双葉の恋 -crossroads of fate-
「……やだ、」
指の間に感じる、硬いマリッジリング。
この行動を禁じるかのように、僕に痛みを与え続ける。
「……待って……」
このまま流されそうになるのを堪え、腕を引っ張って足を止める。それに反応した悠が、振り返った。
「……だ、駄目だよ、こんなの……」
俯いたまま、悠から手を引っ込めようとする。けど、それを許してはくれなくて……
正面に向き直った悠が、強く僕の手を握り込む。食い込むリングが……痛い……
「双葉……」
「──!」
突然──掴まれた手を、くんっと強く引っ張られる。蹌踉ける、足元。
咄嗟に目を:瞑(つぶ)れば、悠の胸の中にすっぽりと収まってしまい……
背中にもう片方の手が回され、懐かしい温もりに包まれる……
「どうしたんだよ」
背中に当てられていた手が、僕の後頭部へと移動し、優しく包み込む。肩口に引き寄せられ、感じる……悠の匂い。温もり。
心が、震える。
戸惑いながらも、身を委ね……心も身体も、次第に熱くなって……
「やっと、逢えたんだろ」
「……」
「やっと……」
トクトクと高鳴る鼓動。
整わない息を細く吸い込んだ後、落ち着かせるようにゆっくりと吐く。
脇腹辺りの裾を掴み、少しだけ後方に引っ張って、悠に拒絶の意を示した。
「……だめ」
「双葉」
「こんなの、駄目だよ……」
全てが、震える。
大きく息を吸い込み、今度は強めに悠を押し返した。
「……はな、して」
「ハァ……? 何でだよ!」
苛立った声。
離れようとする僕を許さず。僕の二の腕を強く掴み、眉間に皺を寄せた顔を近付ける。
もう片方の手は未だ繋がれたまま。離すつもりはないんだろう……余計に力が籠められ……
「……双葉、お前……」
鋭いながら、思い詰めたような瞳。
その瞳が僅かに揺れた後、苦しそうに伏せられる。
「まさか、お前………俺を、」
「──成宮さん!」
遠くから、僕の名を呼ぶ声。
それに反応し悠から視線を外せば、肩口の向こうに、片手を軽く上げる人物が映った。
真っ直ぐ此方に向かってくるその人物は……スラッと背の高い、スーツ姿の……
「──!」
その瞬間──僕の中で、終末の鐘の音が鳴り響いた。