9.
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「へえ〜、こんなお店あったんですね」
ナマエは落ち着いた雰囲気の店内を見回しながら、座敷に腰を下ろす。
木の葉の外れにある、隠れ家のような割烹。内装は素朴で、落ち着いた空気が流れていた。
「たまには、ね。ナマエが頑張ってるご褒美」
カカシがさらりと言って、湯呑を口に運ぶ。
ナマエは一瞬だけ目を丸くし、それから少しだけ眉を下げて笑った。
「……先輩って、たまに優しいですよね」
「“たまに”?」
「“いつも”の自覚あります?」
二人の間に、やわらかな笑いが生まれる。
料理が運ばれてくると、一時会話は自然と落ち着いた。
ナマエは、丁寧に箸を動かしながらもどこか緊張している様子だった。
それを横目に見ながら、カカシは口を開いた。
「……ナマエって、自分のことあんまり話さないよね」
ナマエの箸が少しだけ止まった。
「そう…ですか?」
「うん。気づいてなかった?」
カカシは軽く湯呑を揺らしながら、さりげなく視線を送る。
「会話は弾むから、気づかれないことも多いだろうけど。後で振り返ると、ナマエの話、何も聞いてないなって思うことあるよ」
「でも自分の話って、なにも面白いことないですよ?」
「そんなことないでしょ。たとえば、イタチとはどういう関係?」
「……ただの幼なじみですって」
何度も聞かれたこのやりとりに、ナマエは軽くいなした。
「そういう風に答えるのに――レンの話が関係してたりして?」
ナマエの箸が、ぴたりと止まった。
予想していなかったわけじゃなかった。
カカシからの急な誘い。
何か意図があるのだろうと思えば。
レン。
少し前に終わったばかりの恋愛。
カカシの同期の、レンとの恋。
ナマエは苦笑して湯呑を手に取った。
「どうなんでしょうね。自分でも、わかりません」
付き合っているのを知っていて、今まで何も聞いてこなかったカカシが、今ここで問うのは絶妙なタイミングだった。
誰かに聞いてほしい、でも気軽に話せる人もいない。そんな思いが、ナマエの素直な思いを吐き出させた。
「ま、俺、聞くのはわりと得意だから」
カカシの声は、まるで川の流れのようにさらりとしていた。
その優しさに、ナマエの心は少しだけ、緩み、ナマエは湯呑を両手で包むように持つ。
ふと、過去の面影を思い出しながら話だした。
「まぁ、だいぶ好きだったかな、と思います。彼のことが好きで、まるで自分の一部みたいに感じるほどに。」
――――あの人は、話すときにあごに手を当てる癖があった。
その姿勢は真っ直ぐで、嘘のない人だった。
「……ナマエの笑ってる顔、俺は好きだ」
そう言って、真正面から見つめてくる目が、たまらなく眩しかった。
優しいわけじゃない。でも、ずるさもなかった。
その目は真剣で眩しく、大人な彼の言葉に私は惹かれた。
けれど――。
『、正直疲れる』
別れる直前に言われたあの一言が、今でも胸の奥に残っている。
「彼は、私じゃなくてもよかったんです。一番、"ちょうどいい"のが私だっただけで。」
ぽつりと呟いた言葉が、空間に静かに落ちた。
手の中の湯呑がじんわりと温かくて、その温度だけが今の現実を繋ぎ止めてくれていた。
ナマエは目を閉じた。
思い出したくないのに、ふとした瞬間に蘇る、あの人の声と、視線と――
自分をすり減らしてまで恋をした、苦い記憶。
う〜ん、とカカシは上をむいて考えるように目を閉じた後、「あいつは変わり者だからなぁ」と呟いた。
「ちゃんとナマエのこと、好きだったと思うけどね」
「そうなんですかね……。でも、彼の人生に私は必要なかったみたいなんです。違うのかもしれないけど、…そう感じてしまって」
「……なるほどね」
けれど、だからこそ。
もう二度と、自分を失う、恋なんてしたくない――そう、強く思った。
ふと視線を落としたナマエに、カカシは目を細める。
「あいつとよく付き合ったよ。疲れるまで向き合い続けるなんて、健気だね」
「健気というのはピンときませんが。ケンカの時は私もかなり言い返しましたし。」
「うん。でも、まだ引きずってるっていうのは真剣だった証拠でしょ。それに、まず大抵の人間がそうやってぶつかる所までいかないし」
にこりと笑ったカカシ。つられてナマエも「確かに」と笑った。
「ナマエと違って、駄目だと思ったらすぐに気持ちを切り替えられる人間もいる。俺みたいにね」
それは、冗談のようでいて、本気の響きだった。
もしかして、自分のことを言っている?
そう思いつつもその確信もなく、ナマエはどう答えていいかわからなかった。ただ静かにカカシの横顔を見つめた。
言葉を探していると、カカシはふっと視線をナマエに向ける。
少し間を置いて、彼は優しい声で続けた。
「ま、ナマエが誰かを“ただの幼なじみ”って言い切るのは、もったいないかもね」
「……え?」
「あいつと君は似てる。好きになったら忘れられない、同じタイプだと思うよ」
な〜んてね、と締められたカカシの言葉が真剣なのか冗談なのか測りかねて、ナマエは戸惑いの色を浮かべたまま、「まさか」という言葉を飲み込んだ。
静かに、氷がグラスの中で鳴る音だけが、二人の間に響いていた。