第162幕
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「どうでした?ホレた女を斬った気分は」
「どうだったい?ジジババどもを思う通りに転がした気分は」
とある和室の一室に平子と次郎長は向かい会って座していた。次郎長がお猪口を手に取れば、流れるように平子が酌をする。
注がれた酒を一気に飲み干す次郎長をにこやかに見つめる平子。平子の煽りに対して次郎長が煽り返したが、平子はさして気にもしていないような雰囲気で笑っていた。
「そんな酷いですよー。ぜーんぶおやじの為を思ってやったことですよ?」
「お次は西郷使ってお登勢の店潰すらしいな。随分と無駄なことを」
西郷が黙ってお登勢の店を潰すことに同意するとは考えられない。となると誰かが平子に入れ知恵をし、西郷が首を縦に振らざるを得ない状況を作ったのだろう。
思いつくとしたら四天王が一人、華佗。あの女ならやりかねない。
「女ギツネにでもたきつけられたか」
「そんなことありませんよー。これも作戦の一つです。この街にはお登勢の息がかかった者がまだたくさんいます。これを機に連中を炙り出すつもりです。西郷もその一人」
「そううまくいくかねぇ。それに心配せずともあのババアの仲間なんざぁ、もうこの街にはいねぇ。番犬の鎖はもうちぎれた」
お登勢の用心棒をしていた男はあの雨の日に敗れた。守るべきものを守れなかったことは彼にとってとてつもない精神的苦痛となっただろう。
「他には手を出すなというお登勢との約束を守りたいんですか?ムダですよ?鎖なんてはなからあの人にはついちゃいない。あれが他人の鎖に繋がれるような忠犬に見えましたか?兄貴は必ず来ますよ。あの人には来る理由があるんですから」
フフフ、と妖しく笑う平子に次郎長は鋭い眼光を向ける。銀時は必ず来るだろう。失ったものを取り戻しに。
「おめぇさん、あいつを囮にしたのか」
「囮だなんて。姐さんを有効活用するだけですよ。兄貴にとって姐さんはかけがえのない存在。そんな姐さんが拉致されたとなれば、兄貴はどんな手を使ってでも必ず助けに来ます」
微笑みを浮かべる平子の瞳はただただ底なしの暗い闇。自分の利益の為なら汚い手でも使うその姿勢。
そんなもの何処で身につけてきたのか。長く会わない間にこんなにも歪んでしまったのか。次郎長はなんとも言えぬ感情に苛まれた。
この建物の牢で鎖に繋がれている海。囚われの身と化してる海を救いに来ようとしているであろう銀時。
この戦争に巻き込むまいと行ってきたことが無駄になりつつある。
次郎長はお猪口に注がれた酒をじっと見つめる。どこで道を間違えたのか。考えても、その先は真っ暗な闇しか見えなかった。
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