第157幕
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「なぁ、海。もしも、もしもよ?」
『なんだよ』
言いづらそうに口ごもる銀時に海は顔を上げて銀時を見やる。泳いでいた銀時の目が海の目で止まり、絞り出すかのような声で続きの言葉を紡いだ。
「海に渡した指輪を……売るってなったら……海はどうする?」
『…………は?』
「だから、その……」
眉間に深い皺を寄せる海に銀時は顔を伏せる。暫しの沈黙の後に海が小さく呟いた。
『俺は……貰った身だから何も言えねぇけど……』
「……うん」
『これは大切なものだから失くしたくない』
「うん」
『もし、困ってるっていうなら手は貸す。だからこれだけは……嫌だ』
指輪がある胸元をぎゅっと握って海は俯きながら苦しげに訴える。
銀時は海の言葉に心底安心したような顔をして微笑んだ。
「うん。良かった」
『何がだよ……』
「嫌がってくれて良かったってな」
『普通は嫌がるもんじゃねぇのかよ。俺がただ女々しいだけかもしんねぇけど、大切なもんには変わりねぇし。銀からもらったものだから……』
「うんうん。昔あげた御守りを大事に持ってるくらいだもんな」
『は?なんでお前知って……』
驚いて俯いていた顔を上げる。目に入るのは優しげな笑みを浮かべる銀時。
「海が高杉に連れ去られた時にな。隊服だけ返されてよ、その胸ポケットから出てきた」
確かに今も海の隊服の上着の胸ポケットには御守りが入っている。子供の頃に名も知らぬ神社で銀時が買ってきた御守り。
それを今でも離せなくて持ち歩いている。
『しょうがない……だろ』
「もらったものは大切にしなさいってか?」
『……うっせぇ』
恥ずかしさで赤くなった顔を隠すように銀時の肩へと額を乗せる。耳元で聞こえてくる微かな笑い声に益々赤くなる頬。
「ありがとな、海」
『礼を言われることは何もしてない。つか、指輪を売るために質屋見てたのかよ』
「うん?売るわけねぇだろ?あれは……ちょっとな」
海が来る前に銀時が見かけた二人組。思い詰めた顔で質屋に入っていった二人はどうなったのか。
『銀?』
「……ちょっと、な」
自ずと海を抱く腕に力がこもる。彼らが指輪を手放した理由はなんであれだ。大切なものを失う辛さをキャサリンに味合わせたあの男。
「(何もなけりゃいいんだけどな)」
何も無ければいい。そう願いながら銀時は降り続ける雨を見つめた。
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