夜に咲く花 散る桜



石段を登り、頂上に辿り着く。
所々吊り下げられた提灯の明かりが、会場の広場よりも何となく暗い。
いつの間にか外れていた手。
さわさわと木の葉を揺らす冷たい夜風が、僕と竜一の隙間をすり抜けていく。

「……僕、そんなにエロい格好だったかな」

酔っ払いの戯言を真に受け、自身の服装に目を落とす。
ゆるめのニットパーカー。ショートパンツ。
確かに生足を出してはいるけど。……僕、男だし。

「充分、エロいぜ」
「……ぇ」

視線を上げれば、少し困ったような呆れたような顔をした竜一に、流し目をされる。

「襲っちまいたくなる位に、な」
「……」

少し棘のある言い方。ふと逸らされる視線。

やっばり……意図的に、僕から距離を取ってる……?
理由も解らないまま突き放され、見えない壁を作られてしまった様で、ズキンと胸が痛む。
竜一からくれた連絡や、繋いでくれた手の温もりに、やっと元通りになれたと思っていたのに。

竜一の心が……また遠くに離れてしまったよう。

「……さくら」

淡々とした竜一の声。
何処か遠くを見つめながら、次の言葉を紡ぐ。

「ちょっと話がある」
「……」

僕の方を、一切見ないで。




少し先に見える、小高い丘。下の方からは、宴会を楽しむ人々の騒がしい声が聞こえる。
散った花びらを踏み締め、数本並んだ桜の木の下にあるベンチに横並びになって座る。……空いた距離が、もどかしい。
 
「杉浦から、事情は大体聞いてる」

両肘を腿に付き前屈みになると、何処か遠くを見ながら竜一がぼそりと呟く。

「お前……ボンボンでも酔う位、アルコールに弱いんだってな」
「……うん」

答えながら、膝に置いた手をキュッと握り締める。

「雛祭りの週明け、お前の首筋に絆創膏が貼ってあるのを見た時、……正直、堪えた」
「……!」

溜め息混じりに吐いた竜一の言葉に、ぴくっと肩が小さく跳ねる。

「腸が煮えくりかえったけどよ。杉浦の話を聞いてるうちに……気付かされちまった。
お前がまだ、彼女持ちのアイツに想いを寄せてる、って事にな」
「……っ、」

深い所を突かれて、一瞬怯む。
確かに僕は……あの時麻里子さんの話を聞いて、心が揺れた。
でも──

「さっきの酔っ払い、見ただろ。酒を飲んで酔えば、人間誰しも本性が現れるもんだぜ」
「──!」

口の片端を持ち上げた竜一が、冷たく言い放つ。

その瞬間──今まで感じていた竜一との距離が、気のせいではなかったと確信した。

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