第162幕
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「残念だったなぁ」
『ほんとに。こんな狭苦しい所に入れられたんじゃなんも出来ねぇし』
「そうかいそうかい。暴れ馬には丁度いい枷になってるみてぇだな」
くくく、と笑う次郎長に海はむすりと拗ねた。次郎長と刀を混じえた時、タガが外れて本気で殺そうと思ってしまった。その時のことを暴れ馬と揶揄しているのだろう。
『悪かったな、暴れ馬で』
「若いのはすぐ機嫌が悪くなっちまう。血気盛んなのはいい事だが……あのやり方じゃお前さん死期が早まるぞ」
『気をつける』
「……ジジイの戯言だ」
海にも思うところがあるので、次郎長の言葉を素直に受け止めた。その素直さが次郎長には気持ち悪く思えたのか、素っ気なく返されてしまった。
『あんたなんでここに来たんだよ』
ふと、次郎長が何故ここに顔を出しに来たのかと疑問が浮かぶ。あの男たちが自分の様子を見に来たのであれば、次郎長はわざわざこんな所まで足を運ばなくていいはず。
確かにあのままあの男が海に触れていたら無事では済まなかっただろう。ならば、声をかけるだけかけてすぐに立ち去れば問題ないはずである。
なのに次郎長は今こうして海の前にしゃがみこんで他愛もない話を繰り広げているではないか。薄気味悪さ残る次郎長を凝視した。
「ババアの店は明日潰す予定らしい」
ぽつりと聞こえた言葉に海はハッと息を飲む。この男は今なんと言った?お登勢の店を潰す?あんな大怪我を負わせた挙句、帰るところまで無くそうというのか。
言葉の意味を理解した途端、ゆらりと海の双眸に怒りが宿る。ふざけるな、と次郎長の胸ぐらを掴んでやりたいところだが、生憎、腕は自由に動かすことが出来ない。
「俺を殴りたければ好きにしろ。と言いたいところだが、それじゃ殴るに殴れねぇか」
海が腕を動かす度にジャリッジャリッと鉄の鎖が音を奏でる。揺れ動く鎖を忌々しげに見つめる海の前で、次郎長は腰に差している刀の柄を掴み、鞘から刀身を抜いた。
キィンッという金属音が狭い部屋に響いた後、海の腕がだらりと下に落ちた。
自由になった腕に海は驚愕の色を示す。手首にはまだ枷がついているものの鎖はちぎれた。これならこの牢を出るのも、目の前にいる次郎長へ殴りかかろうとすることも出来る。
『なんで外したんだよ』
「なぁに、ジジイの気まぐれだ」
刀を鞘に戻しながら楽しげに笑う次郎長を訝しげに見つめる。人質の拘束を外そうなんてバカげている。それとも、自由にしたとしてもすぐに抑えつけることが可能だとでも言いたいのだろうか。
「ちと、頼みがあるんだがいいか?」
座り込む海と目線が合うようにしゃがむ次郎長。わけもわからず、つい反射的に頷いてしまいすぐに後悔した。
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