5.
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ナマエとの最も古い記憶が、母の声と共に蘇る。
それは、木ノ葉の里の穏やかな住宅街、淡い夕暮れの光が差し込む中でのことだった。
6歳のイタチは、小さな窓の向こうで母が声を弾ませながら話しているのを、ただ黙って見ていた。
母の隣には、見知らぬ女性がいた。
ナマエの母だ。
その日のことを、今でも鮮明に覚えている。
「こんにちは、これは息子のイタチです。どうぞよろしくお願いします。」
母が微笑んでそう言ったその瞬間、俺は初めて「近所挨拶」というものの意味を理解した。
それと同時に、見知らぬ少女がこちらを向いていた。
ナマエだった。
彼女の母が「あなたも挨拶しなさい」と言うと、ナマエは行儀よく「イタチくん、よろしく」とおずおずと大人に言わされそうな台詞をそのまま言った。
ただの同い年の隣人。
その時はそう思っていた。
その後、日々が過ぎる中で、ナマエとの関わりが増えていった。
と言うよりも、向こうから意図的に関わりを増やしてきた、と言った方が正しい。
アカデミーや道端で何度も顔を合わせ、彼女はいつも無防備に笑いかけてきた。
だが、俺は隣人だからといって特別に扱う気もなかった。
それは、アカデミーのない、休日の夕方だった。
薄い夕焼けの光が、里の屋根や道端の草木を茜色に染める時間帯。
イタチは一人、いつものように静かな裏道を歩いていた。
人目を避ける癖は、もうこの頃からあった。
足音を忍ばせるように歩いていると、不意に後方から小さな水音が聞こえた。
振り返ると、ナマエが片膝をつくように地面に手をついていた。
彼女の足元には浅い水たまりと濡れた落ち葉。どうやら踏み抜いた拍子に、足を滑らせたらしい。
一瞬、無視して通り過ぎようとも思ったが、ナマエが想像以上に泥まみれであることに気づき、イタチは静かにため息をつきながらナマエに近づいた。
彼女は口をすぼめ、何かをごまかすように小さく笑っていた。
「……あ〜……濡れ落ち葉ってほんとに滑るんだね」
いつもより少しだけ照れたような顔だった。
左膝をぬかるみに擦ったのか、泥と少しの血が混じっている。
「何やってるんだお前は」
「手裏剣をさ、前に投げて追いついてキャッチ出来たらかっこいいじゃん。だから追っかけてみた」
「馬鹿なのかお前は」
イタチは無言でポーチから小さな布を取り出し、しゃがみ込んだ。
ナマエはそれを見て、「あ、大丈夫、ひとりで——」と言いかけたが、イタチの動きは止まらなかった。
黙って、淡々と膝の泥を拭き、傷口を確認する。
その仕草は、まるで慣れているかのようで、子どもらしさのない静けさがあった。
「……イタチって、本当は優しいよね。みんなの前では出さないだけで」
だから、本当に助けて欲しい時は来てくれるよね、と続けるナマエに、イタチの手がぴたりと止まった。
そんなことを言われるとは思っても見なかった。
――昔から、必要以上に優しくすれば、結果的にその子を傷つけることになると知っていた。
幼い頃から、異性に特別な目を向けるたびに、彼女たちが陰で傷つけられるのを何度も見てきた。
だからこそ、誰に対しても同じ温度で接することを選んだ。
でもその温度の冷たさに、「イタチくんは冷たい」――そう言って離れていく人間もいた。
けれど、それでいいと思っていた。
親しさは時に、誰かを傷つける。
だから近づかない。誰も特別にしない。
それが、俺なりの正しさだった。
……と思っていた。
「たまにはさ、私にも頼ってよ。この状況じゃ説得力ないかもだけど」
彼は顔を上げず、また静かに布を巻き終えると立ち上がった。
「足元を見て歩け。注意力が足りない。」
それだけ言って、背を向ける。
けれど、ナマエの歩く音はすぐに彼の後ろに続いた。
いつもよりも少しだけ近づいたような音だった。
「うん、ありがとう。」
イタチは何も返さなかった。
だが、その日を境に、彼の記憶の中の“ナマエ”は、ぼんやりとした輪郭を持ち始めていた。
決して才能のある忍びではない。
でも、嘘がなく、たまに見透かすように核心的なことを言う。
転んでも、強がりながら笑えるその姿が、なぜか離れなかった。
*****
「昨日、ちゃんと寝た?」
それから約10年。
ナマエは当たり前のように俺の隣りにいる。
「……いつも通りだ」
「イタチの“いつも”って、睡眠四時間とかじゃ」
「問題ない」
「……いつか倒れるってそれ。明日はもう少し寝て欲しいな」
イタチは目を伏せて、小さく息をついた。
「……気をつけよう」
いつもの日常。
それが、俺とお前の今の距離。
それは、木ノ葉の里の穏やかな住宅街、淡い夕暮れの光が差し込む中でのことだった。
6歳のイタチは、小さな窓の向こうで母が声を弾ませながら話しているのを、ただ黙って見ていた。
母の隣には、見知らぬ女性がいた。
ナマエの母だ。
その日のことを、今でも鮮明に覚えている。
「こんにちは、これは息子のイタチです。どうぞよろしくお願いします。」
母が微笑んでそう言ったその瞬間、俺は初めて「近所挨拶」というものの意味を理解した。
それと同時に、見知らぬ少女がこちらを向いていた。
ナマエだった。
彼女の母が「あなたも挨拶しなさい」と言うと、ナマエは行儀よく「イタチくん、よろしく」とおずおずと大人に言わされそうな台詞をそのまま言った。
ただの同い年の隣人。
その時はそう思っていた。
その後、日々が過ぎる中で、ナマエとの関わりが増えていった。
と言うよりも、向こうから意図的に関わりを増やしてきた、と言った方が正しい。
アカデミーや道端で何度も顔を合わせ、彼女はいつも無防備に笑いかけてきた。
だが、俺は隣人だからといって特別に扱う気もなかった。
それは、アカデミーのない、休日の夕方だった。
薄い夕焼けの光が、里の屋根や道端の草木を茜色に染める時間帯。
イタチは一人、いつものように静かな裏道を歩いていた。
人目を避ける癖は、もうこの頃からあった。
足音を忍ばせるように歩いていると、不意に後方から小さな水音が聞こえた。
振り返ると、ナマエが片膝をつくように地面に手をついていた。
彼女の足元には浅い水たまりと濡れた落ち葉。どうやら踏み抜いた拍子に、足を滑らせたらしい。
一瞬、無視して通り過ぎようとも思ったが、ナマエが想像以上に泥まみれであることに気づき、イタチは静かにため息をつきながらナマエに近づいた。
彼女は口をすぼめ、何かをごまかすように小さく笑っていた。
「……あ〜……濡れ落ち葉ってほんとに滑るんだね」
いつもより少しだけ照れたような顔だった。
左膝をぬかるみに擦ったのか、泥と少しの血が混じっている。
「何やってるんだお前は」
「手裏剣をさ、前に投げて追いついてキャッチ出来たらかっこいいじゃん。だから追っかけてみた」
「馬鹿なのかお前は」
イタチは無言でポーチから小さな布を取り出し、しゃがみ込んだ。
ナマエはそれを見て、「あ、大丈夫、ひとりで——」と言いかけたが、イタチの動きは止まらなかった。
黙って、淡々と膝の泥を拭き、傷口を確認する。
その仕草は、まるで慣れているかのようで、子どもらしさのない静けさがあった。
「……イタチって、本当は優しいよね。みんなの前では出さないだけで」
だから、本当に助けて欲しい時は来てくれるよね、と続けるナマエに、イタチの手がぴたりと止まった。
そんなことを言われるとは思っても見なかった。
――昔から、必要以上に優しくすれば、結果的にその子を傷つけることになると知っていた。
幼い頃から、異性に特別な目を向けるたびに、彼女たちが陰で傷つけられるのを何度も見てきた。
だからこそ、誰に対しても同じ温度で接することを選んだ。
でもその温度の冷たさに、「イタチくんは冷たい」――そう言って離れていく人間もいた。
けれど、それでいいと思っていた。
親しさは時に、誰かを傷つける。
だから近づかない。誰も特別にしない。
それが、俺なりの正しさだった。
……と思っていた。
「たまにはさ、私にも頼ってよ。この状況じゃ説得力ないかもだけど」
彼は顔を上げず、また静かに布を巻き終えると立ち上がった。
「足元を見て歩け。注意力が足りない。」
それだけ言って、背を向ける。
けれど、ナマエの歩く音はすぐに彼の後ろに続いた。
いつもよりも少しだけ近づいたような音だった。
「うん、ありがとう。」
イタチは何も返さなかった。
だが、その日を境に、彼の記憶の中の“ナマエ”は、ぼんやりとした輪郭を持ち始めていた。
決して才能のある忍びではない。
でも、嘘がなく、たまに見透かすように核心的なことを言う。
転んでも、強がりながら笑えるその姿が、なぜか離れなかった。
*****
「昨日、ちゃんと寝た?」
それから約10年。
ナマエは当たり前のように俺の隣りにいる。
「……いつも通りだ」
「イタチの“いつも”って、睡眠四時間とかじゃ」
「問題ない」
「……いつか倒れるってそれ。明日はもう少し寝て欲しいな」
イタチは目を伏せて、小さく息をついた。
「……気をつけよう」
いつもの日常。
それが、俺とお前の今の距離。