本章
name
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
それは任務の帰り道、ほんの偶然だった。
月明かりに照らされた林道は、昼とは別の顔をしていた。木々は音を吸いこむようにざわめき、小さな足音だけが響く。
はたけカカシが単独で木ノ葉の里へ戻っていたその時、自身からわずかに離れたところに人の気配を感じた。
―― 一人、か。
任務の性質上、人目を避けて深夜に移動すること自体は珍しくない。だがそれは通常、複数人で班を組み、万一に備えて連絡役を置く場合、だ。
何より、その気配はカカシの存在を察した瞬間、わずかに揺らぎ、そして気配を消した。
この時間、この場所で。単独で行動し、なおかつこちらを警戒する素振りを見せる――それは、どう考えても自然とは言えなかった。
カカシは足を止めた。
「……誰だ」
問いかけに、気配が一瞬 硬直する。声の主が誰か悟ったのだろう、息を呑む音がした。
次に小さくつぶやかれた声は、聞き覚えのあるものだった。
「……カカシさん」
「………ナマエ」
カカシが近づくと、そこにはナマエがポツリと一人で立っていた。
「どうしてここに」
「………気分転換に、散歩を…」
「こんな時間に?一人で?」
「………」
ナマエは視線を伏せ、言葉を探すように口をつぐんだ。
もしかして、とカカシの脳裏に嫌な想像がよぎる。
「イタチに、会いに行くの?」
「…違います」
即答だった。だが、彼女は嘘をつくのが下手だった。
――嘘、だな。
その否定があまりにも早すぎて、カカシは小さく息を吐いた。だがそれには気づかなかったフリをする。
「……なら、一緒に戻ろう。もう夜も遅い」
そう言って彼女の腕を引くと、ナマエは腕を硬らせ、振り解こうとした。
「離してください」
「……どこに行くつもりだ」
「そんな、どこ、とかじゃないです」
「なら帰れるでしょ」
彼女と視線が重なる。
「……一人にしてください」
その目は必死だった。
「どうしてもと言うなら…俺を騙し切ってから行ってよ」
「………!」
その視線の強さに、彼女はカカシに全てを見透かされていることに気づいたようだった。
何をどう言っても、どうにもならない。
その事実だけが、静かに彼女を追い詰めていく。
しばらくの沈黙の後、彼女はただ一言ポツリと呟いた。
「ただ、………会いたいだけで……」
その瞬間、それがまさに自白となったことに二人とも気づいた。
カカシの胸に、かすかな同情が差し込む。
同時に、どうしようもなく、イタチへの感情が込み上げた。嫉妬のようなものだった。
――そこまで想われる男。
つい最近、自分は恋人と別れたばかりだった。任務で不在がちな間に、「好きな人ができた」と告げられた。
すでに彼女とその思い人は 寝た後のようだった。簡単に言うと浮気だった。
言い寄ってきた女性の中から、一番都合が良さそうなのを選んだだけ。だが、それでも彼女の方から離れていくとなれば、寂寥感を覚えるものだった。
(……指名手配犯になっても、想われるなんて)
そんな存在は、自分にはいないに違いない。
だがその気持ちをぐっと堪え、彼女を真っ直ぐに見つめる。
彼女を掴む手から、力を抜いた。
「……抜け忍と接触しようとした。それだけで、事情聴取は避けられない」
低く、静かに言う。
「……ただ今は、俺に“偶然通りかかって会った”ってだけだ。それだけに、できる」
しばらく、沈黙。
「……帰ろう」
そう言うと、彼女はやがて抗う力が抜けたように肩が落とし、観念したかのようにうなずいた。
そのあまりにも静かすぎる引き際に、カカシは一抹の不安を覚え一言付け足す。
「慰めることくらいなら、できるから」
その言葉が、彼女にかけるものとして正しいのかどうかは、自分でもわからなかった。ただ、彼女をこのまま闇に行かせるわけにはいかないと思った。
ナマエはそれには何も返さず、一歩遅れて、彼の後を歩き出した。
*****
翌日、ふと気になって、カカシは任務帰りにナマエの家へ立ち寄った。衝動に近かったが、理由がまったくないわけでもない。
一度目の呼び鈴には反応がなかった。
留守か、それとも――そう思ってもう一度押すと、少し間を置いて、恐々といった様子で扉が開いた。
「よ!」
「……どうして……」
「いやぁ、やっぱりあんなことがあると気になるじゃない」
そう言われると、ナマエとしても強く追い返すことはできないようだった。一瞬だけ視線を伏せ、「……どうぞ」と小さく告げて、身体を引く。
それを合図に、カカシは室内へ足を踏み入れた。
ナマエは相変わらず元気ではなかった。とは言え普段のナマエをよく知っているわけではないので、ただその佇まいから、そう感じ取っただけだった。
恋人が指名手配となり里を抜ける心労は、やはり並大抵のものではないだろうなとカカシは思った。
その日は、あえて深夜遅くまで腰を据えたが、ナマエが慌てる様子はなかった。どうやらイタチと会う約束は、毎日されているものではないらしい。
その事実にカカシはわずかに安堵し、次の瞬間、その感情を不愉快に思った。
それからカカシはことあるごとにふらりとナマエの家を訪れた。
最初のうち、ナマエは警戒した表情を隠さなかった。言葉を選び、距離を測るような態度に、明らかな困惑が滲んでいた。
だが二度、三度と回数を重ねるうちに、茶が出され、やがて食卓を共にするようになった。
彼女はカカシの話に、控えめに笑った。そのうち、混ぜっ返すような返答や、ツッコミが入るようになった。いつしか、食卓を挟んで向かい合う距離が縮まっていることに気づいた。
彼女と話すのは楽しかった。
その一方で、その事実がどこか不釣り合いに思えた。
なぜそこまでして彼女に構うのか――自分でもよくわからなかった。乗りかけた船、と言った言葉がしっくり来るように思った。
これが長く続くものではないことだけは、どこかでわかっていた。いつか自然に役目が終わればいいと――そう思っていた。
だが一つ問題があった。
それは友人宅への訪問、そういった形を取りながら、彼女の在宅の確認と監視が目的だったが、周りからはそうは映らない。
イタチの元恋人が、今度ははたけカカシをたぶらかしている――そう噂が立つのに、時間は掛からなかった。
月明かりに照らされた林道は、昼とは別の顔をしていた。木々は音を吸いこむようにざわめき、小さな足音だけが響く。
はたけカカシが単独で木ノ葉の里へ戻っていたその時、自身からわずかに離れたところに人の気配を感じた。
―― 一人、か。
任務の性質上、人目を避けて深夜に移動すること自体は珍しくない。だがそれは通常、複数人で班を組み、万一に備えて連絡役を置く場合、だ。
何より、その気配はカカシの存在を察した瞬間、わずかに揺らぎ、そして気配を消した。
この時間、この場所で。単独で行動し、なおかつこちらを警戒する素振りを見せる――それは、どう考えても自然とは言えなかった。
カカシは足を止めた。
「……誰だ」
問いかけに、気配が一瞬 硬直する。声の主が誰か悟ったのだろう、息を呑む音がした。
次に小さくつぶやかれた声は、聞き覚えのあるものだった。
「……カカシさん」
「………ナマエ」
カカシが近づくと、そこにはナマエがポツリと一人で立っていた。
「どうしてここに」
「………気分転換に、散歩を…」
「こんな時間に?一人で?」
「………」
ナマエは視線を伏せ、言葉を探すように口をつぐんだ。
もしかして、とカカシの脳裏に嫌な想像がよぎる。
「イタチに、会いに行くの?」
「…違います」
即答だった。だが、彼女は嘘をつくのが下手だった。
――嘘、だな。
その否定があまりにも早すぎて、カカシは小さく息を吐いた。だがそれには気づかなかったフリをする。
「……なら、一緒に戻ろう。もう夜も遅い」
そう言って彼女の腕を引くと、ナマエは腕を硬らせ、振り解こうとした。
「離してください」
「……どこに行くつもりだ」
「そんな、どこ、とかじゃないです」
「なら帰れるでしょ」
彼女と視線が重なる。
「……一人にしてください」
その目は必死だった。
「どうしてもと言うなら…俺を騙し切ってから行ってよ」
「………!」
その視線の強さに、彼女はカカシに全てを見透かされていることに気づいたようだった。
何をどう言っても、どうにもならない。
その事実だけが、静かに彼女を追い詰めていく。
しばらくの沈黙の後、彼女はただ一言ポツリと呟いた。
「ただ、………会いたいだけで……」
その瞬間、それがまさに自白となったことに二人とも気づいた。
カカシの胸に、かすかな同情が差し込む。
同時に、どうしようもなく、イタチへの感情が込み上げた。嫉妬のようなものだった。
――そこまで想われる男。
つい最近、自分は恋人と別れたばかりだった。任務で不在がちな間に、「好きな人ができた」と告げられた。
すでに彼女とその思い人は 寝た後のようだった。簡単に言うと浮気だった。
言い寄ってきた女性の中から、一番都合が良さそうなのを選んだだけ。だが、それでも彼女の方から離れていくとなれば、寂寥感を覚えるものだった。
(……指名手配犯になっても、想われるなんて)
そんな存在は、自分にはいないに違いない。
だがその気持ちをぐっと堪え、彼女を真っ直ぐに見つめる。
彼女を掴む手から、力を抜いた。
「……抜け忍と接触しようとした。それだけで、事情聴取は避けられない」
低く、静かに言う。
「……ただ今は、俺に“偶然通りかかって会った”ってだけだ。それだけに、できる」
しばらく、沈黙。
「……帰ろう」
そう言うと、彼女はやがて抗う力が抜けたように肩が落とし、観念したかのようにうなずいた。
そのあまりにも静かすぎる引き際に、カカシは一抹の不安を覚え一言付け足す。
「慰めることくらいなら、できるから」
その言葉が、彼女にかけるものとして正しいのかどうかは、自分でもわからなかった。ただ、彼女をこのまま闇に行かせるわけにはいかないと思った。
ナマエはそれには何も返さず、一歩遅れて、彼の後を歩き出した。
*****
翌日、ふと気になって、カカシは任務帰りにナマエの家へ立ち寄った。衝動に近かったが、理由がまったくないわけでもない。
一度目の呼び鈴には反応がなかった。
留守か、それとも――そう思ってもう一度押すと、少し間を置いて、恐々といった様子で扉が開いた。
「よ!」
「……どうして……」
「いやぁ、やっぱりあんなことがあると気になるじゃない」
そう言われると、ナマエとしても強く追い返すことはできないようだった。一瞬だけ視線を伏せ、「……どうぞ」と小さく告げて、身体を引く。
それを合図に、カカシは室内へ足を踏み入れた。
ナマエは相変わらず元気ではなかった。とは言え普段のナマエをよく知っているわけではないので、ただその佇まいから、そう感じ取っただけだった。
恋人が指名手配となり里を抜ける心労は、やはり並大抵のものではないだろうなとカカシは思った。
その日は、あえて深夜遅くまで腰を据えたが、ナマエが慌てる様子はなかった。どうやらイタチと会う約束は、毎日されているものではないらしい。
その事実にカカシはわずかに安堵し、次の瞬間、その感情を不愉快に思った。
それからカカシはことあるごとにふらりとナマエの家を訪れた。
最初のうち、ナマエは警戒した表情を隠さなかった。言葉を選び、距離を測るような態度に、明らかな困惑が滲んでいた。
だが二度、三度と回数を重ねるうちに、茶が出され、やがて食卓を共にするようになった。
彼女はカカシの話に、控えめに笑った。そのうち、混ぜっ返すような返答や、ツッコミが入るようになった。いつしか、食卓を挟んで向かい合う距離が縮まっていることに気づいた。
彼女と話すのは楽しかった。
その一方で、その事実がどこか不釣り合いに思えた。
なぜそこまでして彼女に構うのか――自分でもよくわからなかった。乗りかけた船、と言った言葉がしっくり来るように思った。
これが長く続くものではないことだけは、どこかでわかっていた。いつか自然に役目が終わればいいと――そう思っていた。
だが一つ問題があった。
それは友人宅への訪問、そういった形を取りながら、彼女の在宅の確認と監視が目的だったが、周りからはそうは映らない。
イタチの元恋人が、今度ははたけカカシをたぶらかしている――そう噂が立つのに、時間は掛からなかった。