本章
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カカシがそれに気づいたのは、任務終わりの未明近くだった。
数日前、暗部の一人が姿を消したという話を聞いていた。
里抜けの可能性も疑われたが、部屋にはそれらしい痕跡はなく、捜索が出たのが昨日のこと。ほどなくして、かわり果てた姿で見つかったとも。
場所は木の葉と雨隠れの国境付近。人の寄りつかない場所だったらしい。
「遺体の回収」。
任務前に告げられた内容は、それだけだった。
暗部としては拍子抜けするほど簡単な指示だったが、実際に遺体を見て納得した。抵抗の痕跡はほとんどなく、争った様子もない。自殺だろうと思われた。
忍の世界では、理由のはっきりしない死は珍しくない。忍の道に疲れ、唐突に自死を選ぶ者もいる。かつて自らの父がそうであったように。
だがカカシはそうした事実を表に出すことなく、手早く静かに片付けた。表立って弔えない死を、秘密裏に処理するのも暗部の仕事だった。
遺体についたままの暗部の仮面を外す。女だった。
顔立ちは整っていたが、印象に残るほどではない。右目の下に小さな黒子があった。生きていれば色気があっただろうにとだけ思った。
予想通り、任務は短時間で終わった。
移動距離ばかりが長い仕事だったとも言える。
火の国の国境をまたいでしばらく、班の空気も緩みきっていた頃。
夜も深くなり、木の葉の里の出入口――あ・うんの門が見えてくる。
先頭を歩いていたカカシが一歩踏み出した瞬間、木立の奥からカラスが数羽、羽音を立てて飛び去った。その音に、後ろを歩いていた部下が顔を上げる。
そのついでとも言わんばかりに部下の一人――確かナマエの同期だったはずだ――が、何気ない調子で尋ねた。
「今日も、ナマエの家行くんスか?」
「……関係ないでしょ」
「そ、そうですよね……」
一転して冷たいカカシの返答にしどろもどろになりながら、彼は一言付け加えた。
「あいつ、今日珍しく非番だし、カカシさんが側にいてくれたら安心だなって思っただけで…」
「………え。今なんて」
聞き返した声が、思ったより低かった。
「…え、だから、カカシさんがあいつのそばにいるなら安心って…」
「その前」
「えっと…ナマエ、今日は、オフだから……」
その言葉に一瞬、足元の感覚が曖昧になる。
あいつ、最近ほとんど休まずに働いてたから………と付け足した言葉、はカカシの耳には入らなかった。
「明日は、任務?」
「………はい」
昨日、確かにナマエとやりとりした会話を思い出す。彼女は今日、任務だと言っていた。
――嘘をつかれた。
「ごめん、里への報告、適当にやっておいて」
「えっ、隊長、えっ」
それに気づいた瞬間、カカシは進行方向から外れるように、何の前触れもなく角を切った。
土を蹴り、目的の場所へと急ぐ。
*****
今になって彼女が嘘をつく理由なんて、一つしか思い当たらない。
今度こそ、イタチと里を抜けるため。
そう結論づけるのに、微かな戸惑いがあった。本当にそうなのか、ほんの一瞬だけ疑った。それは彼女を信じたい気持ちの裏返しでもあった。
だが、ナマエは元々、嘘をつく人間じゃない。
考え過ぎだ、と切り捨てることもできたはずなのに、それをしなかったのは――その彼女の嘘に大きな意味があると、きっともう自分の中で答えが出ていたからだ。
「……また、会ってくれる?」
そう問うた自分に、頷くのをためらったナマエを思い出す。
あの時は、自分が余計なことを言ってしまったせいで、困惑しているのだと思った。
だが今になって思えば、あれは「もう会えない」と知りながら頷いた、別れの準備だったのだろうと気づく。
――行くな。
そう思った瞬間、自分でも驚くほど、胸の奥が急いた。
“イタチと会えるならまだいい。”?
そんな建前は、とっくの昔に消え失せていた。
――行かせたくないんだ、俺は。彼女を取られたくない。
ただ――失いたくない。
昨日、涙ながらに言われた言葉を思い出す。
「………私なんかじゃなくて……カカシさんには、幸せになって欲しいです」
あれは、おためごかしなんかじゃない。いなくなる自分なんて忘れてほしいと、ナマエなりの最後の優しさだった。
今になってそう理解してしまったことが、腹立たしかった。
彼女が苦しそうな顔をしたのは、俺に会うのが辛かったからじゃない。
もう会えない事がわかっているのに、嘘を重ねるのが辛かったからだ。
――なんで、気づかなかったんだ。
地面を蹴り、これまでにないほどのスピードで森の中を駆ける。
――絶対に取り戻してみせる。
誰にも聞こえないように息を詰める。
こんなことを思ってしまう自分を、彼女には、決して知られないように。
数日前、暗部の一人が姿を消したという話を聞いていた。
里抜けの可能性も疑われたが、部屋にはそれらしい痕跡はなく、捜索が出たのが昨日のこと。ほどなくして、かわり果てた姿で見つかったとも。
場所は木の葉と雨隠れの国境付近。人の寄りつかない場所だったらしい。
「遺体の回収」。
任務前に告げられた内容は、それだけだった。
暗部としては拍子抜けするほど簡単な指示だったが、実際に遺体を見て納得した。抵抗の痕跡はほとんどなく、争った様子もない。自殺だろうと思われた。
忍の世界では、理由のはっきりしない死は珍しくない。忍の道に疲れ、唐突に自死を選ぶ者もいる。かつて自らの父がそうであったように。
だがカカシはそうした事実を表に出すことなく、手早く静かに片付けた。表立って弔えない死を、秘密裏に処理するのも暗部の仕事だった。
遺体についたままの暗部の仮面を外す。女だった。
顔立ちは整っていたが、印象に残るほどではない。右目の下に小さな黒子があった。生きていれば色気があっただろうにとだけ思った。
予想通り、任務は短時間で終わった。
移動距離ばかりが長い仕事だったとも言える。
火の国の国境をまたいでしばらく、班の空気も緩みきっていた頃。
夜も深くなり、木の葉の里の出入口――あ・うんの門が見えてくる。
先頭を歩いていたカカシが一歩踏み出した瞬間、木立の奥からカラスが数羽、羽音を立てて飛び去った。その音に、後ろを歩いていた部下が顔を上げる。
そのついでとも言わんばかりに部下の一人――確かナマエの同期だったはずだ――が、何気ない調子で尋ねた。
「今日も、ナマエの家行くんスか?」
「……関係ないでしょ」
「そ、そうですよね……」
一転して冷たいカカシの返答にしどろもどろになりながら、彼は一言付け加えた。
「あいつ、今日珍しく非番だし、カカシさんが側にいてくれたら安心だなって思っただけで…」
「………え。今なんて」
聞き返した声が、思ったより低かった。
「…え、だから、カカシさんがあいつのそばにいるなら安心って…」
「その前」
「えっと…ナマエ、今日は、オフだから……」
その言葉に一瞬、足元の感覚が曖昧になる。
あいつ、最近ほとんど休まずに働いてたから………と付け足した言葉、はカカシの耳には入らなかった。
「明日は、任務?」
「………はい」
昨日、確かにナマエとやりとりした会話を思い出す。彼女は今日、任務だと言っていた。
――嘘をつかれた。
「ごめん、里への報告、適当にやっておいて」
「えっ、隊長、えっ」
それに気づいた瞬間、カカシは進行方向から外れるように、何の前触れもなく角を切った。
土を蹴り、目的の場所へと急ぐ。
*****
今になって彼女が嘘をつく理由なんて、一つしか思い当たらない。
今度こそ、イタチと里を抜けるため。
そう結論づけるのに、微かな戸惑いがあった。本当にそうなのか、ほんの一瞬だけ疑った。それは彼女を信じたい気持ちの裏返しでもあった。
だが、ナマエは元々、嘘をつく人間じゃない。
考え過ぎだ、と切り捨てることもできたはずなのに、それをしなかったのは――その彼女の嘘に大きな意味があると、きっともう自分の中で答えが出ていたからだ。
「……また、会ってくれる?」
そう問うた自分に、頷くのをためらったナマエを思い出す。
あの時は、自分が余計なことを言ってしまったせいで、困惑しているのだと思った。
だが今になって思えば、あれは「もう会えない」と知りながら頷いた、別れの準備だったのだろうと気づく。
――行くな。
そう思った瞬間、自分でも驚くほど、胸の奥が急いた。
“イタチと会えるならまだいい。”?
そんな建前は、とっくの昔に消え失せていた。
――行かせたくないんだ、俺は。彼女を取られたくない。
ただ――失いたくない。
昨日、涙ながらに言われた言葉を思い出す。
「………私なんかじゃなくて……カカシさんには、幸せになって欲しいです」
あれは、おためごかしなんかじゃない。いなくなる自分なんて忘れてほしいと、ナマエなりの最後の優しさだった。
今になってそう理解してしまったことが、腹立たしかった。
彼女が苦しそうな顔をしたのは、俺に会うのが辛かったからじゃない。
もう会えない事がわかっているのに、嘘を重ねるのが辛かったからだ。
――なんで、気づかなかったんだ。
地面を蹴り、これまでにないほどのスピードで森の中を駆ける。
――絶対に取り戻してみせる。
誰にも聞こえないように息を詰める。
こんなことを思ってしまう自分を、彼女には、決して知られないように。