このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

番外編

design

※此方は、頂いたイラストを元に、ssを書いたものです。
其方と合わせて読んで頂けたら幸いです。


◇◇


「……あの……珈琲でも、飲みませんか?」
「ん、ありがとう」

コトン、とテーブルの端にコーヒーカップを置けば、それまで仕事モードだった誠さんの雰囲気が緩み、僕の知ってる表情へと変わる。

辺りに広がっていく、ほろ苦い珈琲の香り。
長くて綺麗な指をカップの取っ手に絡め、口元にスッとその縁を近付ける様は、何だか絵になる位格好良くて。

その姿に魅入りぽやっとしていれば、誠さんの黒眼がスッと動いて僕へと向けられる。
その瞬間──かぁぁ、っと頬が熱くなり、両手で持っていた自身のティーカップに視線を落とす。

「そういえば、双葉はいつも紅茶のようですが。……飲まないのですか、珈琲」

ティーカップに視線を移した誠さんが、口の端を綺麗に持ち上げる。

「………飲まない、というか……」

香りは好きなんだけど……
飲むと苦いし、お腹も痛くなっちゃうし。
……それに僕は、誠さんみたいに……珈琲の似合う大人じゃないから……

「双葉」

カップをテーブルに戻した誠さんが数回瞬きをした後、俯いたまま瞳を泳がせている僕に、優しく微笑みかける。

「少し、試してみませんか?」
「………え」

何を、と尋ねる間もなく片手を取られ、慌てて持っていたティーカップをテーブルに置く。少し雑になってしまったから、零れちゃったかもしれない。
身体を此方に向け、自分のテリトリーに僕を引っ張り込んだ誠さんは、僕の腰にもう片方の手を添え、更にグイッと引き寄せる。

「………」

少し蹌踉け、誠さんの両肩に手をつく。
この体勢と、この距離感が恥ずかしくて。視線を横に逸らすものの、誠さんはそれを許してくれなくて。
愛おしそうに真っ直ぐ僕を見つめる、形の良い二つの大きな瞳──

「………わっ、……ん、」

その綺麗な瞳に視線が吸い寄せられれば、いつの間に回されたんだろう大きな手が、僕の後頭部を優しく包み誠さんへと導いて……
引き寄せられるまま、柔らかく重ねられる、唇と唇──


「……はぁ……っ、……」
「………ん、」

ねっとりと絡められる、熱く濡れそぼつ舌と舌。
その度に溢れ、零れそうになるお互いの蜜液。
優しく掻き混ぜられる度に、先程誠さんが口にした珈琲の味が、咥内いっぱいに広がっていき──

………くちゅ、……ちぅ……
……ぁ、ん…ぁっ、……

ほろ苦い、大人の味。
だけど、その奥から誠さんの味も感じられて……

ゆっくりと離された後、瞬きを数回した瞳が、鼻先の距離で僕を真っ直ぐに見つめる。

「……どう、でした?」
「………」
「双葉……?」

蕩けたままぼんやりとする僕に気付き、僅かに瞼が持ち上がった後瞳が小さく揺れ動く。

「……」

こんなに優しくて、温かくて、甘い後味のする珈琲があるとしたら……
僕は毎日でも飲んでみたいな、なんて思ってしまっていた。


end
3/3ページ
スキ