これは、バームクーヘンエンドか Rain-拗らせた恋の行く末は…- スピンオフ

テーブルに置かれた写真。
それを、徐に樹が拾う。

「………結婚、おめでとう」

喉奥から、何とか声を絞り出す。
樹を見上げる。キャップを外す事無く。

「式、行けなくてごめん」
「……いいよ。体調悪かったって、愛咲から聞いてたから」
「……」

何処までも優しい、樹。
穏やかな瞳が、真っ直ぐ僕に向けられる。


『俺には…お前だけだ』

あの頃の樹は、僕との距離はゼロだった。
いつも傍らには樹がいて──肩が触れ合ったり、不意に抱きつかれたり。
思わせ振りな台詞だって、何度も言われてたのに。

……何で気付かなかったんだろう。
何で……もっと早く、素直になれなかったんだろう……


「……大丈夫か? 奥さん、身重だろ?」
「うん。最近は匂いづわりのせいで、俺の匂いもイヤって、よく家から追い出されるんだよ」

困ったような顔をしながらも、樹の笑顔は……穏やかで、幸せそうで。

──完全に、惚気。

「……」

目を伏せ、俯く。
そんな樹の顔は見たくなくて、キャップのツバで覆い隠す。

「……はは。真奈美らしいね。
写真、見たよ。
人前式……意外と派手だったみたいだね」
「………うん」

相槌を打ちながら、静かに写真をテーブルに戻す。


「……なぁ、樹」
「ん?」
「……どうして、僕を避けたの?」

あの時……曖昧にしてしまった事をぶつける。
今更感は否めないけれど。

「僕が……キショいって、言ったせい……?」
「……」

樹の動きが、止まる。

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