第163幕
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お登勢の旦那の仏壇に供えたまんじゅうをじっと無言で見つめる。今では一つしか残っていないが、皿には六つまんじゅうがあった。
五つはそれぞれここにいるヤツらの胃の中へと収まっていた。
「銀ちゃん……」
「きっと大丈夫ですよ……海さんなら大丈夫です」
元気づけようとしてくれている新八をちらりと見るも、その顔は心配げに俯いていて、見てしまったこちらが今度は励まさなくてはいけない気がした。
「バカ言ってんじゃねぇよ。アイツなら大丈夫に決まってんだろうが。どうせ、そこら辺で迷子にでもなってんだろ。救急車に一緒に乗ってこなかったせいで、ふらふらどっか行っちまっただけだ」
だから心配ない。ひょっこり戻ってきたら叱ってやれ。と新八と神楽を励ますように言った。
自分の不安が彼らに伝わってないだろうか。いつもの様に平然とした態度を取れているだろうか。銀時は二人の顔を見ずに立ち上がる。そんなことを思いながら仏壇のまんじゅうへと手を伸ばす。まんじゅうに手が届くというところで一瞬躊躇ったが、すぐに手に取った。
「銀時様、これを」
「あ?」
「そのままではよろしくありません」
適当に袋にでも突っ込んでおこうかと思案している銀時にたまが包み紙を手渡す。その紙をもらってまんじゅうを包めば、たまは満足気に笑った。
「海様はきっと大丈夫です」
「なんなの?さっきからお前ら気にしすぎじゃない?そんなに海のこと心配かよ」
「ワタシラヨリ、オ前ガ心配ソウナ顔シテンダヨ」
腕を組んでふんぞり返っているキャサリンに指摘され、は?と首を傾げる。「コイツワカッテナイノカヨ!」とキャサリンに怒鳴られて益々疑問符を浮かべる銀時。
「銀時様、一度鏡を見てきてください」
「なんで」
「銀さん、ほら行ってきてください!」
「これから決戦アル!そんな腑抜けたツラじゃ敵に笑われるネ!顔洗ってくるヨロシ!」
「だから、なんなんだよお前ら!」
グッグッと背中を神楽と新八に押された銀時は洗面所へと追いやられた。出ようとした銀時を押し込んで戸を閉める神楽。バキッという音がした後に戸を開けようと引いてみたが、鍵が壊されたのか出られなくなってしまった。
「ったく……なんなの?アイツら。鏡見てこいだの、顔洗ってこいだの。俺の顔は何時でもイケメンですーっての。バカにしやがって」
はぁ、とため息をつきながら未だに手にしていたまんじゅうをしまうべく、懐に入れておいた海の上着を取り出す。
まんじゅうを包むために海の上着を広げる。その時ふわりと香る海の残り香に胸がチクリと痛んだ。
「どこに……いんだよ」
海の上着を抱きしめてぽつりと蚊の鳴くような声で呟いた。これで二回目だ。上着だけ残して本人が居なくなるのは。この間はすぐに居場所がわかったのに。
今回はきっと平子の元にいるのだろう。西郷の所の息子と同じように、人質として囚われているのかもしれない。
「必ず助ける、だから待ってろ」
強く上着を抱きしめてからまんじゅうを包んでまた懐へと戻した。
「……はっ……そりゃ顔洗ってこいって言われるわ」
気合いを入れ直すために顔を洗おうと洗面台に立ち、ふと見た鏡に映った自分の顔は、泣きそうに歪んでいた。
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