絵葉書 -君がくれた、この想いは…-
それからだ。ソラを意識し始めたのは。
『きっと、美人なんでしょうね』──彼女の言う通り、それは確かに細くて綺麗な字だった。女性が書いたものと見紛う程に。
本当は、女の子なんじゃないか。何度もそんな事を考えた。
その度に胸の奥から溢れる、淡い想い。
これが一体何なのか。ハッキリとした名前を付けられないまま、もやもやする感情ばかりが膨らんでいく。
もし許されるなら……会ってみたい。
会って、この感情にケリを付けたい。
……でも、その一方で怖かった。
ソラの姿を目の当たりにした瞬間、この想いが壊れてしまいそうで。
小学生が、気軽にいける距離じゃないから。お金がないから。──そんな言い訳ばかりを並べ立てて、諦める努力ばかりをしていた。
しかし、中学生になっても未だ消えないこの想いに、その努力は無駄なんだと思い知らされた。
行き方や交通手段を調べ、移動にかかる料金を調べ、貯めていた小遣いやお年玉を掻き集めた。
次の手紙が来たら、会いたいと伝えよう。
ソラに、会おう。
そう、思っていた矢先に届いた──絵葉書。
「……」
まさか。こんな形で会いに行く事になるなんて………
ホームがひとつしかない、寂れた駅。
傾き始めた太陽。頬を撫でる風。
クーラーで冷えた身体を、夏特有の蒸し暑い空気が纏う。
改札口を出て直ぐの待合室。そこに、絵葉書にあった療養所の広告看板を見つけた。
診療所経由のバスに乗り込む。
陽が少しずつ傾き、窓から見える景色の色を変えていく。
海が近いんだろう。診療所にバスが着くと、微かな波の音と潮の香りがした。