除夜の鐘(夏生ver.)

……ゴーン


「おっ、」

遠くから聞こえる、重厚感のある鐘の音。
ジャンパーのポケットに両手を突っ込んだままの夏生が、首に巻きつけたマフラーに潜っていた鼻先を出し、少しだけ天空を仰ぐ。

「……つーか。寒ぃし、遅ぇし」

ざわざわ……
列に並ぶ人達が、いよいよだとざわめき立つ。その中で一人。惨めに待たされた挙げ句、未だ帰って来ない二人に焦りと苛立ちを隠せない。
いよいよ年が明けようとするこの瞬間に……肝心のさくらが隣にいない。カイロで温むポケットから手を出し、先程の感触を噛み締めるように、キュッと握る。

「──クソッ、山本のヤツ。もう少しで……」
「『もう少しで』……何だよ」
「おわっ!!」

夏生のぼやきに被せながら、直ぐ背後から聞こえる低い声。それに酷く驚き、ビクンと肩を大きく跳ね上げた。

「……あ、い……いやっ……」

焦りながら振り返り、必死で笑顔を貼り付ける夏生。その視界には、厳つい山本の隣に立つ低身長のさくら。クリッとした大きな瞳を細め、口角をキュッと可愛く持ち上げる。

「ありがと、夏生」

ぷっくりとした唇。そこに、両手で大事そうに持つホット缶が寄せられる。
山本をもう一度良く見れば、同じく手にホット缶が。

「つーか。オレには?」
「……あっ、ごめん。これで良ければ、僕のあげる」

夏生に一歩近付き、持っていた缶を差し出すさくら。

「はいっ、」

それは、甘い香りの漂うミルクティーで。
夏生の鼻腔を擽りながら、ある思考だけが脳を支配する。

「……」


──間接、キス……


可愛らしい仕草も相まって、夏生の心臓が早鐘を打つ。


ドクン、ドクン、ドクン……

「……さ、サンキュー」

平然を装いながら返事をするものの……
緊張のせいで顔が熱くなり、伸ばした手の指先がふるふると震える。


目的のミルクティーまで、数十センチ。

「……」


あと、数センチ。

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