夜に咲く花 散る桜
さわさわと、上空で葉の擦り合う音が聞こえ、その数秒後、僕と竜一の間を冷たい夜風が通り抜けていく。
「……」
握り締めた手が、震える。
このまま竜一との関係が終わってしまいそうで……怖い。
「……ずっとね。小学生の頃から、夏生が好きだったから。那月ちゃんと付き合うって知った時、凄いショックだった。
諦めなくちゃって思ってたのに、上手く割り切れなくて。二人が一緒にいる所を見掛ける度に、胸が張り裂けそうな程、辛かった」
「……」
「けど。竜一が転校してきてから、変わったの」
黒板の前に立ち、挨拶をする竜一を見た瞬間──目が離せなかった。
夏生に感じていたものとは違う──胸の奥が一瞬で熱くなって、指先の末端まで、熱い血潮が押し流されて。身体に緊張が走って、心臓が煩い程にドキドキと大きな鼓動を打って。
よく解らない……けど、何かが芽生え始めるのを感じていて……
「……一目惚れ、だったんだと思う」
これが一体何なのか。あの時は解らなかった。
……でも、今なら解る。
「だから、初めて竜一に話し掛けられた時……嬉しかった。
だんだん仲良くなって、夏休みに皆で遊びに行くようになった頃には……竜一の事が好きなんだって、気付いて。
あれだけ辛かった二人の姿を見ても、平気になってた」
「……」
「去年のクリスマス。一緒にツリーを見に行って、……キス、された時は……本当に嬉しかったんだよ」
──だから、竜一と別れたくない。
声が震えて、最後は殆ど声にならなかった。
なのに、涙は次々と溢れて……止まらない。
「疑っちまって、悪かった」
ぼそりと、竜一が呟く。
その言葉に、小さく頭を横に振る。
「一目惚れ、か」
「……」
「なら、多分……俺もだ」
……え……
何処か遠くを眺めながら、竜一が小さく溜め息をつく。
「お前の視線が、杉浦に向かってんのは直ぐに解った。
報われねぇ恋愛に苦しんで、抜け出せねぇんだなって思ったら……俺がその泥沼から引っ張り出して、幸せにしてやりてぇと思ったんだよ」
「……」
「でも、強引に奪って俺のモンにする事が、本当にお前の為になったのか……解んなくなっちまってよ。
只の、俺のエゴなんじゃねぇかって──」
「……そんな事、ない」
手の甲で涙をぐいと拭い、真っ直ぐ竜一を見上げていれば、振り向いた竜一の眼に、優しげな色が宿っていた。
「ああ。……らしくねぇよな」
そう言って、いつものシニカルな笑みを漏らし、涙で濡れた僕の頬にそっと手を伸ばす。