大晦日の夜


たこ焼き、からあげ、チョコバナナ……
様々な屋台から漂う、美味しそうな匂い。わたあめの屋台では、耳を塞ぎたくなるような機械音が鳴り響く。

……何処まで行くんだろう。
屋台の裏側へと回り、ライトアップされていない、深い闇にそびえる木々の方へと足早に向かう竜一。
それを必死で追い掛けていれば、振り向いた竜一が僕に手を差し伸べてくれた。

「こっちこいよ」
「……うん」

それだけで、嬉しい。
やっと、竜一に許されたような気がして。




「ここなら、邪魔が入らねぇな……」

独り言のように呟く竜一が、僕の身体を引き寄せ──太くて大きな樹の幹に背中を押しつける。荒い息。掴まれた二の腕。この状況に、驚いて顔を上げれば……

「……っん、」

性急に塞がれる、唇。
柔らかくて温かな舌先が、歯列を割り開き……逃げる僕の舌を追い掛ける。

「は……、んぅ……」

溢れる甘い蜜。舌根を絡められ、吸い上げられ……その度に襲い掛かる、熱情。

……溺れる。溺れちゃう。
こんなキスは、初めてで。息が苦しいのに……止めて欲しくなくて。
僕の二の腕を掴む竜一の袖をキュッと掴み、もっと欲しいとねだる。

「……やべ」

なのに。
突然離される、唇。
お互いの吐息が交差する程の距離で、竜一の少し蕩けた瞳が僕を見下ろす。

「嫉妬、……した」
「……え……」

思い掛けない台詞に、驚く。
……だけど、やっぱり嬉しい。

「……ふふっ」

驚きと安堵が混じり、つい笑みが溢れてしまう。

「な、何だよ」

そんな僕に、照れ臭そうな……でもそれを隠そうと眉根を寄せる竜一が、口を尖らせながら言い放つ。

「竜一、嫉妬してたの?」
「……しちゃ、悪いかよ」
「ううん。ふふ……」
「オイ! これ以上揶揄うと、ここで犯すぞ!」

必死になる竜一が、何だか可愛くて。
掴んだままの袖。それを引っ張り下げながら背伸びをし、驚く竜一に顔を寄せた。

「……ん」



ゴーン…、ゴーン…、

遠くの寺院から響く、除夜の鐘。
その音色をぼんやり聞きながら、煩悩の数を数えていた。


  
THE END
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