第161幕
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墓場に響き渡る刀の混じり合う音。白夜叉とは違う剣技と攻防に次郎長の額には汗が伝った。
「こりゃたまげたな」
かつて自分も戦争に参加していたが、こんな奴はいただろうか。
防戦一方の次郎長へと畳み掛けるように刀を振るい続ける海。その目は怒りで我を忘れ、獰猛な肉食獣のようにギラついてた。
『お前が……お登勢さんを……』
「手加減なんざしてたらおいらが斬られちまうか」
海によって着物は至るところが切れている。何とか寸前で避けてはいるが、このまま避けきれるかも怪しいところ。
彼の剣を振るう速度は落ちるどころか上がっている。目にも止まらぬ速さとはこういう事をいうのかと次郎長は一人笑った。
「この街の戦争はもはや止められねぇ。お前さんらがいくら頑張ったって無理なもんは無理だ」
『ぐっ……』
「大人しく出ていけ」
海の刀を止め、がら空きになった腹部へと蹴りを入れる。後ろへと吹き飛ばされて壁へ激突した海が尚も立ち上がろうとするのを阻止するべく、海の脇腹へと刀を突き刺した。
「しめえだ」
『まだ……終わってねぇ……』
「そんな体で何ができるってんだ」
刺された脇腹から血を垂れ流しながら立ち上がる海。立ち去ろうとした次郎長が海へと振り返る。
『まだ終わってない、よなぁ?』
「お前さん……!」
楽しげに笑う海。怒りや憎しみなどではなく、ただ純粋にこの斬り合いを喜んでいるかのような顔に次郎長は戦いた。
『…………ぎん』
一言、呟いた海に次郎長が訝しげな顔を浮かべる。襲いかかって来るだろうと身構えたのだが、海は一向に来ない。
やっと海が動き出したかと思った矢先、ふらりとその体が傾いて地面へと倒れた。
「危なかったですねー。姐さんがこんなに強いなんて誤算でしたー」
「お前……なんでここにいやがる」
「そりゃ答えは一つですよー」
海の後ろから出てきた平子は血にまみれた小刀を鞘へと収め、近くにいた手下に目配せした。
「姐さんを人質にすればお登勢の勢力を炙り出せます」
「ふん。こいつなんかで出せるわけが無いだろう」
「この人、とーっても顔が広いんですよー。兄貴みたいに。色んな人に優しいから」
手下が海を引きずっていくのを見つめる平子。
「ホント、優しすぎて……困っちゃうくらい」
ケーキ屋でくれたモンブランも、乾物屋で自分を守ってくれたことも忘れてはいない。だが、次郎長を頂点にするのに邪魔になるというなら排除する。
「姐さんが傘下に入ってくれたら良かったのに」
入ってくれと頼んだ時のあの目。騙されたと気づいていても平子に向けることのなかった敵意。
一層のこと、次郎長に向けたように自分にもその目を向けてくれたなら。迷うことなく彼の心臓をこの小刀で貫いたのに。
「残念……だなぁ」
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