violenceなValentine(夏生ver.)
「やっほ~、なっちぃ~!」
ガラッ、と勢い良くドアが開き、ざわつく教室内に良く通った女声が響く。
教壇辺りで屯し、今日の戦利品で盛り上がっていた男子数人が、それに引っ張られるようにして振り返る。
「……あれ、夏生の彼女じゃね?」
そう呟かれた声に、夏生が顔を上げる。
肩より長い、黒のストレートロングヘア。プリーツスカートから伸びる、長い脚。
目尻の上がった切れ長の眼が、真っ直ぐ夏生を捉えると、薄めの唇が綺麗な弧を描く。
「………ハァ? 彼女じゃねーよ!」
「なっちなっち。……ちょっとこっち来てごらん?」
ゴゴゴゴゴ……
微笑みはそのままに。夏生を手招いた後腕を組んだ彼女──遼河|那月《なつき》の額に、血管が浮き出る。
「羨ましいぞ、なっち!」
「そーそー。あーんな美人が、幼馴染みでェ……」
「彼女でェ……」
「ズリィぞ、なっち!」
「………うっせ。なっちなっち止めろっ!」
那月の気迫に圧され、何も知らずに囃し立てる野郎共を押し退けながら、夏生が廊下に出る。
「……なぁ。『なっち』って言うの、やめね──」
「はい、あーんっ!」
夏生の申し出を完全に無視し、笑顔を浮かべる那月がグイグイと夏生の口に何かを押し当てる。
「……ハ??」
突然の出来事に、仰け反って拒否する夏生。それを許すまいと迫り、ドアまで追い詰める那月。
「やめろっ、……つーか、何だよコレ」
「……あー、コレ?」
満面の笑みを浮かべた那月が、「じゃじゃーん!」と効果音を口にしながら、夏生の目の前に持っていたものを掲げてみせる。
それは、歪ながらココアパウダーの掛かった、チョコレートトリュフ。
「さっき、家庭科室で作ってきたの」
「……は?」
「いいから喰えっ!」
「──はぁ?!」
笑顔を保ちつつ、鬼の如く追い詰める那月。せめて視界だけでも逃れようと、夏生が教室内をチラリと見る。
未だ盛り上がってる野郎達。その奥──窓際後ろの席で、密着するさくらと山本。
「……ッ、」
瞬間。脳裏に蘇る、大晦日の悪夢。
「隙あり──ッ!」
……くにゅっ。
油断した唇に、チョコトリュフが再び押し当てられる。
「……」
二人の姿を捉えたまま、観念したように夏生が口を開けた。