っていた。それ以来、授業の合間に、席が近ければ少しだけ雑談する仲になった。
いつも話しかけるのは私からだった。
だからこそ彼から声をかけられ、傘を差し出されたことに一瞬、驚く。
「いいの?助かる……!」
イタチはそれ以上何も言わず、私の歩調に合わせて歩き始めた。
イタチの持っている傘は彼に似合う落ち着いた色で、私の持っているものよりも少しだけ大きかった。
それでも傘は傘はで、二人の距離はそんなに遠くない。少しだけ自分が差すよりも高くにある傘。歩きざまに彼の肩に触れては、慌てて離れる。そのたびに左肩が雨に当たってぬれた。
いつとより近くにいる彼は、私よりも身長も高く、手のひらも骨ばっていて大きかった。
自分よりも私の方に傘を傾けてくれている優しさに、気づく。横顔を見ると、彼の整った顔が目に入った。
「なんか、意識しちゃうかも……」
呟きを口に出してから、その言葉の意味にハッとする。
「あ、ごめん!深い意味はなくて…!」
慌てるように訂正すると、イタチが目を細めるようにして私を見た。
「…俺は、最初から意識していた」
「えっ……」
その言葉の意味を理解するのに一瞬、時間がかかった。思わずイタチを見たが、イタチも同じようにこちらを見ていた。視線が合う。あまりの恥ずかしさに、すぐにそらす。
「俺はもっと、苗字のことを知りたいと思っている」
彼にとってはなんてことない言葉だったのかもしれないが、それは女子校育ちの私に取って、告白と同じくらい刺激の強い言葉だった。
私たちは それを期に、連絡先を交換し、2人で出かけるようになり、いろんな話をした。
私が話す時間のほうがずっと長かったが、イタチはどんな話も真剣に聞いてくれた。ボケを入れれば欲しいタイミングで切り返し、笑ってもくれるようになった。
好きだと言われて、付き合うまでにそれほど時間はかからなかった。
私の、初めての、恋人。
友人からは祝福され、長続きしそうだね、と微笑まれた。
休憩時間は10分、わらわらとみんなが立ち上がり、三限の校舎へと移動を始める。
私はトイレに行くから先に行ってて、と友人に声を掛けた。
階段を降りて、突き当たりの奥。いつもより少し混んでいて、数分ほどかかった。
トイレを出てそのまま次の校舎に向かおうとしたとき、外の空気が変わっていたことに、気づいた。
「……あっ」
空は重く沈んでいて、しとしとと、雨が降っていた。
傘は、ない。天気予報は晴れだった。
大学の構造上、三限の校舎に行くには少しだけ外を通らなきゃいけない。
(どうしようかな……)
小走りで行けなくもないけど、今日は白シャツを着ていた。肌着は確か…透けないように薄ピンクだったはずだけど。雨に濡れたら、ちょっと恥ずかしい感じになるかもしれない。
校舎の出口で少しだけ逡巡した。
でも、次の授業まで5分もない。迷ってる時間もない。
行くしかないか。バッグからハンドタオルを取り出し、覚悟を決めた時。
後ろからふわりと紺の傘が目の前に現れた。
「入るか?」
驚いて振り返ると、クラスメイトのイタチがいた。
同じ学部のクラスメイト。真面目そうで、無口というほどじゃないけど、ガヤガヤしてるタイプでもない。気がつけば、いつも周囲と少しだけ距離を置いてるような人だった。
私は彼に話しかけるのが好きだった。
オリエンテーションの組み合わせで一緒の班になって以来、同じ年頃には珍しい落ち着きと、彼の物腰の柔らかさをなんとなく、いいな、と思っていた。それ以来、授業の合間に、席が近ければ少しだけ雑談する仲になった。
いつも話しかけるのは私からだった。
だからこそ彼から声をかけられ、傘を差し出されたことに一瞬、驚く。
「いいの?助かる……!」
イタチはそれ以上何も言わず、私の歩調に合わせて歩き始めた。
イタチの持っている傘は彼に似合う落ち着いた色で、私の持っているものよりも少しだけ大きかった。
それでも傘は傘はで、二人の距離はそんなに遠くない。少しだけ自分が差すよりも高くにある傘。歩きざまに彼の肩に触れては、慌てて離れる。そのたびに左肩が雨に当たってぬれた。
いつとより近くにいる彼は、私よりも身長も高く、手のひらも骨ばっていて大きかった。
自分よりも私の方に傘を傾けてくれている優しさに、気づく。横顔を見ると、彼の整った顔が目に入った。
「なんか、意識しちゃうかも……」
呟きを口に出してから、その言葉の意味にハッとする。
「あ、ごめん!深い意味はなくて…!」
慌てるように訂正すると、イタチが目を細めるようにして私を見た。
「…俺は、最初から意識していた」
「えっ……」
その言葉の意味を理解するのに一瞬、時間がかかった。思わずイタチを見たが、イタチも同じようにこちらを見ていた。視線が合う。あまりの恥ずかしさに、すぐにそらす。
「俺はもっと、苗字のことを知りたいと思っている」
彼にとってはなんてことない言葉だったのかもしれないが、それは女子校育ちの私に取って、告白と同じくらい刺激の強い言葉だった。
私たちは それを期に、連絡先を交換し、2人で出かけるようになり、いろんな話をした。
私が話す時間のほうがずっと長かったが、イタチはどんな話も真剣に聞いてくれた。ボケを入れれば欲しいタイミングで切り返し、笑ってもくれるようになった。
好きだと言われて、付き合うまでにそれほど時間はかからなかった。
私の、初めての、恋人。
友人からは祝福され、長続きしそうだね、と微笑まれた。