双葉の恋 -crossroads of fate-
エンドロールの文字が流れている中、ぞろぞろと人が捌けていく。
「……」
怖い演出は多かったけど……切なくて、とても悲しい話だった……
想い合っていた二人が、古いしきたりのせいで引き裂かれ──良家の男は、跡継ぎの為に親の決めた娘と結婚。下人の女は、男を惑わす不届き者として、生きたまま井戸に突き落とされた。
……それを嘆いての、呪いだったなんて……
隣を覗き見れば、スクリーンから漏れる光が、誠の横顔を僅かに照らしていた。
映画館を抜ける。
ショッピングモールの眩い照明と:疎(まば)らに行き交う人々が目に入り、じわじわと現実感が帯びていく。
「この後、どうしますか?」
「……!」
直ぐ傍で声がし、一気に目が冴える。
見上げてみれば、誠との距離は意外に近くて……
『……ほら、お茶しながら映画の話で盛り上がれるでしょ』──脳内に響く、バイト先でのお客さんの声。それが僕の背中を押すものの……中々言葉が出てきてくれない。
数回瞬きをした後、腕時計を見た誠が穏やかな笑顔を浮かべて此方を見る。
「もう遅いですし。……帰りましょうか」
「………ぇ、」
もだもだする僕を見て、そう察したのだろう。気遣って貰えたのは嬉しい。……けど……
視線を逸らす僕に、誠が目を細める。
「……もし宜しければ、もう少しお時間頂けませんか?」
……何処へ行くんだろう。
湿気を帯びた、柔らかな空気。
雨上がりの濡れた道路を、車のタイヤが踏みつけていく。青から赤へと変わる信号。煌びやかなネオン。
ざわざわとした街の喧騒はすっかり装いを変え、行き交う人達の中には、見た事もない派手な格好をした人達が混じる。
……あ……
目の先に現れたのは、頭にネクタイを螺子巻いた酔っぱらい。
送別会だったんだろうか。居酒屋前には楽しく談笑する、花束を抱えたスーツ姿の男性と同僚らしき女性達。
「……あれぇ、こんな所に可愛い子ちゃんが歩いてる」
道を塞ぐその酔っぱらいが、おぼつかない足取りで僕の方へと近付いてくる。
不安に駆られる僕の手を、誠の手が攫った。
「行きましょう……」
安心させるかのようにキュッと握り、僕をエスコートしながら酔っぱらいをスッとかわす。
「……」
優しくて、頼りがいのある……大きな手。
温かなその手を握り返せば、口角を緩く持ち上げた誠が、僕に優しい眼差しをくれる。
裏通り。そこから更に細い路地へと曲がって進む。
と、突然目に飛び込んできたのは──
「──!」
『 blueberry 』と書かれた、煌びやかな看板。
それを照らす、青紫の妖しげな光 光。
見上げれば、看板と同じ色の光を浴びる、ファンシーな──ラブホテルが。
「……」
怖い演出は多かったけど……切なくて、とても悲しい話だった……
想い合っていた二人が、古いしきたりのせいで引き裂かれ──良家の男は、跡継ぎの為に親の決めた娘と結婚。下人の女は、男を惑わす不届き者として、生きたまま井戸に突き落とされた。
……それを嘆いての、呪いだったなんて……
隣を覗き見れば、スクリーンから漏れる光が、誠の横顔を僅かに照らしていた。
映画館を抜ける。
ショッピングモールの眩い照明と:疎(まば)らに行き交う人々が目に入り、じわじわと現実感が帯びていく。
「この後、どうしますか?」
「……!」
直ぐ傍で声がし、一気に目が冴える。
見上げてみれば、誠との距離は意外に近くて……
『……ほら、お茶しながら映画の話で盛り上がれるでしょ』──脳内に響く、バイト先でのお客さんの声。それが僕の背中を押すものの……中々言葉が出てきてくれない。
数回瞬きをした後、腕時計を見た誠が穏やかな笑顔を浮かべて此方を見る。
「もう遅いですし。……帰りましょうか」
「………ぇ、」
もだもだする僕を見て、そう察したのだろう。気遣って貰えたのは嬉しい。……けど……
視線を逸らす僕に、誠が目を細める。
「……もし宜しければ、もう少しお時間頂けませんか?」
……何処へ行くんだろう。
湿気を帯びた、柔らかな空気。
雨上がりの濡れた道路を、車のタイヤが踏みつけていく。青から赤へと変わる信号。煌びやかなネオン。
ざわざわとした街の喧騒はすっかり装いを変え、行き交う人達の中には、見た事もない派手な格好をした人達が混じる。
……あ……
目の先に現れたのは、頭にネクタイを螺子巻いた酔っぱらい。
送別会だったんだろうか。居酒屋前には楽しく談笑する、花束を抱えたスーツ姿の男性と同僚らしき女性達。
「……あれぇ、こんな所に可愛い子ちゃんが歩いてる」
道を塞ぐその酔っぱらいが、おぼつかない足取りで僕の方へと近付いてくる。
不安に駆られる僕の手を、誠の手が攫った。
「行きましょう……」
安心させるかのようにキュッと握り、僕をエスコートしながら酔っぱらいをスッとかわす。
「……」
優しくて、頼りがいのある……大きな手。
温かなその手を握り返せば、口角を緩く持ち上げた誠が、僕に優しい眼差しをくれる。
裏通り。そこから更に細い路地へと曲がって進む。
と、突然目に飛び込んできたのは──
「──!」
『 blueberry 』と書かれた、煌びやかな看板。
それを照らす、青紫の妖しげな
見上げれば、看板と同じ色の光を浴びる、ファンシーな──ラブホテルが。