これは、バームクーヘンエンドか Rain-拗らせた恋の行く末は…- スピンオフ


空気が、一瞬で変わる。
和やかだったそれは、メッキが剥がれ落ちるかの如く砕け散り、本来の姿が露わになったのを肌で感じた。

「本当に、嫌だと思ってた?」
「……」
「僕との事」

樹は、答えない。
あの時もそうだった。
困惑したまま、言葉を詰まらせて……

「……そう、だよね。真奈美に誤解されたくなかっただろうし。
──ていうか。いつから好きだったんだよ、真奈美の事」
「……」
「なぁ、樹」


「俺には……お前だけ、だったよ」

──ドクンッ


心臓がひとつ、大きな鼓動を打つ。
その瞬間──僕と樹の間に、懐かしい風が吹いた。

温かくて、擽ったくて……
心を悪戯に揺さぶる、樹の甘くて爽やかな匂い。
肩が触れ合った瞬間や、不意に肩を抱かれる度に感じた……樹の、心地良い温もり。


何処か寂しげながら……熱っぽい視線。
驚いて顔を上げれば、樹のその視線が絡まり、僕を捕らえて離さない。

「……」

瞬きの仕方なんて、忘れた。
解き方も、わからない。
解きたくない。
……このまま、もっと見つめ合っていたい。


樹──
好きだよ、樹……


「……」

何とか、言ってよ。

……どうしてあと一歩、踏み込んで来てくれないんだ……
僕の心を揺さぶるだけ揺さぶっておいて、また避ける気かよ……

『……愛月』

切なく潤む樹の瞳。
その綺麗なスクリーンに、懐かしい思い出が鮮明に映し出される──



「……愛月」
「ん?」

ミーンミンミン……

夏休み明け──残暑が厳しくて、まだ半袖シャツを着ていた頃。
樹が僕の傍に寄り、耳元でそっと囁く。

「………もし、このクラスに……愛月を好きな男がいたとしたら……どうする?」
「え、何ソレ。共学なのにホモなんていんの?」

純粋に。しかし嫌悪を滲ませた顔で、言い放つ。


『それ、キショいだろ』



「……」

──違う。
樹はちゃんと……伝えようとしてた。

『俺には…お前だけだ』──樹にとってあの言葉は、樹なりに一歩踏み込んだもので……
なのに僕は、それに気付きもせず……樹の想いを踏みにじってた。

「………」

言わなくちゃ……樹に。
僕の気持ちを、ちゃんと……


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