桜色のバレンタイン


……え、……妬いて……?

余りにストレートな物言いに、ぴくんと肩が小さく跳ねる。
瞬きもせず、真っ直ぐ竜一を見つめていれば──机についた竜一の手が離れ、僕の頬を優しく包む。

「……ばぁか。あれは頼まれたんだよ。
杉浦に渡してくれってな」

竜一の瞳が緩み、次いで口角が柔く持ち上がる。

「──ぇ、」
「そんなに見開いてっと、目ん玉落ちるぞ」

そう言いながら、僕の頬を包む竜一の親指が、涙の跡をそっと拭う。


『──で、これなんだけど』
『宜しくね』
『あぁ、解った』

確かに──冷静になって思えば、この会話だけでは何の確証も無くて。


「……信じて、いいの……?」
「信じろよ」

間髪入れず、答える竜一。
向けられた瞳は、とても真剣で。

「……」

涙で、再び視界が滲む。
それでも──目を逸らす事無く見つめながら、僕の頬を包む竜一の手の甲に、そっと手を重ねる。

「俺が、どれだけお前を好きか……解ってんだろ?」
「………ん、」
「ったく。妙な誤解しやがって」
「……、」

溜め息混じりに呟く竜一。
その瞬間。ずっと胸の奥で蟠っていた感情が、一瞬で消え去り……軽くなった筈の胸が、キュッと切なく締めつける。

「でも、お前が嫉妬するなんてな。……嬉しいぜ」
「っ、……ば、バカ……」

揶揄われて、熱くなる頬。
むくれたまま睫毛を下ろし、視界から竜一を追い出す。

「あぁ。バカだよ、俺は……」

スッ……
僕から離れた竜一が、机の脇に落とした鞄を拾い上げ、何かを取り出す。
見ればそれは──夏生にあげた筈の、茶色い包装紙に桜色のリボンの小さな箱で。

「……え、それ……」
「俺のだろ?」

どうして……
驚きを隠せず、竜一をじっと見上げていれば、竜一の頬が少しだけ赤くなった気がした。


「……ちょっと、自然にしてろよ」

周りをキョロキョロと見回した竜一が、僕だけに聞こえる声でそう言う。

「うん……?」

その言葉の意味が解らず。不可解な行動を取る竜一を見つめていれば……

机に片手をつき、前方を隠すように竜一の顔が迫り──



ざわざわ、ざわざわ……



教室の片隅で重ねた唇は、チョコレートよりも……甘くて……


「………ばか、」


僕の心まで、とろとろに溶かしていった。





sweet end♡
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