双葉の恋 -crossroads of fate-

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「……」

大輝からの、突然の誘い。
待ち合わせ場所は、最寄り駅から乗り換え含めて一時間程かかる、駅の改札口前。
空は見事な快晴。トートバックの中には、頼まれていた二人分のお弁当。

「………」

……遅いなぁ。

駅構内にある時計を見れば、約束の時間を三十分も過ぎている。待ち合わせ場所や時間を間違えたのかと、不安になって落ち着かない。
電車が到着したというアナウンス。キョロキョロと辺りを見回せば、その集団の中に、見慣れた人物がいて──

「……!」

ロゴ入りの白シャツに、キャメル色のスエットパーカー。いつものお堅いスーツとは違い、柔らかな印象の……誠。

──ドクンッ
大きく、胸が熱く高鳴る。

「……お久しぶりですね」

目を逸らせずにいる僕に、改札を抜けた誠が満面の笑みを浮かべて見せる。
でもそれは……爽やかながら、何処か壁を感じるもので……


「……」

タクシー内での出来事が思い出され、金平糖のような甘くて柔らかい棘が、胸の奥に突き刺さる。

……やっぱり、あの時……

首筋に付けられた痕を思い出し、手のひらで覆いながら俯く。


ブブブブ……
唐突に震えるスマホ。確認すれば、それは大輝からで。

《行けなくて、ごめんね》

……え、何それ……!

無情な一文に頬を膨らませると、視界の端に誠の靴が入り込んだ。

「……もしかして、浜田くんとここで待ち合わせですか?」
「……え、」

驚いて顔を上げれば、瞬きを数回しながら誠が視線を逸らす。

「実は、浜田くんとここで会う約束をしていたのですが……
……その、代わりに成宮さんと行って欲しいと、今、連絡が入りまして……」
「──!」

大輝……もしかして、また……


『……もう双葉を、自由にしてやってよ 』
『浮気したら、ぜってー許さねぇからな』

大輝と悠の言葉が、ぐるぐると脳内で渦巻く。
スプーンで掻き混ぜた褐色のコーヒーに、白色のクリームを流し込んだみたいに……





駅を出て少し歩いた所にある、動物公園。小規模ながら週末とあって、人の出入りが多い。
入園の手続きを済ませ、誠と共にゲートを潜る。

……悠……ごめんね。
これは、裏切りじゃないから……

心の中で懺悔をしつつ辺りを見渡せば、多くの家族連れ──赤ん坊を抱っこする夫婦や、燥ぐ子供と手を繋ぐ親子の姿が目に飛び込む。
次第に失っていく、色彩。

……悠にも、いるのかな……赤ちゃん……

別に居てもおかしくはないのに。仲睦まじい姿を想像し、胸の奥がチクンと痛む。
次第に狭まっていく視界。失っていく平行感覚。
遠退いていく、意識と喧騒──

嫌いで別れた訳じゃない。寧ろ、痛い位に真っ直ぐ、今も僕の事を想ってくれてる。
……でも……
そんなの許されない。悠が結婚している限り……

目の前が、マーブル状に歪んでいく。
指先が痺れて……息が……苦しい……
空はあんなに蒼かったのに。澱んで今にも雨が降り出しそうで。

不毛な思考ばかりが蔓延って、僕の心に暗い影を落とす。
重苦しさを感じていれば──不意に訪れる、違和感。

「……え、」

驚いて誠を見る。
苦慮する僕に、誠の優しい瞳が向けられ……
僕の手首に、誠の指が絡んだ。

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