第162幕
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「なぁ、少しくらい手を出したって怒られやしねぇんじゃねぇか?」
「何バカなこと言ってんだよ、俺はやらねぇぞ?」
「んな事言って、てめぇだって"溜まって"んだろ?」
壁に備え付けられた蝋燭のか細い光を頼りに薄暗い廊下を歩く男たち。仕切りに背後を気にかけ、誰かに聞かれるまいと小声で話す男に、もう一人の男は呆れた表情を浮かべた。
牢に居るヤツの様子を伺ってこい。と次郎長の娘に言われた二人は命令された通りに牢へと向かっていた。
牢の中にいる人物の事については何一つ聞かされていない。ただ、生きているのか確認してこいと言われただけであって、それ以上のことをしてこいと言われていない。
男はそいつの事を見たらすぐに報告して持ち場へと戻る予定でいた。だが、隣を歩くヤツは何を期待しているのか、先程から鼻の下を伸ばして、嬉々として牢へと向かっている。
「なぁ、あんたもちょっとくらいヤッてこうぜ?」
「お前なぁ……牢に居るやつが女とは限らねぇだろう」
「ほんと夢のない話をするなぁ、お前はよお」
「牢の中に居るやつに夢をもつお前の方がどうかしてると思うけどな?」
素っ気なく返えされた男はため息をついてやれやれと首を振った。そんな態度をされれば気分も悪くなるというもの。じとりと男に冷たい目線を送り、もう静かにしろと一声かけて黙らせた。
「ここか」
廊下の一番奥。獣でも飼っているのかと思ってしまうほどの頑丈な扉。外側から中を覗く為の窓にも鍵が付けられていて、誰でも簡単に中を覗けるというわけではないらしい。
「とっとと確認してこんなところ早くズラかろうぜ。なんだか薄気味悪いったらありゃしねぇよ」
「そ、そうだな……」
男たちの声以外の物音が一切耳に入らない。自分たちの心音が聞けてしまうのではないかというくらい静かな場所。
予め次郎長の娘から受け取っていた鍵を懐から出して小窓の鍵を開ける。かちゃりと鍵を外す音が廊下に響いた。音に驚いてびくりと身体を揺らすと、隣にいる男がぶふっと吹き出して小馬鹿にするように笑った。
「別に悪いことしてんじゃねぇんだからそんなにビビるんじゃねぇよ。もしかしてお前、この牢の中に化け物でもいると思ってんのか?」
「そういう訳じゃない!そうじゃないが……」
嫌な感じがする。そう呟いた男に小首を傾げて訝しげな顔を浮かべた。
いつまで経っても小窓を開けようとしない男に焦れた。
「俺が確認してやるからお前はそこで大人しくしてろ!」
肩を押されてよろめき、地面に尻もちをついて痛みに顔を歪める。何年も使われていなかったであろう小窓は、錆び付いてしまったのかビクともしなかった。
「こうなったら扉を開けるしかねえな」
「扉を開けるのか!?そんなことして中のやつが襲ってきたらどうするんだよ」
「話を聞いたところによると、中のやつは怪我してるんだろ?そんなんで俺たちを殺ろうとしたって無駄だ」
座り込んだままの男の手から鍵を奪い取り、扉の鍵穴へと差し込む。二人はごくりと唾を飲み込んで扉をゆっくりと開けた。
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