14.
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木の葉の夜空に浮かぶ無数の色とりどりの提灯が、星々のように瞬きながら、夜に華やぎを添えていた。
「灯火 祭」の宵。
里は活気に満ち、熱を帯びていた。
広場には屋台が立ち並び、焼き鳥や綿菓子の甘い香りが風に乗って漂う。
子どもたちは笑顔をはじけさせ、手に花火や金魚すくいの袋をぶら下げながら走り回っている。
色鮮やかな浴衣姿の人々が行き交い、賑やかな掛け声と太鼓のリズムが祭りの熱気を高めた。
忍たちも警備の合間にひとときの安らぎを楽しみ、笑顔を交わし合いながら祭りの賑わいに溶け込んでいる。
木ノ葉隠れの里が誇りと感謝に息づくこの夜、平和への祈りと喜びが混ざり合い、誰もが忘れられないひとときを過ごしていた。
ナマエは、祭りの喧騒をどこか遠くに感じながら、ひっそりとした裏通りを見下ろせる一本の高い木の枝に腰を下ろしていた。
華やかな灯りと人々の笑い声が届く場所からは少し離れた、静かなその場所で、彼女は警備任務の最中だった。
(……集中しなきゃ)
そう思いながらも、どうしても視線が街の方に向いてしまう。
提灯の明かりが照らす通りに、ユズとイタチの姿を探してしまう。
口元が無意識に歪んだ。
ナマエは木の幹に背を預けながら、心の奥に渦巻くものを振り払うように息を吐いた。
(関係ない、関係ない……任務に集中しなきゃ)
だけど胸の奥に残るもやもやは、提灯の灯りのようにふわりとは消えてくれなかった――。
*****
「ねぇ」
夜の広場では、色とりどりの提灯がそよ風に揺れ、柔らかな光が人々の笑顔を照らしている。
その中で、ユズは明るい赤い浴衣をふわりと揺らしながら、イタチの隣に並んだ。
「イタチって私のこと、少しくらいは可愛いって思ってくれてる?」
少し首を傾げて笑うその顔は、どこか心細げで、自信のなさを隠すように作られた愛嬌をたたえていた。
ぱっちりとした瞳が、ほんの少し期待を宿して揺れている。
イタチはその視線に応えず、前を向いたまま短く答えた。
「……そういう奴も多いだろう」
曖昧で突き放すような言葉に、ユズの笑みがかすかに揺らぐ。
それでもすぐに取り繕うように、明るく言葉を継いだ。
「いつもこういう場所に来ると、ナンパが多くて困っちゃうの。でも、イタチが一緒にいてくれると安心するなって」
「……そうか」
表情一つ変えずに応じたイタチの素っ気なさに、ユズの表情には隠しきれない苛立ちが浮かぶ。
けれど怒っているというよりは、どこか焦っているような、もどかしさの滲んだ顔だった。
「さっきから私の話、ちゃんと聞いてる?」
返ってくるのは、小さなため息のような息づかいと、またしても短い返事だけだった。
「……ああ」
人々の笑い声が響く中、ユズは一人、取り残されたような寂しさを感じていた。
明るい光に包まれているはずなのに、イタチのそばにいると、まるで自分だけが影の中にいるようで。
だから、ふと顔を上げて言った。
「あ、レンさんだ」
「!」
イタチの目が、ユズの指さす方向を向いた。
けれどそこにいたのは、無邪気に走り回る子どもたちだけ。
イタチが嘘に気づいてユズの方を見やると、ユズはどこかいたずらを仕掛けた子供のように微笑んだ。
「……初めて私の方、見たね」
「…………」
「ねえ、どういうつもりなの?」
ユズの問いに、イタチは沈黙したまま。
祭りの喧騒とは裏腹に、二人の間に流れる空気は冷たく、張り詰めていた。
「ナマエのことが好きなの?」
とうとう核心に触れる言葉を投げかけたユズに、イタチはゆっくりと顔を向け、鋭く言い放った。
「お前には関係ない」
その一言は、鋭い刃のようにユズの胸に突き刺さる。
ほんの少しでも、自分に振り向いてくれる可能性を信じていた心が、一瞬で凍りついた。
「じゃあ……どうして私の誘いを受けたの?」
声が震えるのを、ユズは必死で抑えながら問いかける。
イタチはほんのわずかに視線を落とし、低い声で告げた。
「悪いが…今日はここまでにしてくれ」
ユズは小さく息を飲むと、もう何も言わず、踵を返して祭りの人混みの中へ消えていった。
赤い浴衣の裾が揺れ、その背中はどこか、泣きそうな少女のようだった。
*****
祭りの喧騒が少しずつ静まり、最後のイベント灯籠流しが始まらんとする頃――
警備任務の最終巡回。里の灯りと人の流れを見守りながら、ナマエは目を細めた。
提灯の柔らかな光が、通りに浮かぶ人々の顔を照らしていた。
子どもたちの笑い声、屋台の片づけをする店主たち、そして――火影岩前へと歩く無数の影。
(ああ、もうすぐ灯籠流しが始まるんだ)
ナマエは足を組みかえ、遠くの川を見つめた。
火影岩のふもとから、無数の灯籠がひとつ、またひとつと流れ始めていた。
その光景は、まるで静かな祈りのようだった。
心にそっと触れてくるような、優しい――でも、どこか寂しさをはらんだ灯り。
(あの二人も……見てるのかな)
ふとよぎる思いに、胸がぎゅっと締めつけられた。
ユズとイタチ。
きっと今ごろ、並んでこの光景を眺めているのだろう。
あれだけまっすぐ気持ちを伝えていたユズがいるのだ。この祭りを機に、二人の関係はますます近くなるのだろう。
(私は……そんなふうに出来なかった)
レンと別れたあの頃、自身の一部が千切られたように苦しく、自分がどうしたいのかすら分からなくなっていた。
でも、イタチはそんな私に何も聞かず、ただそばにいてくれた。
沈黙の中で並んで歩くとき、イタチの足音と自分の足音だけが、やけに鮮明に聞こえた。
それなのに、不安はなかった。
ときどき、ほんの一瞬だけこちらを見るその横顔。
何も言わなくても、「無理するな」と伝えてくれるようで――
それだけで、崩れかけていた心が、少しずつ落ち着いていった。
言葉で埋める必要のないあの時間に、私はきっと、救われていたんだ。
(ああ、そうだ。あのとき、気づいていたんだ)
無理に笑わなくていい。取り繕わなくていい。
そんなふうに思わせてくれた人は、後にも先にも、イタチだけだった。
――自分の気持ちなんて、とっくに知ってた。
レンと別れ、イタチがそばにいた頃から。
いや、それよりもずっと前から。
レンと出会う前ずっと前、イタチが「ナマエ」と私の名前を呼んでくれるようになったその時から、
きっと、イタチのことが、好きだった。
初めて会った時。
なんて綺麗な男の子だと思った。一目惚れだった。
見つめていくうちに、その鋭い知性と、それに伴う自己犠牲の深さに気づき、助けたいと思うようになった。
だんだんとイタチが心を開いてくれたのも嬉しかった。いつの間にか、隣にいることが当たり前になっていった。
でもーーだからこそ、認められなかった。
この関係が居心地良くて、このままの関係が壊れることが何より怖かった。この関係が壊れてしまうくらいなら、気持ちなんて無かったことにしてしまいたかった。
今なら分かる。レンのことが好きになったのも、どこかでイタチに似た何かを求めていたからだ。
でも、レンと別れてからは、ますます自分の気持ちに蓋をせざるを得なかった。
自分のことを好きだった人が、離れていく過程を間近で見てしまったから。
自分が心から好きだった人との距離が、どれだけ想っても埋まらないことに、絶望するしかなかったから。
最近イタチが何度か、私の気持ちを確かめようとしたことにも気づいていた。でも、言えなかった。
怖かった。
今の関係を壊してしまうのが、怖かった。
「俺は…隣にいるだけの幼馴染みなのか」
あのときの声。どこか諦めたような、でも静かな響きが耳に残っている。
「………それじゃダメ、なの?」
そう、私はずっと気づかないふりをして、イタチの優しさに甘えてきのだ。
イタチがーー他の誰かと一緒にいるのは想像できなかったから。
他の誰かとイタチが一緒にいるなんて、想像したくなかった。
ずっと、私の隣にいてくれるって、どこかで思い込んでた。
(でも、本当は……)
目を開けると、水面に浮かぶ灯籠の灯が、いくつも流れていた。
まるで胸の奥でずっとくすぶっていた想いが、そっと風に乗って動き出したみたいだった。
(……イタチの、そばにいたい)
その言葉が、心の奥から浮かび上がった瞬間――
ナマエはようやく、自分の気持ちを認める決心がついたのだった。もう、間に合わないかもしれないけれどという後悔とともに。
「
里は活気に満ち、熱を帯びていた。
広場には屋台が立ち並び、焼き鳥や綿菓子の甘い香りが風に乗って漂う。
子どもたちは笑顔をはじけさせ、手に花火や金魚すくいの袋をぶら下げながら走り回っている。
色鮮やかな浴衣姿の人々が行き交い、賑やかな掛け声と太鼓のリズムが祭りの熱気を高めた。
忍たちも警備の合間にひとときの安らぎを楽しみ、笑顔を交わし合いながら祭りの賑わいに溶け込んでいる。
木ノ葉隠れの里が誇りと感謝に息づくこの夜、平和への祈りと喜びが混ざり合い、誰もが忘れられないひとときを過ごしていた。
ナマエは、祭りの喧騒をどこか遠くに感じながら、ひっそりとした裏通りを見下ろせる一本の高い木の枝に腰を下ろしていた。
華やかな灯りと人々の笑い声が届く場所からは少し離れた、静かなその場所で、彼女は警備任務の最中だった。
(……集中しなきゃ)
そう思いながらも、どうしても視線が街の方に向いてしまう。
提灯の明かりが照らす通りに、ユズとイタチの姿を探してしまう。
口元が無意識に歪んだ。
ナマエは木の幹に背を預けながら、心の奥に渦巻くものを振り払うように息を吐いた。
(関係ない、関係ない……任務に集中しなきゃ)
だけど胸の奥に残るもやもやは、提灯の灯りのようにふわりとは消えてくれなかった――。
*****
「ねぇ」
夜の広場では、色とりどりの提灯がそよ風に揺れ、柔らかな光が人々の笑顔を照らしている。
その中で、ユズは明るい赤い浴衣をふわりと揺らしながら、イタチの隣に並んだ。
「イタチって私のこと、少しくらいは可愛いって思ってくれてる?」
少し首を傾げて笑うその顔は、どこか心細げで、自信のなさを隠すように作られた愛嬌をたたえていた。
ぱっちりとした瞳が、ほんの少し期待を宿して揺れている。
イタチはその視線に応えず、前を向いたまま短く答えた。
「……そういう奴も多いだろう」
曖昧で突き放すような言葉に、ユズの笑みがかすかに揺らぐ。
それでもすぐに取り繕うように、明るく言葉を継いだ。
「いつもこういう場所に来ると、ナンパが多くて困っちゃうの。でも、イタチが一緒にいてくれると安心するなって」
「……そうか」
表情一つ変えずに応じたイタチの素っ気なさに、ユズの表情には隠しきれない苛立ちが浮かぶ。
けれど怒っているというよりは、どこか焦っているような、もどかしさの滲んだ顔だった。
「さっきから私の話、ちゃんと聞いてる?」
返ってくるのは、小さなため息のような息づかいと、またしても短い返事だけだった。
「……ああ」
人々の笑い声が響く中、ユズは一人、取り残されたような寂しさを感じていた。
明るい光に包まれているはずなのに、イタチのそばにいると、まるで自分だけが影の中にいるようで。
だから、ふと顔を上げて言った。
「あ、レンさんだ」
「!」
イタチの目が、ユズの指さす方向を向いた。
けれどそこにいたのは、無邪気に走り回る子どもたちだけ。
イタチが嘘に気づいてユズの方を見やると、ユズはどこかいたずらを仕掛けた子供のように微笑んだ。
「……初めて私の方、見たね」
「…………」
「ねえ、どういうつもりなの?」
ユズの問いに、イタチは沈黙したまま。
祭りの喧騒とは裏腹に、二人の間に流れる空気は冷たく、張り詰めていた。
「ナマエのことが好きなの?」
とうとう核心に触れる言葉を投げかけたユズに、イタチはゆっくりと顔を向け、鋭く言い放った。
「お前には関係ない」
その一言は、鋭い刃のようにユズの胸に突き刺さる。
ほんの少しでも、自分に振り向いてくれる可能性を信じていた心が、一瞬で凍りついた。
「じゃあ……どうして私の誘いを受けたの?」
声が震えるのを、ユズは必死で抑えながら問いかける。
イタチはほんのわずかに視線を落とし、低い声で告げた。
「悪いが…今日はここまでにしてくれ」
ユズは小さく息を飲むと、もう何も言わず、踵を返して祭りの人混みの中へ消えていった。
赤い浴衣の裾が揺れ、その背中はどこか、泣きそうな少女のようだった。
*****
祭りの喧騒が少しずつ静まり、最後のイベント灯籠流しが始まらんとする頃――
警備任務の最終巡回。里の灯りと人の流れを見守りながら、ナマエは目を細めた。
提灯の柔らかな光が、通りに浮かぶ人々の顔を照らしていた。
子どもたちの笑い声、屋台の片づけをする店主たち、そして――火影岩前へと歩く無数の影。
(ああ、もうすぐ灯籠流しが始まるんだ)
ナマエは足を組みかえ、遠くの川を見つめた。
火影岩のふもとから、無数の灯籠がひとつ、またひとつと流れ始めていた。
その光景は、まるで静かな祈りのようだった。
心にそっと触れてくるような、優しい――でも、どこか寂しさをはらんだ灯り。
(あの二人も……見てるのかな)
ふとよぎる思いに、胸がぎゅっと締めつけられた。
ユズとイタチ。
きっと今ごろ、並んでこの光景を眺めているのだろう。
あれだけまっすぐ気持ちを伝えていたユズがいるのだ。この祭りを機に、二人の関係はますます近くなるのだろう。
(私は……そんなふうに出来なかった)
レンと別れたあの頃、自身の一部が千切られたように苦しく、自分がどうしたいのかすら分からなくなっていた。
でも、イタチはそんな私に何も聞かず、ただそばにいてくれた。
沈黙の中で並んで歩くとき、イタチの足音と自分の足音だけが、やけに鮮明に聞こえた。
それなのに、不安はなかった。
ときどき、ほんの一瞬だけこちらを見るその横顔。
何も言わなくても、「無理するな」と伝えてくれるようで――
それだけで、崩れかけていた心が、少しずつ落ち着いていった。
言葉で埋める必要のないあの時間に、私はきっと、救われていたんだ。
(ああ、そうだ。あのとき、気づいていたんだ)
無理に笑わなくていい。取り繕わなくていい。
そんなふうに思わせてくれた人は、後にも先にも、イタチだけだった。
――自分の気持ちなんて、とっくに知ってた。
レンと別れ、イタチがそばにいた頃から。
いや、それよりもずっと前から。
レンと出会う前ずっと前、イタチが「ナマエ」と私の名前を呼んでくれるようになったその時から、
きっと、イタチのことが、好きだった。
初めて会った時。
なんて綺麗な男の子だと思った。一目惚れだった。
見つめていくうちに、その鋭い知性と、それに伴う自己犠牲の深さに気づき、助けたいと思うようになった。
だんだんとイタチが心を開いてくれたのも嬉しかった。いつの間にか、隣にいることが当たり前になっていった。
でもーーだからこそ、認められなかった。
この関係が居心地良くて、このままの関係が壊れることが何より怖かった。この関係が壊れてしまうくらいなら、気持ちなんて無かったことにしてしまいたかった。
今なら分かる。レンのことが好きになったのも、どこかでイタチに似た何かを求めていたからだ。
でも、レンと別れてからは、ますます自分の気持ちに蓋をせざるを得なかった。
自分のことを好きだった人が、離れていく過程を間近で見てしまったから。
自分が心から好きだった人との距離が、どれだけ想っても埋まらないことに、絶望するしかなかったから。
最近イタチが何度か、私の気持ちを確かめようとしたことにも気づいていた。でも、言えなかった。
怖かった。
今の関係を壊してしまうのが、怖かった。
「俺は…隣にいるだけの幼馴染みなのか」
あのときの声。どこか諦めたような、でも静かな響きが耳に残っている。
「………それじゃダメ、なの?」
そう、私はずっと気づかないふりをして、イタチの優しさに甘えてきのだ。
イタチがーー他の誰かと一緒にいるのは想像できなかったから。
他の誰かとイタチが一緒にいるなんて、想像したくなかった。
ずっと、私の隣にいてくれるって、どこかで思い込んでた。
(でも、本当は……)
目を開けると、水面に浮かぶ灯籠の灯が、いくつも流れていた。
まるで胸の奥でずっとくすぶっていた想いが、そっと風に乗って動き出したみたいだった。
(……イタチの、そばにいたい)
その言葉が、心の奥から浮かび上がった瞬間――
ナマエはようやく、自分の気持ちを認める決心がついたのだった。もう、間に合わないかもしれないけれどという後悔とともに。