第162幕
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扉を開けて牢の中へと一歩踏み込む。廊下とは違って中は完全な闇。相手の様子を伺うどころか、人がいるのかも分からないほど。
「おい!蝋燭持ってこい!」
「あ、あぁ」
扉を開けた男が未だに座り込んでいる男へと、蝋燭を持ってこいと声をかける。声をかけられた男は慌てて廊下の蝋燭へと駆け寄って手に取り、男の元へと戻った。
蝋燭の火を突き出すようにして部屋の中を照らす。ゆらめく蝋燭の火の先に見えた鎖。その鎖を伝うように下へと蝋燭を向けると、そこには力なく項垂れている人の姿が見えた。
黒髪に白のワイシャツを着た者が膝立ちの状態で、両手首に付けられた手錠に繋がる鎖によって拘束されていた。
俯いているせいで顔までは確認出来ないが、雰囲気で男だと察した。
「なんだ男かよ」
「だから言っただろ。期待するだけ損だって」
「へぇへぇ。早くそいつの生存確認しろよ」
「俺がするのかよ」
相手が男だと知って興味を失った男は気だるげに扉へと寄りかかった。
「大丈夫か?生きてるか?」
繋がれている男の傍によって声をかけるも反応は無い。
俯く男の肩へと手を伸ばして揺さぶろうとした瞬間、廊下の方から聞こえた声に驚いて手を引っ込めた。
「おめえさんらここでなにやってんだ」
「お、親分!」
「こんな薄暗ぇとこで何やってんだ?」
「あ、えっと……」
しどろもどろに返事をする男たち。次郎長は男の横をすり抜けて鎖に繋がれている人物の前に立つ。
「お前さんらは上に戻ってろ」
「え、いいんですか?」
「ああ」
「じゃ、じゃあ……」
次郎長に出るようにと指示をされ、そそくさと逃げるようにその場を離れていく。男たちの気配が消えたあと、次郎長はぴくりとも動こうとしない目の前の人間を鼻で笑った。
「狸寝入りたぁ、不用心なことをするじゃねぇか」
『なんだよ。触ってきたら蹴り飛ばそうと思ってたのによ』
つまんねぇ。とニヒルな笑みを浮かべて海は次郎長を見上げた。
実の所、男たちが廊下に来た時から海は気づいていた。自分を拘束している鎖の音以外全くしないこの空間では、微かな音にも敏感になるというもの。
足音が聞こえた時は平子か次郎長かと予想していたのだが、どうにも歩き方の癖が違う。しかも何やら楽しげに話をしているではないか。
牢にいるやつにちょっかいを掛けてみようと誘う男とその話にあまり乗り気ではない男。徐々に近づいてくる話し声に海は悪戯心が芽生えた。
扉を見つめていた目を閉じ、身体の力を抜いて気絶しているように見せかけた。もし本当にちょっかいをかけてくるようであれば、この男共に足技をかけて昏倒させてやろう。あわよくば、そいつらが鎖を外す鍵を所持しているかもしれないという一縷の望みをかけて。
ただ、その願いは見事に次郎長によって砕けたが。
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