6.
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風鈴の音が、柔らかく縁側に響いていた。
夏の夕暮れ前。
まだ蒸し暑さの残る空気の中に、夕方の風が少しだけ混じりはじめている。
うちは家の庭には、陽が斜めに差し込み、茂った緑の影が静かに揺れていた。
蝉の声は遠くで、もう一日の終わりを告げるように、細く、短く鳴いている。
「……ほんとに、お礼を届けに来ただけだったんだけど。」
ナマエはそう言って、縁側にそっと腰を下ろした。
風呂敷に包まれた小さな箱が、彼女の膝の横に置かれている。
中身は夏みかん入りの菓子。
任務の依頼人から大量に渡されたそれを、彼女は「お裾分け」と笑っていた。
「いつものことだろう」
イタチは変わらず無表情だったが、その頬はどこか緩やかに見えた。
久しぶりの任務のない日。
静かな、ほんのわずかな休息の時間だった。
ナマエは忍装束ではなく、少し緩めた隊服の上着に、髪を下ろしていた。
ゆるく結ばれた襟元からは、彼女の素の表情がよく見える。
母親同士が昔から親しくしていたこともあり、お隣同士の苗字家とうちは家の間には、今も変わらぬお裾分けの文化が残っていた。それは、ナマエの親が亡くなってからも変わらなかった。
頂き物のお礼に手土産を持って訪れるのも、イタチの家で少し話してから帰るのも、いつもと変わらぬ風景だった。
「イタチの家、涼しくて好き。縁側でお茶って贅沢すぎるんだけど」
そう言ってナマエは湯呑を両手で包み、目を細めた。
「平家の分、風の通りがいいからな」
ぽつりと答えるイタチの声も、空気に溶けるように柔らかかった。
ナマエは背を伸ばし、軒の風鈴を見上げた。
リンリン、と涼やかな音。
少し湿気を含んだ風が頬を撫で、髪がふわりと揺れる。
「そうだ、そういえばさ。今年の祭り、私、警備任務なんだよね〜」
ほんの少し拗ねたように、ナマエは言った。
「ちょっと残念。行きたかったんだけどなぁ」
イタチは湯呑を見つめたまま、彼女の言葉を静かに聞いていた。
「今年の警備は少数精鋭で務めると聞く。名誉なことじゃないか」
「うん、分かってる。……分かってるんだけどね」
ナマエは肩を竦め、自嘲気味に笑った。
その笑いに、ほんの少しだけ寂しさが混じっているのがわかる。
「まぁ、誰かと行く約束していたわけでもないし、別にいいんだけどさ」
イタチの目がふと揺れた。
「誰か」の中に、過去はレンがいたであろう事実。
けれど同時に、彼女にまだ特別な相手がいないということにも、安堵する自分がいた。
少しの沈黙のあと、イタチはふと目を伏せて言った。
「……なら、祭りの夜が終わってから、少しだけ出歩くか?」
ナマエは驚いたように顔を上げた。
「え?」
「屋台は終わっていても……余韻くらいは感じられるだろう。川沿いとか」
一拍遅れて、ナマエの頬がふわっとほころぶ。
その笑顔は、陽の名残を受けて、どこか柔らかく、心をすっと撫でてくるようだった。
「イタチって、たまにロマンチストだよね」
「……そうか?」
「うん、行きたい。何時になるかわからないけど……待っててくれる?」
イタチは目を伏せたまま、小さく頷いた。
その笑顔を見たとき、また一歩、踏み出してみたくなる自分がいる。
けれど――
彼女の過去の傷も、
自分がまだ言葉にできない想いも、
どちらも、触れたら壊れてしまいそうなほど、脆いままだ。
だからせめて、今日のこの静けさだけを、胸にしまっておく。
風が吹いた。
風鈴が、大きく一度、鳴った。
その音にかき消されるように、イタチがかすかに「……ああ」と返した。
夏の夕暮れ前。
まだ蒸し暑さの残る空気の中に、夕方の風が少しだけ混じりはじめている。
うちは家の庭には、陽が斜めに差し込み、茂った緑の影が静かに揺れていた。
蝉の声は遠くで、もう一日の終わりを告げるように、細く、短く鳴いている。
「……ほんとに、お礼を届けに来ただけだったんだけど。」
ナマエはそう言って、縁側にそっと腰を下ろした。
風呂敷に包まれた小さな箱が、彼女の膝の横に置かれている。
中身は夏みかん入りの菓子。
任務の依頼人から大量に渡されたそれを、彼女は「お裾分け」と笑っていた。
「いつものことだろう」
イタチは変わらず無表情だったが、その頬はどこか緩やかに見えた。
久しぶりの任務のない日。
静かな、ほんのわずかな休息の時間だった。
ナマエは忍装束ではなく、少し緩めた隊服の上着に、髪を下ろしていた。
ゆるく結ばれた襟元からは、彼女の素の表情がよく見える。
母親同士が昔から親しくしていたこともあり、お隣同士の苗字家とうちは家の間には、今も変わらぬお裾分けの文化が残っていた。それは、ナマエの親が亡くなってからも変わらなかった。
頂き物のお礼に手土産を持って訪れるのも、イタチの家で少し話してから帰るのも、いつもと変わらぬ風景だった。
「イタチの家、涼しくて好き。縁側でお茶って贅沢すぎるんだけど」
そう言ってナマエは湯呑を両手で包み、目を細めた。
「平家の分、風の通りがいいからな」
ぽつりと答えるイタチの声も、空気に溶けるように柔らかかった。
ナマエは背を伸ばし、軒の風鈴を見上げた。
リンリン、と涼やかな音。
少し湿気を含んだ風が頬を撫で、髪がふわりと揺れる。
「そうだ、そういえばさ。今年の祭り、私、警備任務なんだよね〜」
ほんの少し拗ねたように、ナマエは言った。
「ちょっと残念。行きたかったんだけどなぁ」
イタチは湯呑を見つめたまま、彼女の言葉を静かに聞いていた。
「今年の警備は少数精鋭で務めると聞く。名誉なことじゃないか」
「うん、分かってる。……分かってるんだけどね」
ナマエは肩を竦め、自嘲気味に笑った。
その笑いに、ほんの少しだけ寂しさが混じっているのがわかる。
「まぁ、誰かと行く約束していたわけでもないし、別にいいんだけどさ」
イタチの目がふと揺れた。
「誰か」の中に、過去はレンがいたであろう事実。
けれど同時に、彼女にまだ特別な相手がいないということにも、安堵する自分がいた。
少しの沈黙のあと、イタチはふと目を伏せて言った。
「……なら、祭りの夜が終わってから、少しだけ出歩くか?」
ナマエは驚いたように顔を上げた。
「え?」
「屋台は終わっていても……余韻くらいは感じられるだろう。川沿いとか」
一拍遅れて、ナマエの頬がふわっとほころぶ。
その笑顔は、陽の名残を受けて、どこか柔らかく、心をすっと撫でてくるようだった。
「イタチって、たまにロマンチストだよね」
「……そうか?」
「うん、行きたい。何時になるかわからないけど……待っててくれる?」
イタチは目を伏せたまま、小さく頷いた。
その笑顔を見たとき、また一歩、踏み出してみたくなる自分がいる。
けれど――
彼女の過去の傷も、
自分がまだ言葉にできない想いも、
どちらも、触れたら壊れてしまいそうなほど、脆いままだ。
だからせめて、今日のこの静けさだけを、胸にしまっておく。
風が吹いた。
風鈴が、大きく一度、鳴った。
その音にかき消されるように、イタチがかすかに「……ああ」と返した。