11.
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それから数日後。
任務の報告を終えた夕暮れ、思わず気が緩み火影様の執務室を出てぐっと伸びをした。
「ふ〜、報告書って何であんなに疲れるんでしょうね……」
隣を歩くカカシはくすりと笑う。
「ちゃんとした文章書こうとして、真面目モードになるからじゃない?」
「いつでも真面目じゃないですか?」
「そっか。それは失礼」
軽口を叩き合いながら歩いていると、前方にイタチの姿が見えた。
あの日以来だった。
声をかけるか迷った。
あの日がなければ、すぐに声をかけていた。
その迷いが生じたーーその一瞬。
「イタチ〜、待ってよ〜!」
甲高い声が、私たちの間をするりとすり抜けていった。
ぱたぱたと小気味いい足音。
あの、よく通る声。
振り返るまでもなく誰だかわかる。
ユズだった。
大きな目をくるくると輝かせて、躊躇なくイタチに駆け寄っていくその姿に、私は足を止めた。
小柄な身体。
つり上がった目元に、やや上向きの鼻。
同性の私から見ると、どこか棘を含んだ印象。
でも、男の人には受けがいい。いや、良すぎるほどに。
彼女は、私やイタチと同じ同期。
けれど私は昔から、彼女のことが苦手だった。
彼女の周りでは、いつも空気が変わる。視線が集まる。
ーー私の隣にいた誰かの目が、ふいに彼女へと向く。
それだけで、自分が透明になったような気持ちになる。
「イタチ、あのさ! 今年の祭、一緒に回らない?」
甘えた声とともに、ユズは彼の肩に触れそうな距離までぐっと近づく。
ドクン、と心臓が跳ねた。
祭りーー
そうだ、前にイタチが言ってくれた。
「祭りが終わったら、少しだけでも一緒に歩こうか」って。
任務に悪態をつく私にイタチは、少し困ったように笑って、それでも優しく言ってくれた。
いや、あれは約束と呼べるものだったか。
場所も時間も決めてなかったし、私を気遣ってくれただけかもしれない。
忘れられていてもおかしくない。
イタチがユズの声に振り返る。
私たちに気づいたようで、ちらりと目が合った。
けれど、私が返す前に、彼の視線はユズへと移った。
「ね、いいでしょ?」
「……好きにすればいい」
そのやり取りを聞いた瞬間、胸の奥がきゅうっと縮んだ。
まるで誰かに心臓を掴まれたみたいに、脈が一瞬遅れる。
(……忘れちゃったよね)
ナマエは諦めたように思った。心の中で呟いた声は、意外なほど冷静だった。
仮に、覚えていたとしても、曖昧な口約束よりもはっきりと誘いをかけたユズの方が有効なのは理解できたし、反故になっても仕方ないとも思った。
だけど、胸の奥がぎゅうっと締めつけられるように苦しかった。
「やった〜!じゃあさ、ちょっと相談もあるし、今から甘味処寄らない?くず餅の新作、めっちゃ美味しいんだよ!」
ユズは楽しげに笑って、イタチの腕に自然と手をかけた。
その仕草が、やけに馴染んで見えるのが悔しい。
「……あ」
ユズが私の存在にようやく気付いたように声をあげた。
「ナマエじゃん」
私は、笑わなきゃと、思った。
頬を持ち上げるようにして、無理に笑みを作る。
「久しぶりだね」
「ね」
ほんの一瞬、ユズの目が動いた。
思案するような表情を浮かべたあと、あっさりと笑いながら問いかけてくる。
「ナマエも来る?」
その言葉に、私は一瞬だけ迷いを生じた。
二人で行って欲しくないーー。
けれどユズと視線が交差した瞬間、その目にはっきりと見えた。
“来ないで”っていう、無言の拒絶。
私に、気づかれないふりで、確実に。
私はその視線を真正面から受け止めて、ゆっくりと首を横に振った。
「ううん、私は大丈夫」
その瞬間、ユズの顔がほんのり緩んだ。
まるで、期待通りの答えを引き出せたとでも言いたげに。
「そっか!じゃ、またね!」
──そのまま、何もなかったかのように行ってしまうのかと思った、けれど。
ふいにユズは、足を止めるでもなく、ただ首だけをくるりとこちらへ向けた。
大きな目がこちらを捕らえた瞬間、ナマエは一瞬だけ息を呑んだ。
笑っていた。
その笑みは、どこか計算されたような、柔らかさの奥に棘を忍ばせたもので。
「ナマエってさ、空気読むの上手いよねぇ。私だったら行く~って言っちゃう」
それは、毒と蜜を巧妙に混ぜた一撃だった。
優しいふりをして、確実に突き刺す言葉。
「ありがと」
私は笑ったまま、そう返した。
震えないように、ただ唇を動かしただけの声で。
彼らの背中が遠ざかっていく。
彼らが視界から消えると、すぐに後ろにいるカカシから声がかかった。
「……最後のアレは、怒っていいんじゃない?」
すぐには反応できなかった。
怒りの気持ちがあったのも本当だし、嫌味を言われたと認識もしていたが、それを否定するだけの根拠がなかった。
非言語特有の、後に残る嫌な感じ。
「……本当に、褒めてるつもりかもしれないですし」
ナマエは無理に作った笑顔で言った。その胸の奥に、小さな刺が立ったのを、誰にも見せずに。
カカシはうーん、と唸ると、ナマエの強がりには気づかなかったかのように続けた。
「ああいう子、イタチは苦手そうだけど。……まぁでも、あのくらいの押しの強さってある意味、才能かもね」
「……ですね」
ナマエの声はかすかに揺れた。
ナマエに持つ「関係性」を、ユズの「強さ」が軽々と越えていく。
そんな錯覚に、心がざわつく。
カカシは目を細めて言う。
「ねえナマエ、ネガティブな感情って、出しても意味ないと思ってる?」
一瞬、カカシの意図が理解できず固まったが、ナマエはただ小さく笑って答えた。
「……出すタイミング、見失ってるだけかもしれないです。なんか、いつも言葉に詰まっちゃって」
困ったように笑うナマエにカカシは目を細め、いつものマスクの奥で何かを考えるように沈黙する。
「でもさ、イタチって……ナマエのこと、待ってるんじゃない」
その一言に、ナマエの足が止まった。
(待ってる? 私の……?何を……?)
心の奥のどこかが揺れる。
カカシの方を見上げると、にこりと笑った後、ナマエが口を開く前に言葉を足した。
「怖くない恋なんて、味しないよ。ナマエ」
カカシは冗談めかして言い、またそれじゃ、とふらりと姿を消した。
ナマエはその場に立ち尽くし、イタチの視線の温度を思い出していた。
(どういう、こと…?)
――試されているのか。
――それとも、見透かされているのか。
ナマエの心は、まだ答えを見つけられないままだった。
任務の報告を終えた夕暮れ、思わず気が緩み火影様の執務室を出てぐっと伸びをした。
「ふ〜、報告書って何であんなに疲れるんでしょうね……」
隣を歩くカカシはくすりと笑う。
「ちゃんとした文章書こうとして、真面目モードになるからじゃない?」
「いつでも真面目じゃないですか?」
「そっか。それは失礼」
軽口を叩き合いながら歩いていると、前方にイタチの姿が見えた。
あの日以来だった。
声をかけるか迷った。
あの日がなければ、すぐに声をかけていた。
その迷いが生じたーーその一瞬。
「イタチ〜、待ってよ〜!」
甲高い声が、私たちの間をするりとすり抜けていった。
ぱたぱたと小気味いい足音。
あの、よく通る声。
振り返るまでもなく誰だかわかる。
ユズだった。
大きな目をくるくると輝かせて、躊躇なくイタチに駆け寄っていくその姿に、私は足を止めた。
小柄な身体。
つり上がった目元に、やや上向きの鼻。
同性の私から見ると、どこか棘を含んだ印象。
でも、男の人には受けがいい。いや、良すぎるほどに。
彼女は、私やイタチと同じ同期。
けれど私は昔から、彼女のことが苦手だった。
彼女の周りでは、いつも空気が変わる。視線が集まる。
ーー私の隣にいた誰かの目が、ふいに彼女へと向く。
それだけで、自分が透明になったような気持ちになる。
「イタチ、あのさ! 今年の祭、一緒に回らない?」
甘えた声とともに、ユズは彼の肩に触れそうな距離までぐっと近づく。
ドクン、と心臓が跳ねた。
祭りーー
そうだ、前にイタチが言ってくれた。
「祭りが終わったら、少しだけでも一緒に歩こうか」って。
任務に悪態をつく私にイタチは、少し困ったように笑って、それでも優しく言ってくれた。
いや、あれは約束と呼べるものだったか。
場所も時間も決めてなかったし、私を気遣ってくれただけかもしれない。
忘れられていてもおかしくない。
イタチがユズの声に振り返る。
私たちに気づいたようで、ちらりと目が合った。
けれど、私が返す前に、彼の視線はユズへと移った。
「ね、いいでしょ?」
「……好きにすればいい」
そのやり取りを聞いた瞬間、胸の奥がきゅうっと縮んだ。
まるで誰かに心臓を掴まれたみたいに、脈が一瞬遅れる。
(……忘れちゃったよね)
ナマエは諦めたように思った。心の中で呟いた声は、意外なほど冷静だった。
仮に、覚えていたとしても、曖昧な口約束よりもはっきりと誘いをかけたユズの方が有効なのは理解できたし、反故になっても仕方ないとも思った。
だけど、胸の奥がぎゅうっと締めつけられるように苦しかった。
「やった〜!じゃあさ、ちょっと相談もあるし、今から甘味処寄らない?くず餅の新作、めっちゃ美味しいんだよ!」
ユズは楽しげに笑って、イタチの腕に自然と手をかけた。
その仕草が、やけに馴染んで見えるのが悔しい。
「……あ」
ユズが私の存在にようやく気付いたように声をあげた。
「ナマエじゃん」
私は、笑わなきゃと、思った。
頬を持ち上げるようにして、無理に笑みを作る。
「久しぶりだね」
「ね」
ほんの一瞬、ユズの目が動いた。
思案するような表情を浮かべたあと、あっさりと笑いながら問いかけてくる。
「ナマエも来る?」
その言葉に、私は一瞬だけ迷いを生じた。
二人で行って欲しくないーー。
けれどユズと視線が交差した瞬間、その目にはっきりと見えた。
“来ないで”っていう、無言の拒絶。
私に、気づかれないふりで、確実に。
私はその視線を真正面から受け止めて、ゆっくりと首を横に振った。
「ううん、私は大丈夫」
その瞬間、ユズの顔がほんのり緩んだ。
まるで、期待通りの答えを引き出せたとでも言いたげに。
「そっか!じゃ、またね!」
──そのまま、何もなかったかのように行ってしまうのかと思った、けれど。
ふいにユズは、足を止めるでもなく、ただ首だけをくるりとこちらへ向けた。
大きな目がこちらを捕らえた瞬間、ナマエは一瞬だけ息を呑んだ。
笑っていた。
その笑みは、どこか計算されたような、柔らかさの奥に棘を忍ばせたもので。
「ナマエってさ、空気読むの上手いよねぇ。私だったら行く~って言っちゃう」
それは、毒と蜜を巧妙に混ぜた一撃だった。
優しいふりをして、確実に突き刺す言葉。
「ありがと」
私は笑ったまま、そう返した。
震えないように、ただ唇を動かしただけの声で。
彼らの背中が遠ざかっていく。
彼らが視界から消えると、すぐに後ろにいるカカシから声がかかった。
「……最後のアレは、怒っていいんじゃない?」
すぐには反応できなかった。
怒りの気持ちがあったのも本当だし、嫌味を言われたと認識もしていたが、それを否定するだけの根拠がなかった。
非言語特有の、後に残る嫌な感じ。
「……本当に、褒めてるつもりかもしれないですし」
ナマエは無理に作った笑顔で言った。その胸の奥に、小さな刺が立ったのを、誰にも見せずに。
カカシはうーん、と唸ると、ナマエの強がりには気づかなかったかのように続けた。
「ああいう子、イタチは苦手そうだけど。……まぁでも、あのくらいの押しの強さってある意味、才能かもね」
「……ですね」
ナマエの声はかすかに揺れた。
ナマエに持つ「関係性」を、ユズの「強さ」が軽々と越えていく。
そんな錯覚に、心がざわつく。
カカシは目を細めて言う。
「ねえナマエ、ネガティブな感情って、出しても意味ないと思ってる?」
一瞬、カカシの意図が理解できず固まったが、ナマエはただ小さく笑って答えた。
「……出すタイミング、見失ってるだけかもしれないです。なんか、いつも言葉に詰まっちゃって」
困ったように笑うナマエにカカシは目を細め、いつものマスクの奥で何かを考えるように沈黙する。
「でもさ、イタチって……ナマエのこと、待ってるんじゃない」
その一言に、ナマエの足が止まった。
(待ってる? 私の……?何を……?)
心の奥のどこかが揺れる。
カカシの方を見上げると、にこりと笑った後、ナマエが口を開く前に言葉を足した。
「怖くない恋なんて、味しないよ。ナマエ」
カカシは冗談めかして言い、またそれじゃ、とふらりと姿を消した。
ナマエはその場に立ち尽くし、イタチの視線の温度を思い出していた。
(どういう、こと…?)
――試されているのか。
――それとも、見透かされているのか。
ナマエの心は、まだ答えを見つけられないままだった。