別章
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あなたへ。
これはあなたに宛てて書く、最初で最後の手紙です。
改めてこんな風に書くと照れてしまいますね。でも、これを読む時、私はあなたの前にいないでしょう。だから、最後にどうしても伝えたい事があって、筆を執りました。
これから書くことは、あなたが知らない私のことです。
あなたをいつからか好きにだったのか、正確には分かりません。でも、自分の恋心を明確に自覚した日を覚えています。
(中略)
あなたが生きていてくれれば、私の人生に何の後悔もありません。離ればなれになっても、私はあなたが好きです。あなたの心に少しでも私がいたなら、それは何よりの幸せです。
*****
彼と初めて会ったのは、アカデミーの入学式だった。
桜が風に煽られて、校庭の上を薄く流れていた。両親に手を引かれた子どもたちが、少し大きめの制服を揺らしながら笑っている。
私は、その輪から少し離れたところに立っていた。どうしていいか、わからなかった。それでも、一人、ここにいなきゃいけないことが辛かった。
誰の目にも止まらないように、こっそりと周囲を盗み見ていた。
(――あれ)
そこに、ひとりだけ、静かな目をした男の子がいた。
浮き足立つ空気の中で、周りのざわめきを一歩引いたところから見ているような、冷めた横顔。それが、イタチだった。
うちはの子だ、と誰かが小声で言った。
あとで、名家の子だということを知った。私と違って、温かい家族も、忍びの才能も、何もかも持っているはずなのに、彼にどこか――同じものを感じた。だけど、それは勘違いだと思うようになる程、彼はなんでもできて、あっという間にクラスの注目の的になった。
私は忍びに縁もゆかりも無い、一般家庭の出だ。天災で両親を亡くし、一緒に生き残った妹を食べさせるために忍びになった。
水商売と迷って、すんでのところで選んだだけだった。胸を張れる理由なんてなかった。忍びになると決めてからは辛いことばかりで、両親の私に宛てた、誕生日を祝う手紙――結果的に最後の手紙になってしまったもの――だけが唯一の支えだった。
だから。
その時間は私にとってひどく苦痛だった。
「将来の夢は?」
担任に名前を呼ばれた生徒たちが、次々と立ち上がる。
火影になりたい、医療忍者になりたい、上忍のように強くなりたい。
教室の空気が、拍手とともに、少しずつ活気を帯びていく。
自分の番が近づくにつれて、指先が冷たくなっていった。
なりたいものなんて、ない。私の番なんて、こないで欲しい。忘れて飛ばされることを願った。
でも順番は容赦なく回ってくる。
名前を呼ばれ、私は重い足取りで立ち上がった。
椅子を引く音がやけに大きく響いた。
「……ごめんなさい…思い、つきません……」
言葉が落とした途端に、笑い声が弾けた。ギャハハ、と指を指して笑われる気配に、背中が冷たく、冷える。担任の、「こら、笑うな!」と嗜める声もどこか、遠い。だが、そのざわめきを、静かに断ち切った声があった。
「別に、構わないんじゃないか。これから見つけていければ。」
誰にも逆らわせない声だった。優秀で、クラスの誰からも一目置かれていた彼の発した言葉に、教室はしん、と静まりかえった。
顔をあげたとき、一瞬だけ視線があう。ありがとう、と音を出さずに口だけで伝えるがそのまま視線がそらされた。その、彼の言葉に私は泣きそうになるくらい助けられた。
あの一言は、私の中で、ずっと消えないままだ。
なぜだか、わからないけれど、アカデミーの頃からずっと、イタチは私のことを気にかけてくれていた、と思う。忍術のにの字も知らない孤児の私に、困ったときにいつも手を差し伸ばしてくれたのはイタチだった。友人には恥ずかしくて聞けなかった、手裏剣の買える場所を教えてくれ、わからない専門用語を補足してくれた。彼の負担になっていないか心配しつつ、こっそり一人で食べてきた昼食も、彼と一緒なら楽しかった。
イタチは年相応以上に大人びていたから、何か気づくものがあったのかもしれない。身なりで人柄を想像できる年齢に達するよりもは早い時期から、私の家が貧乏だと見抜いてたのかもしれない。
イタチが私に手を差し伸べてくれる度に、私は心の中で何度も自問していた。
こんなに優しくしてくれる彼に、私はどう応えたらいいのだろう。
彼のような人に頼りすぎてはいけない、と思う反面、どうしてもその優しさを受け取らずにはいられなかった。
おこがましいと思いながらも、私は彼のことが好きになっていった。知りたいと思った。
やがて私も追ってアカデミーを卒業し、下忍になり、中忍になった。少しずつ、自分のこと――両親がすでに他界していること、妹がいること――を話すうちに、彼も心を開いてくれているように感じた。
そうするうち、時折、わずかな沈黙が彼の中に落ちるのを私は見た。何かを言いかけて、飲み込むような、どこか遠くを見て、考えるような。きっと、私が考えも及ばないようなことなんだろうと思いつつ、ふいに、桜の花びらが舞う入学式の日の光景が胸をよぎった。あの日の、冷えるような、寂しいような目に。彼もまた、周囲が思うほど幸福ではないのかもしれないと思った。
彼の抱えているものが、いつか少しでも軽くなればいいと、私は勝手に願うようになっていった。無力かもしれないけれど、何か彼のためにできることはないだろうかと思った。
私が12になった時、妹が死んだ。
残された、たった一人の家族だった妹だ。
事故だった。彼女は、突然、私の前からいなくなった。残ったのは、もう動かない彼女と、淡々と葬式の手続きを済ませる、名ばかりの後見人の声だった。
妹の遺骨を抱いたまま、何日も任務を放棄しようとしていた私を、彼は叱りもせず、ただ隣に座り続けた。
夜が明けても、朝になっても、帰れと言っても帰らなかった。
「俺では駄目か」
それは問いではなかった。逃がさないという声音だった。
「生きる理由が、俺では駄目か」
その声がなければ、私は今、ここにいない。
妹を亡くし、この世に未練はないと思ったその時、彼が私をつなぎ止めた。
寄り添うように生きようとしてくれた彼がいなければ私はあの時、死んでいた。
大好きだったなんて、そんな言葉じゃ足りない。
彼は家族で、拠り所で、私が生きる理由そのものだった。
イタチの恋人になれたことは、私にとって、多分人生で最大の幸運だったんじゃないだろうか。
周りからは不釣り合いだと言われた。私もそう思った。彼の負担になったらどうしようと思う時もあったけれど、彼はそんなことを全く意に介していないようだった。
イタチのために何かをしたいと思った。
でも、私が何かをしても、それは本当に彼の助けになるのだろうか迷った。
私の力では、彼に対してどれだけ足りないのだろうと、自分の無力さを痛感することが多かった。そのたびに、イタチはただ「そんなこと、気にしなくていい」と言った。
彼が優しく私を見る目を、私は好きだった。彼は、何も言わないことで、私を守ろうとする人だった。その沈黙が、どこか遠くへ行ってしまいそうで、私はいつも少しだけ不安だった。
そして、予感が当たったかのように、妹の一回忌が過ぎてすぐ。
イタチは私の前からいなくなった。
妹のときと同じようの、何の前触れもなく、ある日、世界から触れていたはずの温度だけが、突然消えた。
私がそれを知ったのは、彼からでも、親しい友人からでもない。顔見知りの同僚から、嘲の言葉とともにだった。
「あら――」
長期任務から帰ったばかりの私は、彼女から向けられた視線の強さに思わず怯んだ。私、何かしてしまったっけ――そう思ったとき。
「あなた、イタチの恋人よね。よく、こんなところにぬけぬけといられるわね?」
「―――え、」
イタチは一夜にして彼の家族――うちは一族を惨殺し、里抜けたと言う。
その話を聞いて、まさか、と信じられない思いがよぎる。その一瞬の空白に、最近の彼の姿が雪崩れ込む。
沈黙が増えた。
ふとした拍子に、諦めのような、遠くを見るような目をしていたこと。
問いかけると、少しだけ間を置いてから、「大丈夫だ」と優しく笑う。
その笑みが、触れないでほしいとの願いを含んでいる気がして、私はそれ以上踏み込めなかった。
それは全てが事実であることを裏付けるようだった。
――でも、まさか。
胸の奥がひゅっと縮む。
耳鳴りの向こうで、彼女の声だけがやけに鮮明に響く。
そんなはずがない、と否定する声と、いや、そうなのかも、と囁く声が、頭の中でせめぎ合う。
私が頭が真っ白で何も答えられずにいると、目の前の女性は含むように笑った。
「その様子だと、何も知らなかったようね」
彼女の右目にある泣き黒子が、楽しそうに揺れた。
その日はどうやって家に帰ったのか、よく覚えていない。
だが、どさりと倒れ込んだ枕の下で、かさりと音が鳴った。
重い体で腕だけ伸ばし、それを手に取ると――それは、よく見た筆跡でこう書かれていた。
――三ヶ月後の今日、木ノ葉の森のあの場所で待っている
指先が震える。
息が、戻る。
あぁ、と胸の奥で何かが弾けた。
イタチ――
涙が落ちる。
あの言葉をくれた人が、何も告げずに去るはずがない。
必ず会いに行くと、決心する。
そして、約束のあの夜。
私はイタチではなく―― あの月明かりの林道で、カカシさんに出会うことになる。
これはあなたに宛てて書く、最初で最後の手紙です。
改めてこんな風に書くと照れてしまいますね。でも、これを読む時、私はあなたの前にいないでしょう。だから、最後にどうしても伝えたい事があって、筆を執りました。
これから書くことは、あなたが知らない私のことです。
あなたをいつからか好きにだったのか、正確には分かりません。でも、自分の恋心を明確に自覚した日を覚えています。
(中略)
あなたが生きていてくれれば、私の人生に何の後悔もありません。離ればなれになっても、私はあなたが好きです。あなたの心に少しでも私がいたなら、それは何よりの幸せです。
―――――ナマエより
*****
彼と初めて会ったのは、アカデミーの入学式だった。
桜が風に煽られて、校庭の上を薄く流れていた。両親に手を引かれた子どもたちが、少し大きめの制服を揺らしながら笑っている。
私は、その輪から少し離れたところに立っていた。どうしていいか、わからなかった。それでも、一人、ここにいなきゃいけないことが辛かった。
誰の目にも止まらないように、こっそりと周囲を盗み見ていた。
(――あれ)
そこに、ひとりだけ、静かな目をした男の子がいた。
浮き足立つ空気の中で、周りのざわめきを一歩引いたところから見ているような、冷めた横顔。それが、イタチだった。
うちはの子だ、と誰かが小声で言った。
あとで、名家の子だということを知った。私と違って、温かい家族も、忍びの才能も、何もかも持っているはずなのに、彼にどこか――同じものを感じた。だけど、それは勘違いだと思うようになる程、彼はなんでもできて、あっという間にクラスの注目の的になった。
私は忍びに縁もゆかりも無い、一般家庭の出だ。天災で両親を亡くし、一緒に生き残った妹を食べさせるために忍びになった。
水商売と迷って、すんでのところで選んだだけだった。胸を張れる理由なんてなかった。忍びになると決めてからは辛いことばかりで、両親の私に宛てた、誕生日を祝う手紙――結果的に最後の手紙になってしまったもの――だけが唯一の支えだった。
だから。
その時間は私にとってひどく苦痛だった。
「将来の夢は?」
担任に名前を呼ばれた生徒たちが、次々と立ち上がる。
火影になりたい、医療忍者になりたい、上忍のように強くなりたい。
教室の空気が、拍手とともに、少しずつ活気を帯びていく。
自分の番が近づくにつれて、指先が冷たくなっていった。
なりたいものなんて、ない。私の番なんて、こないで欲しい。忘れて飛ばされることを願った。
でも順番は容赦なく回ってくる。
名前を呼ばれ、私は重い足取りで立ち上がった。
椅子を引く音がやけに大きく響いた。
「……ごめんなさい…思い、つきません……」
言葉が落とした途端に、笑い声が弾けた。ギャハハ、と指を指して笑われる気配に、背中が冷たく、冷える。担任の、「こら、笑うな!」と嗜める声もどこか、遠い。だが、そのざわめきを、静かに断ち切った声があった。
「別に、構わないんじゃないか。これから見つけていければ。」
誰にも逆らわせない声だった。優秀で、クラスの誰からも一目置かれていた彼の発した言葉に、教室はしん、と静まりかえった。
顔をあげたとき、一瞬だけ視線があう。ありがとう、と音を出さずに口だけで伝えるがそのまま視線がそらされた。その、彼の言葉に私は泣きそうになるくらい助けられた。
あの一言は、私の中で、ずっと消えないままだ。
なぜだか、わからないけれど、アカデミーの頃からずっと、イタチは私のことを気にかけてくれていた、と思う。忍術のにの字も知らない孤児の私に、困ったときにいつも手を差し伸ばしてくれたのはイタチだった。友人には恥ずかしくて聞けなかった、手裏剣の買える場所を教えてくれ、わからない専門用語を補足してくれた。彼の負担になっていないか心配しつつ、こっそり一人で食べてきた昼食も、彼と一緒なら楽しかった。
イタチは年相応以上に大人びていたから、何か気づくものがあったのかもしれない。身なりで人柄を想像できる年齢に達するよりもは早い時期から、私の家が貧乏だと見抜いてたのかもしれない。
イタチが私に手を差し伸べてくれる度に、私は心の中で何度も自問していた。
こんなに優しくしてくれる彼に、私はどう応えたらいいのだろう。
彼のような人に頼りすぎてはいけない、と思う反面、どうしてもその優しさを受け取らずにはいられなかった。
おこがましいと思いながらも、私は彼のことが好きになっていった。知りたいと思った。
やがて私も追ってアカデミーを卒業し、下忍になり、中忍になった。少しずつ、自分のこと――両親がすでに他界していること、妹がいること――を話すうちに、彼も心を開いてくれているように感じた。
そうするうち、時折、わずかな沈黙が彼の中に落ちるのを私は見た。何かを言いかけて、飲み込むような、どこか遠くを見て、考えるような。きっと、私が考えも及ばないようなことなんだろうと思いつつ、ふいに、桜の花びらが舞う入学式の日の光景が胸をよぎった。あの日の、冷えるような、寂しいような目に。彼もまた、周囲が思うほど幸福ではないのかもしれないと思った。
彼の抱えているものが、いつか少しでも軽くなればいいと、私は勝手に願うようになっていった。無力かもしれないけれど、何か彼のためにできることはないだろうかと思った。
私が12になった時、妹が死んだ。
残された、たった一人の家族だった妹だ。
事故だった。彼女は、突然、私の前からいなくなった。残ったのは、もう動かない彼女と、淡々と葬式の手続きを済ませる、名ばかりの後見人の声だった。
妹の遺骨を抱いたまま、何日も任務を放棄しようとしていた私を、彼は叱りもせず、ただ隣に座り続けた。
夜が明けても、朝になっても、帰れと言っても帰らなかった。
「俺では駄目か」
それは問いではなかった。逃がさないという声音だった。
「生きる理由が、俺では駄目か」
その声がなければ、私は今、ここにいない。
妹を亡くし、この世に未練はないと思ったその時、彼が私をつなぎ止めた。
寄り添うように生きようとしてくれた彼がいなければ私はあの時、死んでいた。
大好きだったなんて、そんな言葉じゃ足りない。
彼は家族で、拠り所で、私が生きる理由そのものだった。
イタチの恋人になれたことは、私にとって、多分人生で最大の幸運だったんじゃないだろうか。
周りからは不釣り合いだと言われた。私もそう思った。彼の負担になったらどうしようと思う時もあったけれど、彼はそんなことを全く意に介していないようだった。
イタチのために何かをしたいと思った。
でも、私が何かをしても、それは本当に彼の助けになるのだろうか迷った。
私の力では、彼に対してどれだけ足りないのだろうと、自分の無力さを痛感することが多かった。そのたびに、イタチはただ「そんなこと、気にしなくていい」と言った。
彼が優しく私を見る目を、私は好きだった。彼は、何も言わないことで、私を守ろうとする人だった。その沈黙が、どこか遠くへ行ってしまいそうで、私はいつも少しだけ不安だった。
そして、予感が当たったかのように、妹の一回忌が過ぎてすぐ。
イタチは私の前からいなくなった。
妹のときと同じようの、何の前触れもなく、ある日、世界から触れていたはずの温度だけが、突然消えた。
私がそれを知ったのは、彼からでも、親しい友人からでもない。顔見知りの同僚から、嘲の言葉とともにだった。
「あら――」
長期任務から帰ったばかりの私は、彼女から向けられた視線の強さに思わず怯んだ。私、何かしてしまったっけ――そう思ったとき。
「あなた、イタチの恋人よね。よく、こんなところにぬけぬけといられるわね?」
「―――え、」
イタチは一夜にして彼の家族――うちは一族を惨殺し、里抜けたと言う。
その話を聞いて、まさか、と信じられない思いがよぎる。その一瞬の空白に、最近の彼の姿が雪崩れ込む。
沈黙が増えた。
ふとした拍子に、諦めのような、遠くを見るような目をしていたこと。
問いかけると、少しだけ間を置いてから、「大丈夫だ」と優しく笑う。
その笑みが、触れないでほしいとの願いを含んでいる気がして、私はそれ以上踏み込めなかった。
それは全てが事実であることを裏付けるようだった。
――でも、まさか。
胸の奥がひゅっと縮む。
耳鳴りの向こうで、彼女の声だけがやけに鮮明に響く。
そんなはずがない、と否定する声と、いや、そうなのかも、と囁く声が、頭の中でせめぎ合う。
私が頭が真っ白で何も答えられずにいると、目の前の女性は含むように笑った。
「その様子だと、何も知らなかったようね」
彼女の右目にある泣き黒子が、楽しそうに揺れた。
その日はどうやって家に帰ったのか、よく覚えていない。
だが、どさりと倒れ込んだ枕の下で、かさりと音が鳴った。
重い体で腕だけ伸ばし、それを手に取ると――それは、よく見た筆跡でこう書かれていた。
――三ヶ月後の今日、木ノ葉の森のあの場所で待っている
指先が震える。
息が、戻る。
あぁ、と胸の奥で何かが弾けた。
イタチ――
涙が落ちる。
あの言葉をくれた人が、何も告げずに去るはずがない。
必ず会いに行くと、決心する。
そして、約束のあの夜。
私はイタチではなく―― あの月明かりの林道で、カカシさんに出会うことになる。