13.
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あの日のことは、よく覚えてる。
私が中忍に昇格して、一番初めの任務だった。
私を含めた中忍3人の小隊で他国への調査に向かっていた。
途中、越国するタイミングで上忍3名と合流するはずだった。ところが予定外のトラブルにより合流予定の部隊が遅れ、単独で先行して行く必要性が出た。
その時、増援されたのがレンだった。
「この任務、隊長補佐で久我レンが入るって」
そう聞いた瞬間、仲間たちの空気が変わった。
「マジで? あの“黒の冷刃”って呼ばれてる人……?」
「え、嘘でしょ……。やだ、無理……」
そんな声が飛び交う中、一人の男が、岩場の影から歩いてきた。
黒髪がさらりと揺れて、切れ長の目が鋭く光る。
肌は透けるように白く、どこか虚無を抱えたような目元。
冷たい風を連れてきたみたいに、彼が近づくだけで空気が変わった。
(……似てる)
その輪郭、その沈黙――
イタチと初めて出会ったときの、あの「人を受け入れない感じ」に、どこか重なるものがあった。
ーーだからこそ、彼に近づくのは怖くなかった。
彼が無言で集まった一団に近づくと、周囲はさっと距離をとった。
けれど私は、いつも通り歩み出た。
「うわ……ナマエ……」
「怖いもの知らずすぎでしょ……」
背後で隊員が囁くのが聞こえたが、私は構わず言った。
「久我レン上忍、苗字ナマエです。先行調査の件、よろしくお願いします」
彼は少しだけ眉を動かして、私を見た。
「……無駄なやり取りは不要だ。情報共有の優先順位を考えろ」
その声は、乾いていて低かった。効率が悪いと言わんばかりに。
気圧されそうになるものの、私は負けじと言い返した。
「……では、まずは非常時の連絡ルートと対応計画の確認、お願いします」
数分後、レンの指示と地形図を照らし合わせながら、私は眉をひそめた。
言うか、言うまいか少し逡巡した。しかし小さく息を吸い、躊躇いながら口を開いた。
「……あの、このルート、不安があります。もし隊が分断された時の対応が曖昧で……」
レンは振り返り、無言で私の資料に目を落とす。
「緊急時の連携確認は簡潔に済ませた。過剰な心配は無意味だ」
そう言い放った彼に、私は少し臆しながらも、続けて言葉を重ねた。
「……ですが、この崖道は敵の格好の狙撃ポイントです。過去の戦例でも、ここを通った部隊が奇襲を受けて連絡が途絶え、そのまま失敗に繋がりました。」
私は資料を指差す。
レンは無言で目を細め、地形図を凝視した。
聞き流されるかと思ったが、やがて眉間にしわを寄せ、書き込みを始めた。
「……確かに甘かった。すぐに対策を講じる。」
それだけ言って、また沈黙に戻った。
でも、それで十分だった。
(……なんでも否定するわけじゃないんだ)
心の中でそう呟いた瞬間、レンはふと顔を上げた。
そして、彼の口元がほんの少しだけ動いた。
それは、——誰かを認めるような、ほんのわずかな笑みだった。
あの時、私は初めてレンの冷たい仮面の奥にある人間らしさを感じた。
レンが噂そのままの人ではないのかもしれないと思った瞬間でもあった。
それから、私の任務は少しだけ変わった。
他の班員たちからの報告や連絡事項を、レンに取り次ぐ役を任されるようになったのだ。
それはただの雑務ではなく、彼が私を“物分かりのいい後輩”以上の存在として見始めたことの表れだったのかもしれない。
任務の合間、短い会話の中で交わされるやり取りや、ふとした瞬間の無言の理解。
それらの積み重ねの中で、私はレンという人間の輪郭を少しずつ掴んでいった。
冷たく見えるその瞳の奥に、ごく微かではあるけれど確かに、人間らしい温度があることに気づいたのだ。
愛想はないが、合理的な指摘にはすぐに耳を傾ける柔軟さがある。
そして何より、実戦においては驚くほどの判断力と瞬発力を持っていた。
私が危機に陥ったとき、とっさに飛び込んで庇ってくれたこともある。
そのとき、風を切るように私の前に立った横顔が、やけに綺麗だったことを覚えている。
無表情の奥にある、わずかな表情の揺らぎに気づけるようになった頃。
名前で呼び合う距離感も、いつの間にか自然になっていた。
「ナマエ」
「レン先輩」
それだけの呼びかけに、どこか特別な響きを感じるようになっていた。
そして、ある任務の帰り際。
ふいに立ち止まった彼が、ほんの少しだけ視線を逸らしながら、言ったのだ。
「俺と付き合わないか」
その瞬間、私は知った。
いつの間にか、レンは“ただの上司”ではなく、特別な存在になっていたのだと。
*****
付き合い始めは――本当に、良かった。
彼は不器用なりに私を気にかけてくれて、
私も、「この人のことをもっと知りたい」と思えた。
ほんの少しの優しさがうれしくて、
目が合うだけで胸があたたかくなるような、そんな時間だった。
でも――その想いは、次第に変わっていった。
「……中身のない連絡をとって、何になる」
「一緒にいることになんの意味がある」
「お前の行動の、ほとんどが無駄だ」
彼の言葉は、いつだって容赦がなかった。
二人きりのときも、人の目がある場所でも、その態度は一切変わらない。
私が「こうしたい」と言えば、彼は静かに、けれど確実に、それを否定した。
それが彼なりの「正しいことの伝え方」であり、「私を思ってのアドバイス」だということは、わかっていたつもりだった。
でも、わかっていたからといって――傷つかないわけじゃなかった。
心は、知らないうちに少しずつ冷えていった。
最初のころは言い返していた私も、
気がつけば、すぐに引き下がるようになっていた。
何度も折れて、譲って、黙って、笑って――
レンの考え方は、合理的で、論理的で、冷静だった。
正しい。たぶん間違っていない。
だから私も、彼の“正解”の中で生きることを選んだ。
自分を失くしてでも、そばにいられるなら――
それでいいと思っていた。いや、思い込もうとしていた。
でも。
「……付き合う前みたいに、意見を言ってくれ。全部俺が決めるのは、正直疲れる。」
その、拒絶の一言で、全部が崩れた。
――言ってきたはずだった。
何度も、何度も、私は自分の思いを伝えてきた。
なのに、それを「意味がない」と切り捨ててきたのは――あなたじゃない。
意見を言わない私にしたのは、あなたじゃない。
この時、私は彼への気持ちが「言いたいことを言えなくても、好きだから一緒にいたい」ことしか残っていないことに気付いた。
そして彼は、そんな思いすら拒絶するのだ。
私の意見を全て流して、否定して、そのことすら忘れて。
胸の奥で、何かが音を立てて崩れた瞬間だった。
私は涙を堪えながら、最後の確認のように、問いかけた。
「レンはさ、私のどこを好きになったの?」
ほんの少しでいい。
"私"という存在を、見てくれていた証がほしかった。
けれど――彼は、いつもと同じ口調で答えた。
「お前がいちばん、“効率的”だったからだ」
――あのときの絶望を、私は今も忘れられない。
そして私はそれ以来、「好きになること」が、怖くなった。
恋をして、期待して、
その分だけ傷ついて、壊れていく。
一緒に積み上げたと思っていた関係が、
たった一瞬で、脆くも崩れてしまうことが――
怖くて、たまらなくなった。
私が中忍に昇格して、一番初めの任務だった。
私を含めた中忍3人の小隊で他国への調査に向かっていた。
途中、越国するタイミングで上忍3名と合流するはずだった。ところが予定外のトラブルにより合流予定の部隊が遅れ、単独で先行して行く必要性が出た。
その時、増援されたのがレンだった。
「この任務、隊長補佐で久我レンが入るって」
そう聞いた瞬間、仲間たちの空気が変わった。
「マジで? あの“黒の冷刃”って呼ばれてる人……?」
「え、嘘でしょ……。やだ、無理……」
そんな声が飛び交う中、一人の男が、岩場の影から歩いてきた。
黒髪がさらりと揺れて、切れ長の目が鋭く光る。
肌は透けるように白く、どこか虚無を抱えたような目元。
冷たい風を連れてきたみたいに、彼が近づくだけで空気が変わった。
(……似てる)
その輪郭、その沈黙――
イタチと初めて出会ったときの、あの「人を受け入れない感じ」に、どこか重なるものがあった。
ーーだからこそ、彼に近づくのは怖くなかった。
彼が無言で集まった一団に近づくと、周囲はさっと距離をとった。
けれど私は、いつも通り歩み出た。
「うわ……ナマエ……」
「怖いもの知らずすぎでしょ……」
背後で隊員が囁くのが聞こえたが、私は構わず言った。
「久我レン上忍、苗字ナマエです。先行調査の件、よろしくお願いします」
彼は少しだけ眉を動かして、私を見た。
「……無駄なやり取りは不要だ。情報共有の優先順位を考えろ」
その声は、乾いていて低かった。効率が悪いと言わんばかりに。
気圧されそうになるものの、私は負けじと言い返した。
「……では、まずは非常時の連絡ルートと対応計画の確認、お願いします」
数分後、レンの指示と地形図を照らし合わせながら、私は眉をひそめた。
言うか、言うまいか少し逡巡した。しかし小さく息を吸い、躊躇いながら口を開いた。
「……あの、このルート、不安があります。もし隊が分断された時の対応が曖昧で……」
レンは振り返り、無言で私の資料に目を落とす。
「緊急時の連携確認は簡潔に済ませた。過剰な心配は無意味だ」
そう言い放った彼に、私は少し臆しながらも、続けて言葉を重ねた。
「……ですが、この崖道は敵の格好の狙撃ポイントです。過去の戦例でも、ここを通った部隊が奇襲を受けて連絡が途絶え、そのまま失敗に繋がりました。」
私は資料を指差す。
レンは無言で目を細め、地形図を凝視した。
聞き流されるかと思ったが、やがて眉間にしわを寄せ、書き込みを始めた。
「……確かに甘かった。すぐに対策を講じる。」
それだけ言って、また沈黙に戻った。
でも、それで十分だった。
(……なんでも否定するわけじゃないんだ)
心の中でそう呟いた瞬間、レンはふと顔を上げた。
そして、彼の口元がほんの少しだけ動いた。
それは、——誰かを認めるような、ほんのわずかな笑みだった。
あの時、私は初めてレンの冷たい仮面の奥にある人間らしさを感じた。
レンが噂そのままの人ではないのかもしれないと思った瞬間でもあった。
それから、私の任務は少しだけ変わった。
他の班員たちからの報告や連絡事項を、レンに取り次ぐ役を任されるようになったのだ。
それはただの雑務ではなく、彼が私を“物分かりのいい後輩”以上の存在として見始めたことの表れだったのかもしれない。
任務の合間、短い会話の中で交わされるやり取りや、ふとした瞬間の無言の理解。
それらの積み重ねの中で、私はレンという人間の輪郭を少しずつ掴んでいった。
冷たく見えるその瞳の奥に、ごく微かではあるけれど確かに、人間らしい温度があることに気づいたのだ。
愛想はないが、合理的な指摘にはすぐに耳を傾ける柔軟さがある。
そして何より、実戦においては驚くほどの判断力と瞬発力を持っていた。
私が危機に陥ったとき、とっさに飛び込んで庇ってくれたこともある。
そのとき、風を切るように私の前に立った横顔が、やけに綺麗だったことを覚えている。
無表情の奥にある、わずかな表情の揺らぎに気づけるようになった頃。
名前で呼び合う距離感も、いつの間にか自然になっていた。
「ナマエ」
「レン先輩」
それだけの呼びかけに、どこか特別な響きを感じるようになっていた。
そして、ある任務の帰り際。
ふいに立ち止まった彼が、ほんの少しだけ視線を逸らしながら、言ったのだ。
「俺と付き合わないか」
その瞬間、私は知った。
いつの間にか、レンは“ただの上司”ではなく、特別な存在になっていたのだと。
*****
付き合い始めは――本当に、良かった。
彼は不器用なりに私を気にかけてくれて、
私も、「この人のことをもっと知りたい」と思えた。
ほんの少しの優しさがうれしくて、
目が合うだけで胸があたたかくなるような、そんな時間だった。
でも――その想いは、次第に変わっていった。
「……中身のない連絡をとって、何になる」
「一緒にいることになんの意味がある」
「お前の行動の、ほとんどが無駄だ」
彼の言葉は、いつだって容赦がなかった。
二人きりのときも、人の目がある場所でも、その態度は一切変わらない。
私が「こうしたい」と言えば、彼は静かに、けれど確実に、それを否定した。
それが彼なりの「正しいことの伝え方」であり、「私を思ってのアドバイス」だということは、わかっていたつもりだった。
でも、わかっていたからといって――傷つかないわけじゃなかった。
心は、知らないうちに少しずつ冷えていった。
最初のころは言い返していた私も、
気がつけば、すぐに引き下がるようになっていた。
何度も折れて、譲って、黙って、笑って――
レンの考え方は、合理的で、論理的で、冷静だった。
正しい。たぶん間違っていない。
だから私も、彼の“正解”の中で生きることを選んだ。
自分を失くしてでも、そばにいられるなら――
それでいいと思っていた。いや、思い込もうとしていた。
でも。
「……付き合う前みたいに、意見を言ってくれ。全部俺が決めるのは、正直疲れる。」
その、拒絶の一言で、全部が崩れた。
――言ってきたはずだった。
何度も、何度も、私は自分の思いを伝えてきた。
なのに、それを「意味がない」と切り捨ててきたのは――あなたじゃない。
意見を言わない私にしたのは、あなたじゃない。
この時、私は彼への気持ちが「言いたいことを言えなくても、好きだから一緒にいたい」ことしか残っていないことに気付いた。
そして彼は、そんな思いすら拒絶するのだ。
私の意見を全て流して、否定して、そのことすら忘れて。
胸の奥で、何かが音を立てて崩れた瞬間だった。
私は涙を堪えながら、最後の確認のように、問いかけた。
「レンはさ、私のどこを好きになったの?」
ほんの少しでいい。
"私"という存在を、見てくれていた証がほしかった。
けれど――彼は、いつもと同じ口調で答えた。
「お前がいちばん、“効率的”だったからだ」
――あのときの絶望を、私は今も忘れられない。
そして私はそれ以来、「好きになること」が、怖くなった。
恋をして、期待して、
その分だけ傷ついて、壊れていく。
一緒に積み上げたと思っていた関係が、
たった一瞬で、脆くも崩れてしまうことが――
怖くて、たまらなくなった。