除夜の鐘(夏生ver.)



もう少し、で──


「こっち飲め」

ズイッ、
伸ばした手のひらに押しつけられる、山本のホット缶。

「………へ?」
「良かったね、夏生。確かコーヒー、好きだったよね」

屈託のない、満面な笑みを見せるさくら。


ゴーン……

鉛のように固まった夏生が、鐘の音と共に打ち砕かれる。


「なぁ、さくら。お前の少しくれ」
「……うん。いいよ」

夏生に渡る筈だったミルクティーが、いとも簡単に山本の手に渡る。

「お、美味いな」

それをクイと飲んだ山本が、じっと見上げるさくらを見つめながら返せば……

「……でしょ?」

缶を受け取りながら答え、照れたように俯く。


ゴーン……

目の前で繰り広げられる、二人のいちゃつく光景。缶コーヒーを手に砕けた身体が砂と化し、サラサラと風に乗って散り去っていく。

コーヒーが嫌いだったら良かったと後悔しながらも、気を取り直して缶コーヒーを開けようとすれば……

「──!!」

既に開いた飲み口。
そこから山本との間接キスが想像され、その場に崩れてエレエレと吐く。



──ゴーン、
ざわざわざわ……
参拝者達が騒ぎ出し、活気に溢れ、少しずつ列に動きが見え始める。

「……年、明けたな」

携帯を取り出した山本がそう呟けば、その向こうにちょこんと立つさくらが、ぱぁぁ~と花が咲いたような笑顔を見せる。

「あけまして、おめでとう!」

その笑顔が、自分にだけ向けられているような気がして。ようやく立ち直り、スッと背筋を伸ばす夏生。

「おぅ、おめでとう!」

感情の赴くまま、さくらに飛び付いて肩に腕を回す。

「──わっ、」
「今年もよろしくなっ、さくら」

驚いて逃げようとするさくらをグイと引き寄せ、逸らした顔を覗き込もうとしてはたと気付く。
ネックウォーマーからちらりと覗く、細い首筋に付けられた──赤い刻印。

「おい、杉浦」

夏生の背後に掛かる、大きな黒い影。と同時に響く、ボキボキボキ……と指を鳴らす音が。

「……俺も宜しく頼むわ」


──!!


ゴーン……




THE END

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