violenceなValentine(夏生ver.)
「……」
「どぉ?!」
ジャク、ガリッ……
思っていたのとは違う食感と味に、眉間に皺を寄せる。
「……ん、何これ……」
「だからぁ、私の手作りチョ……」
「チョコじゃねーだろ、コレ」
「──はぁ?!」
那月の剣幕を気も止めず。二人を盗み見ながら口を動かしていれば、山本が辺りを気にする素振りを見せる。
その視線が一瞬、此方に向けられたように感じ。慌てて那月の方へと顔を向き直す。
「………、あれ」
瞼を持ち上げ、瞬きした那月の眼が少し寄る。
「?」
「どした、ソレ……」
自身の口端に人差し指を当て、夏生の唇をまじまじと見る。
「……あー、これね」
自身の口角に触れながら、夏生は昼間にあった出来事を思い出していた。
「……おぃ」
昼休み。
さくらに貰った本命チョコを手に、夏生が意気揚々と廊下に出ると──ビニール袋をぶら下げた山本が立ちはだかり、鋭い目付きで睨まれる。
「お前……今、さくらに何貰った」
「………あー、これ?」
怯む事無く、リボンの付いた小さな箱を掲げてみせる。と、山本の表情がより一層険しいものに変わった。
優越感からか。余裕の笑みを浮かべた夏生が、挑発的な言葉を吐く。
「見ての通り、本命チョコ」
「──!」
パシッ、
手中から奪われる──さくらのチョコ。
その暴挙に一瞬怯むものの。背筋を伸ばし、再び笑顔を浮かべた夏生が山本の前に片手のひらを出す。
「返せよ」
「……ぁあ?!」
「大事なモンだからさ」
「……」
夏生の勝ち気な笑顔と態度に、凄みを利かせた山本は無言で背を向ける。
返す気はないと、言わんばかりに。
「──ちょ、待てよ!」
立ち去ろうとする山本を追い掛け、肩を掴めば──僅かに振り返った山本が、鋭い眼付きでガン飛ばす。
「ちょっと面貸せや」
「……」
山本の、ドスの利いた声。
次に展開されるシーンを想像し、夏生は武者震いをした。