10.
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夕暮れの街は、どこか浮き足立っていた。
通りには提灯が吊るされ、子どもたちの笑い声と、屋台の準備に奔走する大人たちの声が入り混じる。
年に一度の祭りを前に、街全体が少しずつ熱を帯び始めていた。
そんな中、メイン通りから少し外れた坂道を歩くナマエとイタチの足取りは、対照的に静かだった。
別に何かあったわけではない。
会話も、喧嘩も、沈黙すらなかったのに――二人の間には、妙に張り詰めた空気が漂っていた。
きっかけは些細なこと。
ほんの数分前、通りかかった店先で、顔見知りの老婆に言われた一言。
「あらナマエちゃん、またイタチくんと? ほんとに仲良しねえ。本当に恋人さんみたい」
他意のない世間話。よくあるからかい。
けれどその直後から、二人の歩幅は微妙にずれはじめ、どちらからともなく会話が途切れていた。
“また”と言われたこと。
“恋人さん”と見られたこと。
そんなつもりじゃない――そう反射的に思ったのに、なぜか否定の言葉が口から出なかった。
その気まずさを誤魔化すように歩き続けているうちに、どちらも何を言えばいいのかわからなくなっていた。
不意に、イタチが言った。
「……いつの間にか、ナマエは女性らしくなったな」
ナマエは足を止めそうになりながら、視線を前に向けたまま問い返す。
「え、それって……どういう意味?」
「そのままの意味だ。隣を歩くときも、話すときも。昔より、大人になった」
その言葉に、ナマエは小さく息を飲んだ。
祭りの熱気とは裏腹に、吹き抜ける夜風がやけに冷たく感じられる。
「……そうかな」
自分でも自覚していなかった。でも言われてみれば。
確かに、遊びと修行の区別がついていない頃に比べれば、隣にいるイタチとの距離――歩幅や、呼吸や、言葉の選び方まで――少しずつ変わってきている気がした。
ナマエは、ここ数年で繰り返し耳にした言葉を思い出す。
「イタチと付き合ってないの?」
「ただの幼なじみにしては距離が近くない?」
「本当は好きなんじゃないの?」
そう言われるたび、ナマエは否定して、笑ってやり過ごしてきた。
イタチが男性であること。
ナマエが女性であること。
それを、意識させる言葉が多すぎるのだ。
それに加え、イタチは時々、こうして何気ない一言で心をかき乱してくる。
それが無意識なのか、意図的なのか――ナマエには、わからなかった。
「……変えた方がいい?」
「何故そう思う?」
「だって…、隣いたら誤解されちゃうかもでしょ?」
イタチはすっと立ち止まると、ナマエを真っすぐに見据えた。
「……誤解されると、困るのか?」
その問いに、ナマエはまた返事に詰まる。
わからない。
ただ、なんとなくーー
この問の答え次第では、自分とイタチの関係性が「単なる幼なじみ」以上になることだけ、明確に感じ取った。
恋が始まる時は、いつもこんな感じだった。
(どう答えたらーー)
ドキッと高鳴る瞬間、だけどどこかでそう思ったとき、レンとの最後の会話がよみがえる。
好きだったのに、好きな人に気持ちが全然伝わらない苦しみ。
少しずつズレて、すれ違って、気づいたときにはもう、触れることもできないくらい、遠くなっている、あの寂寥感。
愛してた人と、愛し合えなくなっていく。
あんなに大切だったはずの人が、最後には誰よりも苦しい存在になっていく――
――怖い。
もう、あんな風になるのが怖い。
「……勘違いしそうになるから。あんまりそういうこと、言わないで」
ナマエは立ち止まらずにそう言った。
横にいるイタチの表情を見るのが、怖かった。
すると、イタチがふと足を止める。
一拍の間を置いて、短く言った。
「……そうか」
それだけを口にして、彼はまた歩き出す。
いつもと同じ速度で、まるで何もなかったかのように。
でもナマエは感じ取っていた。
イタチは確かに、ほんの少し踏み込んで、そしてすぐに引いたのだ。
それが彼なりの“優しさ”であることも。
ふと今、イタチの姿に、レンを重ねていたことにナマエは気づいた。
(……これで、良かったんだよね)
気づけば、少しずつ距離を置いていた。
昔よりも上手に、誰にも気づかれないように。
好きに、ならないように。
夕暮れの空に吊るされた提灯が、微かに揺れていた。
通りには提灯が吊るされ、子どもたちの笑い声と、屋台の準備に奔走する大人たちの声が入り混じる。
年に一度の祭りを前に、街全体が少しずつ熱を帯び始めていた。
そんな中、メイン通りから少し外れた坂道を歩くナマエとイタチの足取りは、対照的に静かだった。
別に何かあったわけではない。
会話も、喧嘩も、沈黙すらなかったのに――二人の間には、妙に張り詰めた空気が漂っていた。
きっかけは些細なこと。
ほんの数分前、通りかかった店先で、顔見知りの老婆に言われた一言。
「あらナマエちゃん、またイタチくんと? ほんとに仲良しねえ。本当に恋人さんみたい」
他意のない世間話。よくあるからかい。
けれどその直後から、二人の歩幅は微妙にずれはじめ、どちらからともなく会話が途切れていた。
“また”と言われたこと。
“恋人さん”と見られたこと。
そんなつもりじゃない――そう反射的に思ったのに、なぜか否定の言葉が口から出なかった。
その気まずさを誤魔化すように歩き続けているうちに、どちらも何を言えばいいのかわからなくなっていた。
不意に、イタチが言った。
「……いつの間にか、ナマエは女性らしくなったな」
ナマエは足を止めそうになりながら、視線を前に向けたまま問い返す。
「え、それって……どういう意味?」
「そのままの意味だ。隣を歩くときも、話すときも。昔より、大人になった」
その言葉に、ナマエは小さく息を飲んだ。
祭りの熱気とは裏腹に、吹き抜ける夜風がやけに冷たく感じられる。
「……そうかな」
自分でも自覚していなかった。でも言われてみれば。
確かに、遊びと修行の区別がついていない頃に比べれば、隣にいるイタチとの距離――歩幅や、呼吸や、言葉の選び方まで――少しずつ変わってきている気がした。
ナマエは、ここ数年で繰り返し耳にした言葉を思い出す。
「イタチと付き合ってないの?」
「ただの幼なじみにしては距離が近くない?」
「本当は好きなんじゃないの?」
そう言われるたび、ナマエは否定して、笑ってやり過ごしてきた。
イタチが男性であること。
ナマエが女性であること。
それを、意識させる言葉が多すぎるのだ。
それに加え、イタチは時々、こうして何気ない一言で心をかき乱してくる。
それが無意識なのか、意図的なのか――ナマエには、わからなかった。
「……変えた方がいい?」
「何故そう思う?」
「だって…、隣いたら誤解されちゃうかもでしょ?」
イタチはすっと立ち止まると、ナマエを真っすぐに見据えた。
「……誤解されると、困るのか?」
その問いに、ナマエはまた返事に詰まる。
わからない。
ただ、なんとなくーー
この問の答え次第では、自分とイタチの関係性が「単なる幼なじみ」以上になることだけ、明確に感じ取った。
恋が始まる時は、いつもこんな感じだった。
(どう答えたらーー)
ドキッと高鳴る瞬間、だけどどこかでそう思ったとき、レンとの最後の会話がよみがえる。
好きだったのに、好きな人に気持ちが全然伝わらない苦しみ。
少しずつズレて、すれ違って、気づいたときにはもう、触れることもできないくらい、遠くなっている、あの寂寥感。
愛してた人と、愛し合えなくなっていく。
あんなに大切だったはずの人が、最後には誰よりも苦しい存在になっていく――
――怖い。
もう、あんな風になるのが怖い。
「……勘違いしそうになるから。あんまりそういうこと、言わないで」
ナマエは立ち止まらずにそう言った。
横にいるイタチの表情を見るのが、怖かった。
すると、イタチがふと足を止める。
一拍の間を置いて、短く言った。
「……そうか」
それだけを口にして、彼はまた歩き出す。
いつもと同じ速度で、まるで何もなかったかのように。
でもナマエは感じ取っていた。
イタチは確かに、ほんの少し踏み込んで、そしてすぐに引いたのだ。
それが彼なりの“優しさ”であることも。
ふと今、イタチの姿に、レンを重ねていたことにナマエは気づいた。
(……これで、良かったんだよね)
気づけば、少しずつ距離を置いていた。
昔よりも上手に、誰にも気づかれないように。
好きに、ならないように。
夕暮れの空に吊るされた提灯が、微かに揺れていた。