第162幕
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誰にも気付かれずに静かに海は先程まで居た建物に背を向ける。空はもう白んできていた。
次郎長によって牢から出された海は一人、人目のつかない道を選んで歩いていた。かぶき町はもはや安全な場所ではない。
次郎長に刺された脇腹と平子に斬りつけられた背中の怪我が完治していない以上、今はまだ斬り合いに巻き込まれる訳にはいかない。
『飽きるほど見回り行ってた甲斐があるわ……』
かぶき町ならある程度把握はしている。毎日毎日歩き回っていたおかげで、どの道を選べばいいかなど瞬時に判断できた。
『これしんどいな。誰がどう繋がってんのか分かんねぇから全員から見つからねぇようにしねぇと』
自分はお登勢の勢力側の人間として認知されている。そのため、残り三勢力からは狙われる身。勢力云々というよりも、真選組に所属しているのであって、かぶき町の人間ではないのだと言ったところで相手は、はい、そうですか。と聞いてくれる訳でもないだろう。
まず、そうやって逃げるという選択肢が海の中では見当たらない。かぶき町も守るべき場所。
お登勢や神楽、新八達がいる大切な場所。銀時の、大切な人の帰る場所。やっと出来たアイツの居場所を今度こそ無くすわけにはいかない。
『もう二度と……奪われるわけには……』
壁に手をつき、一息入れながら空を見上げる。白んでいた空はもう青く、太陽が顔を出していた。早くしなければ。
"明日にはお登勢の店を潰す。これはもう覆せねぇ。頼む、店を守ってやってくんねぇか"
『頼まれたんじゃやるっきゃねぇよな』
海に向けて頭を下げた次郎長はお登勢の店を守って欲しいと懇願してきた。自分ではもう守ることは出来ない。海が守っている間にやるべき事をする。
そのやるべきこととは何なんだと問い詰めたが、次郎長は頑として話すことはなかった。
守ってほしいというのであれば、守るしかない。そんなこと言われなくてもやっていた。お登勢の店が潰されるということは、銀時の家も壊されると同義。
『させるかよ……』
アイツらが、アイツが笑っていてくれるなら。
お登勢が刺されて絶望の縁に立たされたような顔をしていた銀時をもう見たくない。その思いで、海は開きかけている傷口を押さえながら店へと急いだ。
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